フィラディス ワインリスト研究 第6弾 後編 ~ élevé 松田慧ソムリエ & 株式会社SEA 神沼拓海ソムリエ ~

フィラディス ワインリスト研究 第6弾 後編 ~ élevé 松田慧ソムリエ & 株式会社SEA 神沼拓海ソムリエ ~
HP-TOP-ワインリスト後編

今回のワインコラムプロは、活躍中のソムリエお二人に、同一の料理テーマでワインリストを作成いただき、構成内容や選んだ基準、考え方などをじっくり覗いてみようという人気企画「フィラディスワインリスト研究」の第6弾。今回は後編のペアリング実践編をお届けします。

前編ではお二人のソムリエが選んだワインをご紹介しましたが、今号では実際に食事とワインを合わせた検証会の様子をレポートします。Trattoria Tabule(トラットリア タブレ)さんの中東料理とイタリアンのエッセンスが組み合わされたお料理にはどんなワインが合うのでしょうか。一つ一つのお料理とのペアリングから、総括的なワインの合わせ方を考えていきます。

ご協力:Tra

ttoria Tabule様 élevé 松田慧ソムリエ

1988

年生まれ。東京都出身。専門学校卒業後、西麻布のフレンチ「Le Bourguignon」へ入社、11年間勤める。ブルゴーニュワインの美味しさ、奥深さに魅了され、2022年7月に麻布十番にてブルゴーニュ専門のワインバー・レストラン「élevé」を独立開業。
élevé https://eleve-azabu.com/

株式会社SEA 神沼拓海ソムリエ

株式会社SEA代表。神奈川県横須賀市にてワインを基軸に飲食店を三店舗経営。元ワイン商社出身のノウハウを活かし、飲食店へのワインセレクト、卸、ワインショップ、ワインイベントの運営など、多岐に渡り活動している。
株式会社SEA https://restore-sea.jp

基本条件

お題:中東イタリアンのワインリスト

Tasting Course メニュー

【Tapas & Mezze】⚪焼きたてピタブレッド

⚪ひよこ豆の “フムス”
ひよこ豆、タヒニ(ねりごま)ソース、マスタード、レモン汁を合わせてペーストに。
スマック(赤紫蘇に似た香り)とたっぷりのオリーブオイル。

⚪シグネチャータブレ ヨーグルトのソース
レバノン発祥のクスクスを使ったサラダ(=タブレ)。フレッシュハーブ、野菜、キヌア、
フルーツなどを、独自のスパイス、オリーブオイル、レモン汁でマリネ。

⚪鰹のスモークとビーツのカルパッチョ
藁焼きにした鰹とビーツを合わせたカルパッチョ。
甘いビーツ、スモークパプリカ(鰹のスモークと同調)、トレビスの苦味、ザクロが一体に。

【Hot Appetizers】
⚪カリフラワーのロースト 江戸前ハーブとくるみ ピーナッバター&スパイスソース。
カリフラワーをオーブンで焼き上げたお料理。食感としてローストくるみ、江戸前ハーブ、
ピーナッツバターソース(カルダモンスパイスが強く香る、カレー粉、ライムジュース)。

【Pasta】
⚪バジルとフレッシュケールのジェノベーゼ キタッラ
バジルとケール、ピスタチオ、フェンネル、レモンピールをペーストにしたソース 、
キタッラは岡山の工房で作られた生パスタ、低加水でもっちり。

【Maindish】
⚪チキンシュニッツェル 〜鶏胸肉のカツレツとサワークリームとアリッサ〜
薄く叩いた鶏肉のカツレツ。サワークリームとヨーグルトを混ぜたソースと、
アリッサ(パプリカと唐辛子とスパイスのペースト)をつけて食べる。

ワインリストの条件

○基本的にフィラディスのエージェントアイテムから選択、 ない場合は他社アイテムも選択OK

○ワインの産地は問わない

○構成:
− グラス販売 赤2種類、白2種類、泡1種類以内
− ワインリスト 泡白赤トータル15アイテム以内(グラスのワインを含む)

○ボトル売価10,000円まで。最低ラインは3000円代後半、ボリュームゾーンは4000〜5000円代をイメージ

○グラス売価は1,000円以下

○原価は40%まで

【 お二人が選んだワインリスト 】
※ワインリストを選んだ際の考え方やポイントについては前編をご覧ください。

https://firadis.net/column_pro/202501/

検証結果

ひよこ豆の “フムス” &焼きたてピタブレッド

◎ 3. ロゼ泡(ピノ・ノワール 70%、カベルネ・フラン 30%)/仏ロワール ◎ 10. シノン(カベルネ・フラン100%)/仏ロワール

中東料理の定番であるひよこ豆のフムス。練りごまの風味がほのかに香り、レモン果汁の爽やかさも加わる繊細な味わいのお料理で、上に振り掛けられたスマックがアクセントとして効いていました。 スパークリングと白ワインはどれも総じて良かったのですが、その中でもロゼ泡はスマックの良さを更に引き出しており、中東のエッセンスを感じられる素晴らしい組み合わせでした。お料理のふくよかさや柔らかさを活かし、増幅させていました。 シノンは、あらゆる側面で料理の要素に良く合っており、料理の複雑さやパワーを感じさせてくれ、アフターまで心地よく洗練されたマリアージュでした。ただ神沼ソムリエから、ペアリングで提供する場合、1杯目に赤ワインというのは現実的には難しいので悩ましいという意見もあり、お客様に提案する場合には工夫が必要となる組み合わせでした。 両方のワインに共通するのがカベルネ・フランを使用していることであり、少し青っぽいニュアンスが出るのが、お料理にハーブが足されるようで素晴らしいと感じました。

シグネチャータブレ ヨーグルトのソース

◎ 2&18. シャンパーニュ(ムニエ 65%、ピノ・ノワール 35%)/仏シャンパーニュ ◎ 1. 白泡(シュナン・ブラン 100%)/仏ロワール

店名にもなっているシグニチャーメニュー。プチプチコリコリした食感があり、ヨーグルトやリンゴの味わいが特徴的でした。 このお料理にはスパークリングが大活躍!シャンパーニュはヨーグルトやリンゴの風味に同調し、全体をまとめてくれて一体感が味わえるマリアージュでした。 対して、ロワールのスパークリングはプチプチした食感をワインがさらに引き立てる若干“尖った”マリアージュ。爽やかかつスッキリしたアフターで食が進む組み合わせでもありました。

鰹のスモークとビーツのカルパッチョ

◎ 3. ロゼ泡(ピノ・ノワール 70%、カベルネ・フラン 30%)/仏ロワール ◎ 30. Brunello di Montalcino(サンジョヴェーゼ・グロッソ100%)/伊トスカーナ ◯ 10. シノン(カベルネ・フラン100%)/仏ロワール

スモークの香りが効いた鰹のカルパッチョでしたが、ロゼ泡が素晴らしいマリアージュを見せてくれました。双方の良さが存分に活かされ、スモークの香りがアフターに残って余韻までおいしく楽しませてくれました。 ブルネッロはワインの熟成感がスモーク香と非常に相性が良く、出汁っぽい旨味が余韻として長く続きました。透明感があり、満場一致の美しいマリアージュでした。他の赤ワインはタンニンの引っ掛かりが気になって高評価が得られない傾向にありました。

カリフラワーのロースト

◎ 7. Rully Blanc(シャルドネ100%)/仏ブルゴーニュ ◎ 26. Cotes du Rhone(シラー 50%、グルナッシュ 25%、ムールヴェードル 25%)/仏ローヌ

カルダモンが効いたピーナッツバターソースがアクセントのカリフラワーのローストで、アロマティックなワインや樽が強いワインはことごとくNGでした。 Rullyはカリフラワーそのものとソースや胡桃など料理の各要素を活かし、柔らかさや大きなスケール感を感じさせてくれる洗練されたマリアージュでした。 反対に、Cotes du Rhoneは屋台で楽しむような気軽さが魅力のマリアージュで、ワインと料理双方の甘味や旨味を引き出し、お好み焼きのような身近なおいしさを感じさせてくれました。ワインがぐいぐい飲めちゃうハッピーな組み合わせでした。

バジルとフレッシュケールのジェノベーゼ

◎ 21. ファランギーナ/伊カンパーニャ ◎ 14. シラー/仏ローヌ ◯ 7. Rully Blanc(シャルドネ100%)/仏ブルゴーニュ ◯ 10. シノン(カベルネ・フラン100%)/仏ロワール

もっちりしたパスタのジェノベーゼで、フェンネルとピスタチオが印象的な味わいでした。 ファランギーナはレモンピールの爽やかさが強調されるとともに、料理の各要素がふわっと心地よく味わえ、ランチで楽しみたいと思わせる組み合わせでした。 ローヌのシラーは方向性がぴったりで、ジェノベーゼの風味は活きたまま赤ワインの果実味や甘味が加わり、異なる料理に昇華されるようなおもしさがあるマリアージュでした。 リュリーはアフターにスパイスの香りが残り、料理を特においしく感じさせてくれました。 シノンがここでも登場!ピスタチオにぴったりと合い、派手ではないもののしみじみおいしいと思わせる組み合わせでした。

チキンシュニッツェル 〜鶏胸肉のカツレツとサワークリームとアリッサ〜

◎ 24. オレンジワイン(モスカート85%、ピノ・ビアンコ10%、リースリング 5%)/伊ヴェネト ◯ 7. Rully Blanc(シャルドネ100%)/仏ブルゴーニュ

チキンのカツレツをサワークリームとヨーグルトのソース&アリッサでいただく一皿。 最も良かったのはオレンジワインでした。懐の広いワインで、サワークリームソースや辛味のあるアリッサ、鶏肉や衣の味わいや食感・テクスチャーを全て受け止め、さらにワインの複雑さを足して調和を生み出しました。 白ワインは全体的に悪くないものの、辛味が目立ったりワインの果実味が邪魔をしたりとどれもしっくりこないという状況の中、次点となったリュリーはソースのまろやかさに同調し、アリッサの辛味を受け止めておいしく食べ進められる組み合わせでした。 赤ワインはチキン&サワークリームという軽やかなお料理には強すぎるため高評価は得られませんでした。

検証まとめ

お料理の傾向として、ニンニク・パセリ・レモン・オリーブオイルが基本の味わいとしてあって、そこに多彩なスパイスやハーブ、ヨーグルトが加わるというのが大まかな特徴です。複雑ですがパンチはそれほど強くなく、軽やかで柔らかさを感じるお料理が多いと感じました。

ワインとしては、複数の料理で選ばれたものもいくつかあり、中東イタリアンに合うワインの方向性が見えてきたように思います。まず、ロゼ泡を筆頭にスパークリングは料理の軽やかさや酸味、ヨーグルトといった要素ととても相性が良く、全体的に合わせやすいことがわかりました。

白ワインは、アロマティック品種がなかなか難しく、強すぎる樽香もNG、そして質感が柔らかいものが合わせやすい傾向にありました。特に出現頻度の高かったリュリーは、ワインのミネラル感や主張の強すぎない果実味が料理を引き立て、スパイスやハーブを心地よく味わうことができました。

赤ワインではシノンが活躍しました。カベルネ・フランは料理のハーブやスパイスとの相性が非常に良く、タンニンも強すぎず滑らかさがあるため、ボリューム感や全体のバランスも整いやすいと感じました。

このように特別にペアリングするワインはありましたが、今回の検証会で強く感じたのは、中東イタリアンとワインの相性は全体的に良く、どのワインも大きく外れることがないということです。特に今回ソムリエのお二人がセレクトしてくださったワインはいずれもおいしく楽しめる基準以上のもので、審査するのはなかなか骨の折れる仕事となりました。

松田ソムリエのリストは、すべて精通されているフランス産のワインで統一されており、同じブルゴーニュのシャルドネであっても細やかな味わいの違いを意識しながら精緻にマリアージュを突き詰めていく姿勢が印象的でした。一方、神沼ソムリエがセレクトした多種多様なワインリストは、意外な組み合わせが見つかったりと可能性を広げてくれるものでした。ペアリングを考える上で、お客様に提供する順序やストーリーを常に意識されており、単なる「合う/合わない」だけではない現実的なマリアージュ提案の重要性を改めて実感しました。


中東イタリアンという新ジャンルのお料理とワインの検証レポート、皆さまも想像して楽しんでいただけたでしょうか。ペアリングを考える際のヒントとしていただけたら幸いです。

最後になりましたが、今回のニュースレターのためにワインリストを作成してくださり、ご多忙の中、検証会にもご参加いただいた松田ソムリエ、神沼ソムリエ、そしてご協力いただきましたTrattoria Tabule様に、心より感謝申し上げます。

Read more

熟成ワインの魅力(後編)

熟成ワインの魅力(後編)

前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

By YURI ASAHARA
熟成ワインの魅力(前編)

熟成ワインの魅力(前編)

「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

By a.watanabe
太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

By a.watanabe