ボルドー型、ブルゴーニュ型・・・『○○型ワイングラス』は、本当にそのワインに最適な形なのか?(リテール事業部 五十嵐 祐介)

ボルドー型、ブルゴーニュ型・・・『○○型ワイングラス』は、本当にそのワインに最適な形なのか?(リテール事業部 五十嵐 祐介)
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株式会社フィラディスのインターネットストアを運営している、リテール事業部の五十嵐と申します。 今回は、レストラン様も一般消費者も非常に強い関心を持っていらっしゃるワイングラスを取り上げます。テーマは、「ボルドー型グラスやブルゴーニュ型グラスが、本当にそのワインに合っているのか?」です。昨今グラスメーカーが意欲的に提案している『ワインの香り・味わいとグラス形状の関係性』について、客観的に検証した実験結果をご報告します。


当たり前のように使っているボルドー型グラスやブルゴーニュ型グラスですが、本当にそれぞれのワインの個性・実力を最大限に、いや、それ以上に引き出すことが出来るのでしょうか・・・???

【味覚の仕組み】

実験レポートの前にまず、人間の舌がワインの味わいを捉える仕組みについて改めて確認しましょう。

● 口中での味わいの捉え方

『味覚地図』というものを見たことのある方も多いかと思います。

下の図のように、舌の先端部分で甘味を感じ、その横で塩味、横側で酸味、付け根部分で苦みを感じるという、「味を感じる神経は、味の種類ごとに分かれて分布している」と説の基本となっていたものです。ですが、この学説は誤りとして1990年代前半には否定され、各グラスメーカーがワイングラスの形状設計する根拠からも既に外されました。

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現在は、「味蕾(みらい)」と呼ばれる基本五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)全てを感じ取る組織が舌・上下の顎部分、喉の奥まで広く分布し、口の中全体で味わいの全要素を総合的にキャッチしていることが分かっています。

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それを踏まえた最新のワイングラス企画設計は、味わいの感じ方の観点で以下の2つを判断要素と考えているそうです。

① 口径の広さ

② 最大径と最小径の差

①はとてもシンプルに「グラスの口の直径が広いか狭いか」です。口径の広いグラスを口に付けると口唇は横長に広がります。つまりワインが口中に流れ込む横幅が広くなり、口の中全体に広がりながらゆっくりと流れ込みます。一方で口径が狭いグラスでは、口をすぼめて飲む形になるため、ワインの液流は細長く舌の上をストレートに流れ込みます。

そして②「最大径と最小径の差」は、ワインを飲む際にグラスを傾ける角度を変化させます。 ボルドーグラスは一番太い部分と飲み口でそれ程大きな口径差が無いので、グラスを水平くらいに傾ければワインを簡単に口の中に運ぶことが出来ます。だから、ゆっくりと口中にワインが流れこみます。

一方で、大ぶりのブルゴーニュグラスは一番広い部分と飲み口の口径差が非常に大きいので、グラスを水平以上に大きく傾けないとワインが口の中に入って来ません。角度が付く分液流の 速度は早くなり、口中での滞留時間が短くなります。(※この比較は、ワインを口の中で転がすように飲むときには当てはまりません。)

この2つの要素を複合すると・・・

・飲み口が広く口径差の小さいグラス(ボルドー型)は、ワインが口の中全体にゆっくりと広がって行く

・飲み口が窄んでいて口径差の大きいグラス(ブルゴーニュ型)は、ワインが細く直線的に素早く流れ込み、全体には広がりにくくなる

この2種に生じる違いは、「口中の滞留時間≒温度変化」です。

そして、グラスをスワリングするのはグラス内の液温を上昇させて香りを立たせる意味があることと同様に、ワインが口の中に入ってからの温度変化によっても香りや味わいが変わるはずです。

そしてそのロジックから、

☆ ボルドー型は口中滞留時間を長くしてワインの温度を上げ、タンニンをまろやかにし、凝縮感を楽しませる

☆ ブルゴーニュ型は口中滞留時間を短くしてワインの温度変化を防ぎ、酸のフレッシュ感・エレガントさを保持する

という「型」が設計された、ということだそうです。

● 香りの捉え方の違い

また、グラス設計のもう一つの根拠として「香りの立ち方」があります。

☆ 縦長・細い形状のボルドーグラスは、複雑で要素の多い香りが直線的・段階的に現れるように

☆ 金魚鉢の様に球体に近く口細のブルゴーニュグラスは、繊細・華やかな香りを中に滞留させゆっくり堪能できるように

こちらも、それぞれのワインの「香りの醍醐味」的なポイント楽しめるように企画設計がされている、ということです。

今回のグラス実験は、この「香り・味わいの違いを際立たせるための設計」が正しいか、を検証することとしました。それではいよいよ、今回の実験結果についてレポートさせて戴きます!

【実験概要】

● 検証テーマ

A. 「ブルゴーニュ型グラス」は、ブルゴーニュワインとどう合うのか?」

B. 同様に「ボルドー型グラス」は、ボルドーワインとどう合うのか?」

それぞれのテーマにつき、そのワインが本来持っている「良さ」が一番良く表現されるグラスを選ぶ。

● グラスの種類

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① INAOグラス(基準): フランスの国立原産地呼称研究所が認定したテイスティンググラス

② ブルゴーニュ型グラス(小サイズ)
東洋佐々木ガラス 「ディアマン」シリーズ RN-11285CS φ74×H212・M111mm 730ml

③ ブルゴーニュ型グラス(大サイズ)
東洋佐々木ガラス 「モンターニュ」シリーズ RN-12285CS φ76×H252・M122mm 920ml

④ ボルドー型グラス(大サイズ)
東洋佐々木ガラス 「ディアマン」シリーズ RN-11283CS φ69×H224・M96mm 600ml

● 実験の方法と使用したワイン

今回の実験は以下の3フライトに分け、計8種類のワインで実施しました。

フライト1 : ブルゴーニュワイン(Cotes de Beaune/Cotes de Nuits/熟成ブルゴーニュの3種)

フライト2 : カベルネベースのボルドー(3種)

フライト3 : メルロベースのボルドー(2種)

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・ひとつのワインを4種類のグラスに入れ、香り、アタック、味わい構成・バランス(甘さ、酸、タンニン)を比較検証する。

・各グラスに注ぐワインの量は「グラス形状毎に適正と思われる量」とし、同じ容量ではない。

・フライトごとに全てのワインを試飲し終わった段階で、各形状のグラスについての意見結果を集約。

【実験結果】

● フライト 1: ブルゴーニュワイン3種

試飲ワイン① 2013 Beaune Bressandes / Butterfield [若いブルゴーニュ、Cote de Beaune]
試飲ワイン② 2013 Vosne Romanee Suchot / Richard Maniere [若いブルゴーニュ、Cote de Nuits]
試飲ワイン③ 1993 Vosne Romanee Suchot / Dupont-Tisserandot [熟成ブルゴーニュ]

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≪フライト1 まとめ≫

* INAOグラスは「要素を素早くダイレクトに、こじんまりとまとまって感じる」という意見が多かった。飲み口から液面が近いこともあり、各要素をシンプルに捉えやすい。これは以降のフライトでも同様。

* ブルゴーニュ小は、ブルゴーニュワインの「チャーミングさ、エレガントさ、柔らかさ」を引き出すグラスと位置付けられた。ワインにそういった要素を求めるならば、ブルゴーニュ大よりも良い、という意見もあり。

* ブルゴーニュ大は、「アロマの広がり・複雑性・官能性・余韻の長さ」を引き出す。上質なブルゴーニュワインの場合その力を強く発揮するが、若いブルゴーニュだとフレッシュ感がやや感じにくくなる。

* ボルドーグラスは、「タンニン・凝縮感」が強調される一方で、「甘やかさ・旨味・余韻」を引き出す。アロマの面では縦に細長いグラス形状のため香りが上向き・直線的に放出されてぼやけてしまい、ブルゴーニュの醍醐味に欠ける。

● フライト 2: カベルネ主体ボルドーワイン3種

試飲ワイン① 2012 Ch. Petit Freylon Cuvee Sarah [若いプティシャトー]カベルネ・ソーヴィニヨン75%、メルロ25%
試飲ワイン② 1995 Ch. Pibran [熟成ボルドー] カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、プティ・ヴェルドのブレンド 比率非公開
試飲ワイン③ 2004 Ch. Gruaud Larose [熟成ボルドー] カベルネ・ソーヴィニヨン58%、メルロ33%、カベルネ・フラン5%、プティ・ヴェルド3%、マルベック1%

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≪フライト2 まとめ≫

* ブルゴーニュ小は若いワインでは各要素の「ばらつき・ちぐはぐ感」が目立った。しかし②③の熟成ワインではタンニンよりも酸・果実味をエレガントに引き出してくれ、タンニンの強さが好みでなければこれで飲むのもあり、という意見も。

* ブルゴーニュ大は①②のワインについては小と同意見だったものの、③のグリュオー・ラローズ2004では各要素が急激に拡散してバラけてしまった印象。複雑性が高く各要素の多いワインには向かないのか?という見解。

* ボルドーグラスはやはり「タンニン・力強さ・凝縮感」という、ボルドーワインに求める要素がきちんと引き出される。プティシャトーにも高級感や落ち着きを演出し、熟成した2本では「複雑な要素を上手く統合」していた。

● フライト 3: メルロ主体ボルドーワイン2種

試飲ワイン① 2013 Fleur de Clinet [メルロ95%、カベルネ・フラン5%]
試飲ワイン② 2011 Alter Ego de Palmer [メルロ48%、カベルネ・ソーヴィニヨン37%、プティ・ヴェルド15%]

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≪フライト3 まとめ≫

* 全体的に好意的な評価が多かった。

* ブルゴーニュ大小はカベルネ同様に「果実のフレッシュ感・チャーミングな躍動感・甘やかさ」を引き出している。

* ボルドーグラスは、メルロ95%の①では滑らかさを感じるもののやや開き過ぎた印象も受け、もう少し小さめのグラスの方が良いという意見もあった。一方、メルロ比率が半分程度の②は理想的な状態で、ボルドー本来の醍醐味が楽しめた。メルロ比率の高いワインは、柔らかさや果実味を引き出すブルゴーニュグラスでも楽しめるのではないか。

● 総括

☆ ブルゴーニュグラスは『拡散』のグラス。ワインの持つ要素を外に外に引き出す「演出家」的なグラス

☆ ボルドーグラスは『集約』のグラス。ワインの持つ様々な要素を統合し、内に凝縮させる「まとめ役」

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それぞれのグラスは、各産地のワインが持つ特性・スタイルを引き出す上で“一定の正しさ”は備えています。

単一品種でそのワインのテロワール・原料ブドウのポテンシャルが試されるブルゴーニュは「要素を引き出す」グラスに、複数品種のブレンドにより様々な要素が絡み合うボルドーでは、数多くの要素を「まとめて集約する」グラスに。グラス形状による香りの立ち方・閉じ込め方や、温度変化による香り・味わいの変化、その基本ロジックをベースに、各グラスは正しく設計されているのだと言うことを確認できました。

【実験を終えて】

今回の検証結果でフィラディスが上記の総括に付け加えたいのは、

「自分がそのワインに対して“求めるもの”」によってワイングラスを使い分けるのも有効、ということでした。

例えば、若いブルゴーニュワインで果実の純粋さ・エレガントさ・華やかさを楽しみたいのならば、大ぶりのブルゴーニュグラスよりも少し小ぶりなグラスの方が良い。一方で、同じワインでも複雑さや甘やかさを引き出したいのであれば大きめのグラスを。赤ワインなのだからタンニンも十分に楽しみたいのならば敢えてボルドーグラスを、という選択肢も決して無いわけではない、ということです。

味わいスタイルによって様々な形状に設計されて、便宜上「○○型」と名付けられたワイングラス。その形状が挽きだす要素の特徴を深く理解していれば、「○○型」という制約から自由にはみ出して、もっと面白いワインの楽しみ方が見つかるのかもしれません。

● 一般のお客様はどう感じるのか?

最後に・・・先日、同様のグラス実験を弊社インターネットストアの一般のお客さま20名とも実施しました。その際、ブラインドで1種類のワインをボルドーグラス・ブルゴーニュグラスに注いてテイスティングをしていただいたのですが、殆どのお客さまが2つのワインは全く違うワインであると誤認しました。

使用したのはボルドーワインでしたが、大部分のお客さまが「ブルゴーニュグラスに入っているのはブルゴーニュワイン」だと認識したのでした。そして、その2つのグラスとINAOグラスの3種類に「グラスワインとしての価格を付けてみてください」という質問をしたところ、同じワインにも関わらず殆どの人が3つのグラスに全く異なる価格を付けたのです。なんと、INAOグラスだったら500円、ブルゴーニュ大グラスだったら1,500円でも納得、という方もいらっしゃいました!

グラスの「○○型という名前」にだけ縛られていると、本当に求める美味しさから遠のいてしまうこともあるかもしれません。飲む人の好みを本当に把握し、そのワインを楽しんで頂く時に最もふさわしいグラスをチョイスすることが、究極のグラス選び、なのではないでしょうか。そしてそれが時に、新たな価格価値を創造し、ビジネスチャンスを拡大する可能性だってあります。

サーヴィスの中でのグラス選び、今日から「○○型」という考え方から少しだけ自由になってみてはどうでしょう?

≪ご協力≫

東洋佐々木ガラス株式会社

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