『25年のトップソムリエ経験に裏付けされたワインリストの考え方』セミナー

『25年のトップソムリエ経験に裏付けされたワインリストの考え方』セミナー
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2015年10月5日に「若手ソムリエ応援プロジェクト」の一環として実施しました『25年のトップソムリエ経験に裏付けされたワインリストの考え方』セミナーの内容をご紹介いたします。講師は、リストランテ クロディーノの黒田敬介オーナーソムリエです。


★ 講師プロフィール ★

1989年渡伊し、1991年フィレンツェのリストランテ・エノテカ・ピンキオーリのオーナー、ピンキオーリ氏に従事する。店名の「クロディーノ」は初めて会ったその日に彼から付けられた“クロディーノ=黒ちゃん”という愛称から。
1992年エノテカ・ピンキオーリ東京のオープンより2010年に約20年の歴史に幕を閉じるまでシェフソムリエとして活躍。
2011年6月「リストランテ クロディーノ」を銀座にオープンし、現在では神楽坂も併せ2店舗を経営する。約2000アイテム、合計約40万本を抜栓した経験を持っている。

【ピンキオーリ時代に培われたオーナーソムリエとしての核】

ピンキオーリで働くことになったきっかけは、イタリア滞在中に電話で一緒に働かないかとオファーを受けたことから。 ピンキオーリでは、以下のような日課をこなしていた。

① 常にワインのテイスティング

フィレンツェのピンキオーリでは毎日昼と夜の食事でワインが数本出て、ワインと食事を合わせるブラインドテイスティングを行っていた。当たり前だが、ソムリエは常にワインに携わらなければいけない。

② ワインの情報を仕入れる

1992年に東京店をオープンしてからの20年間は非常に過酷で、営業後に毎日ピンキオーリ氏と電話でワイン市場や現状、日本のマーケットなどについて情報交換を行っていた。それほどワインの情報を取ることは重要なこと。特に世界中のワインが氾濫している現在、誰よりも早く良いワインの情報を仕入れて自分の店で扱うことが重要になる。そうすればお客様に納得して飲んでもらうことが出来る。つまり、セールスであり、マネージメントの要素であるが、これから先ソムリエにはお客様に味わいを説明するとか賞で勝つといったワインを見極める技術はもちろん大切だが、それ以上にお店への貢献や売上を考える“経営視点”を持つ必要があると考えている。

③ ワインセラーを毎朝チェックする

ワインセラーは自分の子どものようなもの。お客様に美味しいワインを提供するには欠かせない。もし状態不良のワインを提供してしまったら、お客様を幻滅させ、自分がコツコツ積み上げてきたものが一瞬でなくなってしまう。生産者・インポーターにも失礼にあたる。

④ セラーに保管しているワインの状態をチェックする

若いヴィンテージについてはそれほど気にする必要はないが、オールドヴィンテージになってくると、コルクが細くなったり カビが生えたりなど色々な状態が出てくる。ワインは勝手に成長(熟成)していくものだが、常に見ていてあげなければ良い方向に成長できない。ワインとのコミュニケーションが必要で、最高の状態で提供するのが理想である。

具体的には、1本1本確認し、古いヴィンテージだとコルクが縮んで落ちてしまったりするので、少し瓶を動かしてあげる。 もちろんワインは開けてみないと分からないものではあるが、キャプセルを回してみてワインが噴いていないかなど確認できることもある。悪くなる可能性があるワインは早めに使ってしまうのも重要。

⑤ ワインの在庫管理

経営者的に言えば、ワインはキャッシュフローであり、うまく回していかなければならない。間違えてしまったら損となる。そのため、寝かしているワインは1年間に1本ずつ開けるなど定期的にチェックする必要がある。私はこれまでの経験から、「この生産者のこのヴィンテージ&銘柄のワイン」は今どういう感じなのかは予測して把握できるが、もし出来ないのであれば定期的に開けて確認した方が良い。早飲みのワインの場合は、どのタイミングでどう使うか(グラスワインで使うか、オススメワインとして使うか 等)を考える。

⑥ ワインリストを常に管理

いつも同じワインリストだとリピーターのお客さまにとって面白味がない。お客様の好奇心を満たすためには、ワインリストを更新していく必要がある。ワインを増やすのではなく回転させること。

⑦ お客様にどのようなワインを販売するかイメージする

売りたいワインをどのようにお勧めするのか、押し売りをするのではなくお客様のお好みを汲み取って喜ばせるイメージを持つ。

ワインを選ぶ時にも考えるのはワインの品質とお客様のこと。品質が高いことは もちろんで、それ以上にこのワインだったらあの人に勧められるな、とお客様の顔を考えながら選んでいる。そうすることで、顧客満足度を高めることにつながるし、あそこに行けば美味しいワインを用意してくれるという信頼感につながる。

⑧ 家に帰ってから1日の復習を行う

ソムリエにとって最も大切かもしれない。お客様の反応を思い返して、自分の対応は良かったのか悪かったのかを振り返る。得てして自分が考えることとお客様が考えることは違うので、どうやってお客様の考えに近づけるかを日々考える必要がある。

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【クロディーノのワインリスト】

エノテカ・ピンキオーリでは、いわゆるグランヴァンが毎晩4~5本は開いていた。ロマネ・コンティが月に1本、ペトリュスが月5本とか開くような時代だったが、そういう時代はもう終わり。これからの時代を見据え、クロディーノでは以下のようなワインリストを作成している。

約500アイテム、世界13ヶ国のワイン

イタリアンレストランなのだからイタリアワインだけを置くことも考えたが、当時たくさんの試飲会に行ってデイリーワインを片っ端から飲んだところ、イタリアワイン以上に他国のワインのレベルが高いことに衝撃を受けた。こんな状況でイタリアワインだけの店としたら大変なことになるだろうと考え、経営を軌道に乗せるためにも世界各国のワインを扱うことに決めた。ピンキオーリでも十数カ国のワインを扱っていたため躊躇はしなかった。

コストパフォーマンスを重視

ピンキオーリでは世界中のトップと言われるワインを扱ったが、クロディーノではコストパフォーマンスが高いワインを取り扱いたいと考えている。コストパフォーマンスが高いワインをどれだけ探して、どれだけお客様に提供できるかが勝負。クロディーノのワインリストの価格は、下手をすればインターネットより安いものもあるが、それは色々なところにアンテナを張って情報を拾っているから。フィラディスの案内についても営業中であろうが必ず目を通すほど、ワインリストの構成に全力を注いでいる。

地域別ではなく価格帯別

クロディーノのワインリストは、スプマンテ、シャンパーニュ、白ワイン、赤ワイン、デザートワインの順番に構成されており、それぞれの種類を産地にこだわらず価格別に並べている。これは、経験上お客様がワインリストを見る際に金額で選ぶことが多いため。「このページ(価格帯)でおすすめを教えて」とスマートにご予算を伝えていただける。更に、葡萄品種、年代と国まで記載してあるのでお客様ご自身でワインを選びやすいというメリットもある。つまり、“お客様目線”を重視したリストであり、ソムリエとしての満足度ではなくお客様を喜ばせるためのリストだと言える。

但し、高価なワインについては、選ぶお客様はある程度慣れている方が多いので国別のワインリストを用意している。ワインを知っている人は自分で勝手に選びたいものだから、自由に選んでいただく。

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豊富なアイテム数

銀座店は24席しかないが、500アイテム以上の種類を揃えている。経営者としては在庫を抱えることになるしキャッシュフローを回しづらくなるので良くないのだが、お客様のことを考えると選ぶ楽しみを残しておきたい。また4000円のボトルからロマネ・コンティまで幅広くオンリストするのは、エノテカ・ピンキオーリ時代のお客様にも幅広く対応するためでもある。

グラスワインは常時20種類を用意

グラスワインはリスクも高いが利益も高い。また、ピンキオーリ氏と情報交換をする中でも、ルイ・キャーンズ(モナコ)や世界中の一流レストランでグラスワインが伸びているという話をよくしていたが、それが今のお客様の指向なのだと思う。私の場合はアイテム数を増やしてお客様がワインを楽しめるようにしている。ペアリングを提供するお店も増えたがとても良いことだと思う。

基本的には、ブドウ品種が重ならないように用意するが、その時の料理の内容・ワインの状態によっても異なってくる。お客様のご予約状況によっては、そのお客様に対してのワインを事前に準備することもある。最近では抜栓してから4~5日経っても問題ないワインも多いので、出来るだけそういう酸化しづらいワインを見つけてオンリストすることでリスクを減らしている。

常に変化する時代のニーズを捉える

今後5~10年後にはレストランはまた変化していくだろうと思う。その変化をしっかり見つめて時代のニーズに合ったことを行うことが大切。今、ワインを飲めない人も随分増えてきている中で、クロディーノがワインリストに特化していたのは良くなかったと思う。今後はジュースなどワイン以外の飲みものも揃えていこうかと考えている。

【独立を目指す人へメッセージ】

一番大切なのは、顧客を持つこと。それが独立への近道だと思う。いい料理を出す、いいワインを出す、と自負していても、お客様で分かってくれる人はごく一部だと思った方がよい。では、それをどうやって世の中の人に知ってもらうかと言うと、自分のことを知ってくれているお客様から発信してもらうのが最もパワフルな方法だと感じている。

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熟成ワインの魅力(後編)

熟成ワインの魅力(後編)

前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

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熟成ワインの魅力(前編)

熟成ワインの魅力(前編)

「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

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