【刺身マリアージュ第1弾】 海の王様「本マグロ」とワインが出会うとき(広報 浅原有里)

【刺身マリアージュ第1弾】 海の王様「本マグロ」とワインが出会うとき(広報 浅原有里)
Close-up of Toro sashimi

今回私たちフィラディスがマリアージュ探究のテーマに据えたのは、日本の食の象徴ともいえる「本マグロ」です。
鮨店や割烹はもちろん、さまざまなジャンルのお店から食卓まで、その存在感を放つこの魚は、いまや和食文化を超え、世界の“旨味”を語る上で欠かせない食材となりました。

今回の実験では、大トロ・中トロ・赤身という3つの部位それぞれに、どんなワインが合うのか、またどのような相乗効果をもたらすのかを検証しました。

脂の甘みとボリューム感、酸のバランス、ミネラル感と鉄分の響き、余韻の方向性——。
ワインと本マグロ、それぞれの文化が交わる時に見出されるマリアージュとはどのようなものか。その答えを、本レポートでお伝えします。


マグロについて

本実験で使用した本マグロは、すべて国産の養殖個体で冷凍処理されたものを準備し、大トロ・中トロ・赤身それぞれの特性を活かして切り分け、あえてワサビは付けず、醤油のみで味わいました。

養殖由来とはいえ状態が非常によく、瑞々しさがあり、しっとりと滑らかな質感でした。大トロ・中トロ・赤身は、鉄分と脂質のボリュームが反比例する関係です。赤身は鉄分由来の旨味が前面に立ち、後味は軽快。対して大トロは豊かな脂が舌を包み込み、濃厚で甘みのある余韻が長く続きます。

ワインと合わせた時には、こうしたテクスチャーと風味構成の違いが重要な評価軸となりそうです。

ワインについて

スパークリングは白12種類とロゼ2種類、白ワイン20種類、ロゼワイン2種類、赤ワイン12種類の計48種類。過去最大レベルで幅広く用意しました。

マリアージュの判断方法

「ボリューム」「テクスチャー」「フレーバー」「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)」について、以下のマリアージュポイントを参考にしながら分析します。

同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)

※マリアージュ理論の詳しい内容は以下よりご覧ください。
https://firadis.net/column_pro/201312/

結果

赤身部門

1位 10:NV Bouzy Blanc de Noirs / Brice

1位はグランクリュ、ブジーのブラン・ド・ノワールでした!ワインのタンニンと赤系果実の風味が本マグロ赤身の鉄分と心地よく同調し、テクスチャーも良く合い、素晴らしい調和を見せてくれました。甘味と旨味がしっかり引き出されて余韻にじわじわ残り、完璧なマリアージュとなりました。

2位 2:NV Cremant du Jura Brut / Philippe Vandelle

2位のクレマン・ド・ジュラはまさに同調のマリアージュ。双方のボリューム感、塩味、ミネラル感が寄り添い合いました。特に赤身のミネラル感や瑞々しさが強調され、マグロをよりおいしく感じられる組み合わせでした。

3位 39:2022 Yoichi Pinot Noir / 山田堂ワイン

3位には北海道余市のピノ・ノワールが選出されました。ワインの落ち着いた果実味と出汁っぽい滋味深い味わいが、マグロ+醤油と絶妙にマッチ!ワインの若干の熟成のニュアンスが醤油と合っているという意見や、鮨にしたら更に合うという意見もありました。

3位 44:2020 Barolo Monforte / Domenico Clerico

同率3位にバローロがランクイン!ワインのフレーバーと赤身+醤油の風味が調和し、こなれた上品なタンニンと赤身の鉄分のバランス、テクスチャー、ボリューム感が良く合いました。マグロを軽く炙ると、香ばしさが加わってさらに相性が深まりそうです。

鉄分との相性が肝!白ワインは厳しい結果に

赤身の鉄分と瑞々しさ、さっぱりとした味わいにワインをどう合わせるかが鍵となりました。 スパークリングは全体的に高得点でしたが、白ワインは厳しい結果となりました。アロマティック品種は臭みが出たり、フレーバーが浮いてしまったりと難しく、樽のニュアンスも合いませんでした。ロゼはワインのタンニンと赤身の鉄分が違う方向を向いているように感じられ、醤油ではなくオリーブオイルやハーブなど別の要素が必要だと感じました。 赤ワインでは、フレッシュすぎる果実味や強いタンニンは相性が今ひとつでした。期待されたピノ・ノワールでしたが、「樽香が目立つ」「酸が浮いてしまう」といった評価に留まりました。ただし、熟成によって要素がこなれ丸みが出てくれば、より良いマリアージュになる可能性があります。

中トロ部門

1位 8:NV Grande Reserve / Dehours

今回の実験で最も高評価だったのが、中トロとムニエ比率の高いまろやかなドゥウールのシャンパーニュの組み合わせでした!マグロの鉄分と脂の重さのバランスをワインのミネラル感が支え、アフターにいくにしたがって旨味と甘味が引き立てられ素晴らしい調和が感じられました。特筆すべきはテクスチャーの相性で、中トロの柔らかさとワインの丸く柔らかな質感がぴたりと合っていました。

2位 36:2024 Etna Rosato / Terre Nere

シチリア、エトナのロゼが2位にランクイン!全体的なテクスチャーやボリューム感が合っており、穏やかなタンニンと中トロのほのかな鉄分の相性も良く、風味を上に持ち上げて華やかさを感じるマリアージュでした。また、双方の酸味とミネラル感のバランスが良く、気持ち良い“抜け感”を味あわせてくれました。

3位 4:2021 Talento Brut / Peri

瓶内二次発酵でつくられるイタリアのスパークリングが3位となりました。シャルドネ100%ですが、ワインに柑橘を思わせる酸味が少ないため、中トロの脂質との相性が良く、旨味や甘味を活かす繊細なマリアージュとなりました。

まずはテクスチャーの相性が重要!突出した要素がない丸さを感じるワインが◎

赤身の鉄分は残しながらも脂の重量感が増し、より重たくなめらかなテクスチャーが特徴の中トロには、ワインにもテクスチャーの強さや丸さが求められました。 反対に、要素が突出すると中トロのバランスを壊してしまうため、強いフレーバーやフレッシュな果実味、タンニンなどはことごとく合いませんでした。そのため、白ワインは全体的に高評価は得られず、赤ワインもマグロの味わいを覆ってしまうため厳しい結果となりました。

大トロ部門

1位 8:NV Grande Reserve / Dehours

大トロ部門でもドゥウールのシャンパーニュが1位に輝きました!大トロのなめらかな質感とワインの柔らかなテクスチャーが同調し、ワインの酸・果実味・旨味のバランスが、大トロの脂由来のコクや甘味・旨味と美しく響き合いました。加えて、ワインの複雑で華やかなフレーバーが大トロの風味を一層広げてくれるようにも感じました。

2位 7:NV Les Parcelles / Pierre Paillard

大トロの脂の重さに対し、ワインの骨格や酒質、ミネラル感が脂を切る役割をして、ついついもう一口と食べたくなるような素晴らしいマリアージュとなりました。ドサージュ由来の甘さが少ないため調和しやすかったのと、醤油と黒ブドウの相性の良さがさらに評価を引き上げる結果となりました。

2位 9:NV Conversation / Jean Louis Vergnon

同点で2位になったのは、ブラン・ド・ブランでした。大トロの脂との相性が良く、ワインの酸味やミネラルが脂を切ってスッキリとした余韻を楽しませてくれました。

4位 17:2023 Meursault du Chateau / Ch. de Meursault

わずか1点の僅差で2位獲得を逃したのがムルソーでした。大トロの脂の甘さ・重さに対して、ワインのボリューム感や樽の重量感ある香りが唯一同じ方向を向いて同調しており、アフターの美しさは格別でした。ただ双方の重さをそのまま味わう組み合わせのため、「一切れで充分」という声もありました。

シャンパーニュやムルソーでこそ釣り合う、大トロの『格』

大トロでは上位3位をシャンパーニュが独占し、唯一4位にムルソーが選ばれました。赤身や中トロでは他産地のスパークリングなども選ばれていましたが、大トロのようにとろけるような脂と複雑な余韻を持つ重厚な食材では、多くのワインがその存在感に押され、力負けしてしまいました。 白ワインでは唯一、ムルソーが健闘を見せましたが、その他のワインは大トロのリッチさを受け止めきれず、厳しい結果に。アロマティックな香りや強い樽香、シャープな酸をもつワインも相性を欠きましたが、ワサビを添えることで調和が生まれる可能性は感じられました。 一方、赤ワインはタンニンや果実味が邪魔をして、大トロの柔らかさや繊細な甘味・旨味を活かすことができませんでした。


いかがでしたでしょうか。今回は本マグロを題材に、ワインとのマリアージュを探りました。今後も「刺身シリーズ」として、さまざまなお刺身との組み合わせを検証していく予定です。次回のレポートもぜひお楽しみに。

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熟成ワインの魅力(後編)

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