フィラディス実験シリーズ第15弾『ボトル(750ml) vs マグナム!!熟成後の味わいはどう変わるのか?』(営業 白戸 善紀)

フィラディス実験シリーズ第15弾『ボトル(750ml) vs マグナム!!熟成後の味わいはどう変わるのか?』(営業 白戸 善紀)
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今回の実験では、主に750mlボトルとマグナムを比べ、「ボトルサイズの違いによって熟成後のワインの味わいは変わるのか?変わるのであればどう変わるのか?」を検証していきます。


そもそもワインの熟成とは、色調が赤ワインでは紫色から褐色へ、白ワインでは緑から黄色、更に濃くオレンジがかった色へと変わり、香りはフルーツ系からノンフルーツ系の要素がより目立つようになって複雑さが増します。果実味は落ち着き、酸味やタンニンもおだやかに柔らかな質感へと変化していきます。それら各要素の熟成度合いのバランスが取れている状態が、『ワインの飲み頃』だといえるでしょう。

一般的には「大きいサイズのボトルほど熟成がゆっくりで長期貯蔵に向く(小さいサイズのボトルほど早く熟成する)」と言われています。つまり、上で述べたような『ワインの飲み頃』のピークがボトルサイズによって違い、大きいサイズほどピークが来るのが遅くなるというわけです。この定説通りであれば、750mlボトルはマグナムに比べて熟成が進んで早いうちから楽しむことができ、マグナムの飲み頃のピークは遅くなると仮定できます。

上記を踏まえ、750mlボトルとマグナムというサイズ違いの同一ヴィンテージワインを15種類用意し、その味わいの違いを実験してみました。まずは、本当に熟成度合いは750mlボトルの方が進んでいるのかどうか。また、その違いはどのようなものかを検証していきます。

【実験概要】

● ワイン種類

泡1種類、白2種類、ブルゴーニュ赤4種類、ボルドー赤6種類、イタリア赤2種類  計15種類、31アイテムを用意しました。

実験を厳密に行うのであれば、ロットや保管環境、輸入経路・条件など全て同じものを用意すべきではありますが、熟成した同一ワインのサイズ違いを揃えるのは非常に困難なため、今回のワインはロットも入手経路も異なります。

また、最初に5種類をブラインドでテイスティングして検証し、残りの10種類はオープンにて検証しました。

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● テイスティングのポイント

「色・香り・果実味・酸・タンニン・余韻」の6つの項目に着目し、それぞれの要素の違いを明確にするよう努めました。

【実験結果】

※750mlボトルは「Btl」、マグナムは「Mag」と表記

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熟成度合いに関しては、歴然とした違いはない

最初に行ったブラインドテイスティングでは、1番と5番は全員一致もしくは大半が750mlボトルの方が熟成していると感じましたが、2番については僅差で、また4番は逆に全員がマグナムをより熟成していると捉えました。

結果だけ見れば一応「750mlボトルの方がより熟成していた」と言えるのかもしれませんが、実際は非常に判断が難しいテイスティングで、熟成度合いの違いは明確ではありませんでした。それはオープンテイスティングのワインも同様で、もちろん味わいには違いはあれど、熟成のスピード・度合いに関しては750mlボトルとマグナムに歴然とした差はありませんでした。

しかし、オープンテイスティングでじっくりと違いを検証していくにつれ、6つの項目の中でも特に共通して違いが感じられる要素が明らかになってきました。

一番違いが出るのは「果実味」!

以下、6つの項目のポイントをまとめます。

● 色 : マグナムの方が色調の変化は小さいが、比べてわかる程度の差。

● 香り : マグナムの方が果実の香りの中心が強い。閉じ気味で取りづらいものもあり。

● 果実味 : マグナムの方が瑞々しく生き生きとした印象。奥にしっかりとした強さがある。
※果実の厚みが全体的な違いとして一番表れている。

● 酸 : マグナムは若々しい印象。ただし、果実味とのバランスによって750mlボトルの方が目立つ場合がある。(後述の要因による)

● タンニン : マグナムは力強いが全体的にまとまっている。ただし、果実味とのバランスによって750mlボトルの方が目立つ場合がある。(後述の要因による)

● 余韻 : マグナムは各要素が大きく余韻が長い。ただし、果実味や酸・タンニンのバランスによって750mlボトルの方がフレーバーの持続性が長い場合がある。(後述の要因による)

検証の結果、6項目の中で最も違いが表れたのは「果実味」の要素でした。

他の要素ではワインによって判断が不明瞭なものがあり、特に酸やタンニンにおいては、マグナムの方が熟成のニュアンスを感じるものもありました。これは、果実味の厚みの大小が酸・タンニンの感じ方に影響を与えたのだと推測できます。つまり、マグナムの方が若々しい酸と力強いタンニンを持っているものの、豊かな果実感がそれらを包み込んで目立たなくさせたのです。逆に、750mlボトルは酸やタンニンが柔らかな質感に変化しているものの、落ち着きつつある果実味とのバランスによっては、酸・タンニンの方が目立つこともあるのだと考えられます。

ワインの熟成はよく「こなれる」と表現されます。角がとれてまろやかになることを指しますが、「こなれる」ためにはタンニンの重合※による変化が最も大きな要因となります。

※重合・・・ワイン中のタンニンの分子がくっついて大きな分子となること。これにより、タンニンは荒々しい質感からシルキーな質感に変化する。重合して一定以上の大きさになるとワイン中に溶け込めなくなり、沈殿し澱となる。

ブラインドテイスティングの5番では、全員がマグナムの方が熟成が進んでいると判断しましたが、これはマグナムの果実味が強く生き生きとしていたためタンニンが目立たず、ワインがこなれていると誤認してしまった可能性があります。ワインの熟成度合いをはかる際には、タンニンの状態を判断基準の中心に据えてしまいがちですが、果実味の厚みに着目することが非常に重要だと言えるでしょう。

瓶差は小さいボトルほど起きやすい?

尚、15番ではハーフボトルも含め3種類のボトルで検証を行いましたが、750mlボトルとの熟成度合いの差は750mlボトルとマグナムの差以上に顕著に表れました。また、ハーフボトルは瓶差が大きかったことも印象的でした。今回は比較対象がなく憶測の範疇ですが、小さいボトルになるほど、ワインの液量に対するコルクとの接触面積やボトル上部の空気量の割合が相対的に大きくなるため、熟成の進みが早く瓶差が表れやすいのかもしれません。

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【総括】

果実味のポテンシャルを考えると、長期熟成に向くのはやはりマグナムだと言えるでしょう。ワインの状態に関しても、マグナムは果実味がしっかりしているため全体的に安定感を感じました。ただ、その果実味の強さ故か、ワインによっては750mlボトルの方が開いていて美味しいと感じられるものがいくつかあり、仮定の通りそれぞれの『飲み頃のピーク』は異なるという結論に達しました。

750mlボトルを開けてみて落ち気味だと感じるのであればマグナムでは飲み頃を迎えている可能性が高いですし、まだ若いと感じるならばハーフボトルこそ最適かもしれません。ワインを選ぶ際に、ヴィンテージや熟成させたい年数に応じてボトルサイズも検討項目に加えていただくことによって、より美味しくバラエティ豊かなワインリストができると言えるのではないでしょうか。

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