「レヴェランス R」の“響かせ合う”古酒マリアージュに迫る!

「レヴェランス R」の“響かせ合う”古酒マリアージュに迫る!
211217reverenceR002

ブルゴーニュとシャンパーニュの古酒に魅せられ、その魅力を最大限に引き出すマリアージュを提供されている、とてもユニークなレストラン「révérence R(レヴェランス アール) 」。今回は古酒に特化しているからこそ培われたrévérence R(レヴェランス アール) 独自のマリアージュ哲学を、実際にワインと料理を合わせながらご教授いただきました。


古酒のマリアージュに必要なこととは?

レヴェランス 店内

ペアリングやマリアージュというと、シェフの作る料理に合うワインを選んで提供するものだという認識をお持ちの方が多いと思いますが、レヴェランスでは1本のヴィンテージワインに異なるお皿を提供していくというスタイルでコースが展開されます。異なるお料理を合わせる中で、そのワインを若く感じさせたり、ミネラリーにさせたり、気づかなかった香りを引き出したりと、1本のワインから様々な要素を引き出したり引き立てたりしながら、自分達が表現したい味わいや世界観を作り出していくのが、レヴェランスの提案するマリアージュです。

この独自の手法を取る理由として、提供するのが古酒であるという部分が大きいと思います。
長い年月を経たワインは、全体的に優しい味わいになります。そして、もちろん完璧に美しい熟成ワインに仕上がっていることもありますが、刻一刻と味わいは変わりますし、同じ銘柄・ヴィンテージのワインでも今日と明日では全く異なる味わいになることもあるため、即時に対応する技術が求められます。
また、甘さや香りが抜け落ちている、ミネラルや酸がか細くなっている、熟成香が強く出ているというように、古酒の場合はどこかに欠点を持っていることがままありますが、欠点をカバーしようとワインの味わいを覆い隠してしまうような強い料理を合わせるのではその繊細さを損ねてしまいます。そこで重要になるのが、味わいの関係性を変化させることです。つまり欠点であるマイナスの要素を下げてあげることで、元々持っている良い要素を引き上げて目立たせる、これこそがレヴェランスのマリアージュの真骨頂だといえます。

味わいの要素を下げる/上げると言うと難しく聞こえますが、例えば塩昆布を食べてからお汁粉を飲むと、お汁粉だけで飲むよりももっと甘く感じるというのは感覚的に理解できるのではないでしょうか。この場合は塩味を足すことで甘味を引き上げているわけですが、同様にミネラルや酸が残っていないワインには、料理によってミネラルを足したり酸を舌に感じさせてあげれば良いわけです。このようにミネラル感や酸味を増す要素、甘味を増す要素、清涼感を増す要素、香りを引き立てる要素などを組み合わせて味わいの関係性を変化させ、口中での感じ方を変えることで素晴らしいマリアージュを生み出しています。

古酒を美味しくするマリアージュ

これまでフィラディスではたくさんのマリアージュ実験を行なってきましたが、基本的には1つの食材に焦点を当て、出来るだけシンプルな方法でその食材に合うワインを探す、という手法を取ってきました。一般的にもワインと料理のマリアージュというと、「白ワインには白身、赤ワインには赤身の肉や魚が合う」など、食材がメインで語られることが多いと思います。しかし、レヴェランスが提供する味わいの関係性を変化させるマリアージュの主役となるのはメイン食材ではありません。 当初は様々なタンパク質(鶏、すっぽん、牛、猪など)を試したそうですが、もちろんワインに合う合わないはあるものの、

“ワインを美味しくするか”

という観点ではあまり変わらないという結論に達しました。それでは何によって変わるのか?試行錯誤した結果、素材を覆うソースやハーブ、スパイスであることに辿り着きました。ソースなどでミネラル感やクリアさ、酸、甘味などを変えることによって、同じ食材でも全く異なるワインに合わせることができ、更には古酒の欠点を補いワンランク上の美味しさを感じてもらうことができることも分かってきました。

味わいの要素の中で、ワインを最も変えるのは食材のアク=ミネラルなのだそうです。アクというとピンとこない方も多いかもしれませんが、例えばほうれん草を食べた後に水を飲むと口中がザラザラしたりミネラル感が増すように感じることはないでしょうか。レモンをかじった後に水を飲むととろっとしたように感じるのも同様です。これらは、ほうれん草やレモンのアクが口中のミネラル量を変化させるために生じます。この変化をワインと上手に掛け合わせ、舌と鼻でどのように感じるかをコントロールします。

また、マリアージュの大前提としてテクスチャーが合っていることは必要不可欠です。いくら味わいの要素が合っていても、テクスチャーが合わないと美味しくは感じません。

検証

では、実際に古酒と料理を合わせながら、どのようにマリアージュを作っていくのかを見ていきましょう!

<テイスティングしたワイン>

1990 Pommard Vieilles Vignes / Alain Coche Bizouard (Fabien Coche)

ハイトーンな香りがキレイで香り高く、タンニンや果実味の強さはあるが、全体としては儚い印象。酸味と甘味のバランスが良く、旨味が細く長く続くのも印象的であり、熟成の仕方としては非常に美しい。若干のマデラ香が出ており、ピークは過ぎているがゆっくりと長い熟成段階にある。アフターはドライ。

1990 Nuits St. Georges 1er Cru Les Vaucrains / Roger Dupasquier & Fils

1990ヴィンテージらしい熟した果実の甘味が残っておりアルコールが熟成した甘さもあるが、アタックはしっかりした酸の高さとミネラル感で引き締めが強い。味わいの最後にはタンニンが目立つ。香りには古樽感やマデラ香、熟成からくる枯葉のニュアンスがあり、味わいの広がりとスケール感が感じられる。


1. 牛肉のタルタルとイカスミのチュイル

:美しい香りと透明感を楽しむマリアージュ

牛肉のタルタル+わさびクリームソースに、イカスミのチュイルを割り入れて和えていただく一皿。
それぞれのワインと合わせるため、①肉の切り方を変える、②ソースの量を変えている。

Pommard

肉は細かめに刻み、クリームは少な目にすることで口中を肉の脂分が覆うように調整している。それによって、目立っていたワインのタンニンが中和されてマイルドになり、果実味と調和して心地よいバランスになっている。また、香りも更にキレイに伸びるようになった。

Nuits St. Georges

ワインに強い酸や少しざらついていると感じるタンニンがあるので、クリームを多めに口に運ばせてそれを抑えたい。そのために肉の切り方をわざと大きめにして表面積を増やし、クリームがたくさん口に入るような仕立てにしている。ワインの引き締め要素が下がったので、果実味の甘やかさや香りの透明感が引き立てられている。


2. 甘鯛の松笠焼き 大葉のクーリー

:旨味と甘味を引き上げ、美味い!を生み出すマリアージュ

松笠焼きにした甘鯛と大葉のソースでいただく一皿。火入れは変えていないが、ワインと合わせるために①魚の部位を変える、②穂紫蘇やキャビアライムなど付け合わせを変えるといった変化をつけている。

Pommard

身が厚くてゼラチン質が強い魚の頭の方の身を使用し、大葉ソースと穂紫蘇とともにいただく。Pommardは上方向に味わいの要素が固まっている印象だったが、料理がその土台となって下方向の味わいを膨らませている。そのため非常に良く調和し、旨味と甘味がしっかり引き立てられ、とても美味くなることを実感。大葉のソースと穂紫蘇で古樽っぽいニュアンスが薄らぎ、ワインをフレッシュに感じられるようになった。

Nuits St. Georges

脂が少ない尻尾の方の身を使用。大葉ソースはPommardと同様だが、穂紫蘇ではなくキャビアライムを添える。大葉でワインの欠点となっていた古樽っぽい香りが消え、ライムの酸が口中の甘味を引き上げている。また、甘鯛の旨味とワインの旨味が同調して強調されている。また、ライムのミネラル感で味わいの奥行きを広げることで、華やかで伸びやかなマリアージュとなった。

双方のワインに共通して、ワインが持つ香りだけではなく、鱗を焼いたスモーキーな香りやライム、穂紫蘇、大葉で香りを重層化させることでスケール感が生み出されていた。


3. 蝦夷鹿ポワレ クレソンラビオリ ゴボウのソース

:ワインの土っぽさや重厚感を表現するマリアージュ

蝦夷鹿のポワレにゴボウのソースとクレソンとリコッタチーズのソースを包んだラビオリを合わせていただく一皿。ワインと合わせるために、①肉の火の入れ方やカットを変える、②クレソンのアクとリコッタチーズの酸を組み込んでいる。
肉料理の場合、口の中でどう感じさせたいか(テクスチャー)を具現化するために肉の部位や繊維の入り方や切り方を考えることが重要になる。
また、肉は火を入れるとジュースが出るが、噛んだ時にじゅわっと出てくるとワインを邪魔するためレアに仕上げる。火を入れた状態で提供したい時には極薄く切るなど工夫が必要。

Pommard

上方向に伸びるワインに対し、ロゼくらいまで火を入れることで肉に重さや甘味を出してバランスを整えている。ただ肉+ソースだけだと料理が勝ってしまって土っぽくなりすぎるが、ちょっと大人な苦味とミネラル感のあるクレソンとリコッタチーズの酸味が合わさることで、より軽やかに多層的になり、余韻も長く続く。ワインにハリや艶が出たと感じた。

Nuits St. Georges

ニュイ特有の酸が特徴的でタンニンやアミノ酸がしっかりあるワインなので、肉のジュースでバランスを崩さないようにあえてレアに仕上げている。また酸が強い時には香ばしさを足すと美味しく感じるため少し焦がすように火入れしている。肉の旨味や甘味をしっかりと感じるどっしりとしたマリアージュだが、ラビオリを口に入れると酸が復活してフレッシュさや味わいの立体感も楽しませてくれた。

レヴェランスの“響かせ合うマリアージュ”

古酒とお料理を合わせてみて最も驚きだったことは、合わせる料理によってワインの印象が著しく変わるということでした。飲んでいるワインを変えたのかと思ってしまうくらいのインパクトがありました。 古酒をどう魅せるのかを考え、透明感やクリアな旨味を追求したいのか、特有の甘さを引き出したいのか、重厚感を表現したいのかといった目指す方向性に合わせて食材や調味料、そして調理法まで細かく計算していることがわかります。そしてその振り幅が大きいので、味わう側としては毎回新鮮な驚きと古酒ならではの楽しさが感じられました。

こうしたレヴェランス独自のこだわりは、説明していただく際に何度も出てきた“響かせ合うマリアージュ”という言葉に集約されています。古酒は優しく繊細なものが多いですが、香りや味わいの要素は豊富で複雑です。そして欠点を持っていたり変化しやすく味わいに波があります。そうした特徴を活かし、素晴らしいマリアージュを作るためには、料理とワインをオーケストラのように響かせ合う必要があります。
例えば、3皿目の蝦夷鹿とゴボウのソースという重さのある料理は従来ならボルドーの方が合いそうなものです。重厚感があるチェロやコントラバスといった楽器に例えられるかもしれませんが、そこに高音を奏でるフルートを加えるようにクレソンやリコッタチーズを合わせることで、お互いを響かせあって美味しさを生み出していました。
間違っても大音量でかき消すようなことはせず、繊細な音色で多層的な世界を作ることで、深みのある理想的なマリアージュが実現できるのです。

ワインと料理のマリアージュは本当に奥が深い、、改めてそう感じたひと時でした。


(ご協力)

レストラン révérence R(レヴェランス アール)

〒104-0061
東京都中央区銀座8-5-5 MSファーストビル2F
Tel:050-3627-7900

https://www.rest-reverence.jp/

Read more

熟成ワインの魅力(後編)

熟成ワインの魅力(後編)

前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

By YURI ASAHARA
熟成ワインの魅力(前編)

熟成ワインの魅力(前編)

「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

By a.watanabe
太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

By a.watanabe