『シャンパーニュは出荷国ごとに味わいが違う』は本当か?(広報 浅原有里)

『シャンパーニュは出荷国ごとに味わいが違う』は本当か?(広報 浅原有里)
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あなたは、こんな都市伝説を聞いたことはないでしょうか?「一部のシャンパーニュは出荷先の地域の人々の好みに合わせて、ドサージュ量や味わいを少しずつ変えているらしい」と・・・。
真夏にピッタリの都市伝説!というわけではなく、実際に一部のベテランソムリエさんやワイン愛好家の方々の中には、長年の経験からその可能性が高いとおっしゃる方もいますし、お読みいただいている皆さんの中でもそんな噂を耳にしたことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

どのシャンパーニュメゾンも公表していないため正確な真偽は分からない、というのが結論にはなってしまうのですが、実際に味わいは変わるのかどうか、世界各地域のシャンパーニュを集めて社内でテイスティングしてみました。

【 Moet Imperial と Krugにて検証 】

用意したシャンパーニュは、「Moet et Chandon Moet Imperial」と「Krug Grande Cuvee」の2種類です。出荷先については下記の5地域です。

・フランス国内 ・イギリス ・アメリカ ・香港 ・日本

Moet Imperialはロットなどから生産時期やデゴルジュマンの時期を調べることができないため、2020年夏〜年末に各国で買い集めました。 Krugの場合はIDで管理され、エディションやメインに使われたブドウの収穫年、セパージュ、デゴルジュマンの時期が明記されているため、同じエディションで揃えています。尚、両銘柄ともに、輸入者情報やバックラベルの記載などから元々どの地域向けだったのかを確認して準備しています。

※日本向け以外のシャンパーニュは各地域から日本に運んでいますので、輸送による影響があることは否めませんが、弊社に到着してから半年間セラーで寝かせています。
※テイスティングは全てブラインドで行いました。


【 結果 】

もちろん1本1本のシャンパーニュで違いはあるものの、その差異は小さく、非常に難しいテイスティングでした。上記のコメントは「敢えて言うならば」という感じで、地域ごとに味わいを変えているという印象はありませんでした。
日本のMoet Imperialだけは、他と比べてややフレッシュでしたが、デゴルジュマンから近いことによるもので、時間が経てば他と変わらなくなるのではと思われます。

Krugについては、Moet Imperialと比べればそれぞれの違いが分かりやすく出ていました。とはいえ、ドサージュ量が著しく違うということはないと思われ、それが瓶差だと言われれば納得してしまう範囲のものでした。強いて言えば、フランスやイギリスは重厚感がありインパクトが強い味わいで、日本や香港はフレッシュさやフィネスが目立った印象でした。

尚、弊社スタッフでどの味わいが好みかを投票をしたところ、1位香港、2位日本という結果になりました。そういう意味では、日本人が好む味わいのKrugが日本を含むアジアに輸入されているというのも、あながち間違いではないのかもしれません。


長さが異なるように見えるKrugのコルク

冒頭でも申し上げた通り、どちらのメゾンも真偽を明らかにしていないため、「正確なところは分からない」という何とも曖昧な結論にはなってしまうのですが、特にKrugに関しては同じエディションでデゴルジュマンの時期もそれほど離れていないのに、味わいにこれほど違いがあるというのは新鮮な驚きでした。より精度高く違いを見極めるには、各地域ごとに複数本テイスティグして傾向を考える必要がありますが、それはまたの機会にチャレンジしてみたいと思います!

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