<フィラディス繁盛店インタビューNo.6>La TRIPLETTA 太田 賢二オーナー

<フィラディス繁盛店インタビューNo.6>La TRIPLETTA 太田 賢二オーナー
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東急線武蔵小山駅から徒歩2分の路地裏に店を構えるのが2014年2月にオープンしたピッツェリア『ラ・トリプレッタ』だ。当店のウリは何といってもオーナーでピッツァイオーロ(ピッツァ職人)太田賢二さんの焼くナポリピッツァであり、オープンから1年でミシュランのビブグルマンを獲得するという快挙を成し遂げている。 今回は、33歳という若さで繁盛店のオーナーとして活躍する太田氏にお話を伺い、人が集まる店舗を生み出す仕組みと秘訣を考えていく。


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自分の思い通りに生きるために仕事を支配する

太田氏が自分の店をやりたいと思い始めたのは17歳の頃。漠然と、 働かされているようで楽しくなさそうなサラリーマンにはなりたくないと考え、自分の好きなことをして思い通りに生きるには、仕事を支配すればいいと決意した。そして何をしようか考えていた時に、イタリアのバールでサッカーの試合を観戦する人たちが目に入った。知らない人同士で抱き合いハイタッチして喜び合う姿・・・これこそ自分が求めるものだ、こういう場を作りたい!と思い、イタリアのバールのイメージからイタリア料理に興味を持ったのだという。そして、店をやるからには現場に出て料理が出来なきゃいけないと、20歳の時に大学を辞め料理の道に入った。

とにかく早く自分の店を持ちたかった太田氏は、29歳で独立して、30歳で結果を出すという目標を定めた。そうすると、当時シチリア料理、トスカーナ料理・・・など細分化されてきていたイタリア料理で一流になるには時間が足りない。そこで何か一つ武器になるものをやった方が良いだろうと考えて好きだったピッツァを選択した。

最初は軽い気持ちだったそうだが、中目黒のサルヴァトーレに入って実際にピッツァに触れると、これがとんでもなく難しく、出来ないことが悔しくて練習するうちにピッツァの奥深さにのめり込んでいった。そしてイタリア、ナポリのリストランテ・ピッツェリアの名店『マリーノ』でも修行を積み、日本の南青山『ナプレ』でピッツァイオーロとして働いた後、本当に29歳で『ラ・トリプレッタ』を開店させるに至る。

これからのイタリア、これからのナポリ

『ラ・トリプレッタ』の特徴として最も大きいものが、“パスタがない店”であること。パスタをやらないと決めた経緯から、太田氏の柔軟な判断力と情熱が垣間見える。

2000年代後半くらいから、いわゆるファーストフード的なピッツァがメインの店が日本に増え始め、その後にナポリそのままの雰囲気の良店トラットリア・ピッツェリアが増えていった。太田氏もそんな先輩たちに続きたいと思う一方で、ただ同じことをやるのはどうなのか?今から店を出す次世代とも言える自分たちの世代がナポリと全く同じようにやるのが果たして良いことなのか?という疑問が浮かんだ。

当時働いていた『ナプレ』は88席もある大きな店だったが、例えばランチではお客様はパスタかピッツァで分かれる。自分が頑張れば頑張るほどピッツァを食べるお客様が増え、パスタが出なくなる。パスタとピッツァで食い合うのはいかがなものか。

また、世界的な食事文化の潮流に見られるように、イタリアでも食事の量が減ってきて、全体的にライトだったり、前菜ではなくサラダを食べるようになったり、というように変化してきている。日本でお客様をもてなす際にも、前菜数皿にピッツァ、パスタ、魚料理、肉料理のフルコースでは量が多すぎると感じていた。

更に、パスタを含めたフルコースを用意するのが“伝統”だという考えもあるかもしれない。しかしピッツェリア自体、昔は人が売り歩いていたものが、店前で食べられるようになり、椅子がついてテーブルがついて・・・と出来ることから進化してきた。そしてピッツァだけというところから、フリットとサラダが出来るようになって、サラダもバリエーションが少しずつ増え、生ハムがつき、ブレザオラ(牛肉の塩漬け)をやるようになって、と変化し続けている。それこそが伝統ではないか。

であれば、自分たちも出来るところからやろうと考えた。まず根底に置くピッツァは 素材にこだわった絶対的な1枚を。そして出来る範囲での前菜と、せっかくピッツァを 焼く窯という素晴らしい熱源があるのだから、その炭火を使った肉・魚料理をやる。 そして、パスタは潔くやらない。

テーマは、太田氏の想像する『これからのイタリア、これからのナポリ』なのだという。

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パスタをやらない合理的な3つの理由

イタリア料理とくくられる店でパスタを提供しないというのは珍しい。ただそれは先述の通り、自然な流れからくる結果であったが、更に合理的でシンプルな理由が3つある。

まず一つは費用面。設備投資に費用がかかり、人件費も毎月何十万もかかるのは資金が限られるなかで現実的ではなかった。

もう一つは、日本人のパスタ愛だ。イタリア人並みに自分でパスタを調理し、自分の味を持つ日本人に「ここのパスタが最高!」と言わせるのは至難の業である。

そして最後の一つは、ピッツァと比べて回転が悪いこと。ピッツァだけに絞った場合、忙しいランチタイムであれば5回転するという。1時間に60枚、1分1枚のペースが可能だ。それだけ焼けば、お昼の客単価が1200~1300円ほどでもしっかり回していける。しかし、単価はほぼ変わらないのに一人前に15分ほどかかるパスタをやっていては成り立たなくなってしまう。

だからこそ、あくまで「パスタはやりません。ピッツァで満足いかなかったら帰ってください」というスタンスを貫くのだ。

なぜ武蔵小山に?

『ラ・トリプレッタ』があるのは武蔵小山だ。マイナーとも言ってもいい武蔵小山にどうして出店を決めたのか?この立地にも合理的な理由と太田氏の信念が隠れている。

彼自身、最初は恵比寿や自由が丘、代官山、渋谷あたりで旗上げをしたかったそうだが、まず問題になったのはピッツァを焼く窯だ。総重量7トンの窯を置くには、空中階NG、地下があったらNG、消防関係は非常にうるさい、と条件が厳しく物件自体が少ない。また、固定費を下げ、売上の上限を引き上げるために、ピッツァをとにかく焼き続けられる環境にするには30坪40席以上のキャパシティーが必要、となると益々物件は少なくなった。

更には、屋台骨として『ラ・トリプレッタ』を支えるシェフとマネージャーには、太田氏がサルヴァトーレ時代に一緒に働いていた仲間の2人をどうしても呼びたい。とすると、物件にお金をかけるより、その分彼らにお金を払った方がいいのではないかと思うようになった。

このように、何をやりたいか&誰とやりたいかという部分に重きを置いた時に見つかったのが今の物件だ。まず、家賃は一等地と比べかなり安い。日本一アーケードが長い商店街があって街に力がある。路線の乗り入れも2本以上あり(目黒線、南北線、三田線(直通))、土日の乗降者数も多い。近所には、立ち飲み屋やテイクアウト店が多く“食べ飲む場所”としての認知がある。また、目の前に大きい駐輪場があり(現在は取り壊し済)、徒歩15分圏外の人にもここに店があるということを認知させられる。そして駅近の路地裏というのも良かった。こんなところにあるの?と友だちに自慢することができるし、ストーリー性がある。

また、近くにピッツェリアのサルヴァトーレ・クオモがあるが、その店舗がグループの中でもトップクラスの売上があるという情報を知っていたことも大きい。同店があることで、近隣の方々にはピッツァを食べる下地もある。そして、近くで同じようにピッツァを出しても、負けることは絶対にないというピッツァイオーロとしての自信もあった。

オープン前は周囲にかなり心配されたと言うが、こういった条件がばっちり合っていたので太田氏としては間違いないと自信を持っていたそうだ。

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そして当初の目標通り1年で結果を出した太田氏。成功の要因として、シンプルで自然なスタンス、行動に裏付けされた 絶対の自信、そして捨てるものと大事にするものを潔いまでに合理的に判断する力、これらがガッチリとはまったことが考えられる。

今後の展望を伺うと、「近い将来店舗を増やすことも考えているし色々な構想があるけど、全ては人次第。人との良い縁があればやっていきたい。」とのこと。新世代の感覚で『これからのイタリア、これからのナポリ』をテーマに突き進む太田氏の 今後の活躍に大いに期待したい。

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熟成ワインの魅力(後編)

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熟成ワインの魅力(前編)

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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