イタリア出張報告① ~ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを4つのエリアに分けてみると (営業 青山 マルコ)

イタリア出張報告① ~ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを4つのエリアに分けてみると (営業 青山 マルコ)
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フィラディスのイタリアワイン担当、青山マルコです。東京のイタリアンレストランを中心に担当させて頂いていますので、私のことをご存知ない方も多いと思います。簡単な自己紹介ですが、イタリア人の父と日本人の母を親に持つ、世間で言うところの“ハーフ”と言う存在で、外見はほぼ日本人にしか見られませんが、イタリア語を話すことは全く問題ありません。 帰郷と称して、という訳ではもちろんありませんが、イタリア担当として、イタリア出張に行って来ました。


訪問先は、トスカーナとカンパーニャ、フリウリのフィラディス取扱い生産者及び、新たにクオリティーワインのラインナップに加わることが決定している生産者を訪問し、関係強化と情報収集。同時に、今後皆さんに紹介すべき新たな生産者の開拓も兼ねていましたので、皆さんにそれらをご案内できる日が楽しみです。

さて今回は、特に私のお気に入りでもある『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ』についてお話したいと思います。日本のイタリアワイン好きなら必ず知っているトスカーナ州。ですが、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノのエリアによるテイストの違いまでは意外と知られていません。今回の訪問で新たに感じた、ブルネッロのエリアごとの特徴を紹介していきます。

美しい田園風景が広がるブルネッロ・ディ・モンタルチーノ

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長靴の形をしたイタリア半島の、真ん中よりちょっと北に位置するトスカーナ州は、一大観光地フィレンツェを州都に、斜塔でお馴染みのピサがあるティレニア海まで広がっており、今回紹介するモンタルチーノは、そのフィレンツェから南西に車で2時間。

周りにさえぎる物がない小高い丘が続き、青い空が広がる、それはそれは美しい情景の小さな中世の城砦都市です。その美しさ故、イタリア国内だけではなく、ヨーロッパ人の観光地としての位置付けも高く、特にドイツ人には憧れの場所として人気があります。実際に、ワイン造りを目指す人々以外に、ドイツ人のお金持ちも数多くモンタルチーノに移り住んでいます。もちろん今回私は観光に行った訳ではないので、余談はこれくらいにして、この素晴らしいモンタルチーノでのみ生産されるブルネッロ・ディ・モンタルチーノの話に入ります。

このブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、イタリアワインを扱っている人なら必ず知っているイタリア3大重要D.O.C.Gの一つであり、イタリア政府公式晩餐会でも必ず提供される、まさにイタリアの誇りとも言うべきワインの一つです。しかし、もう一つの重要D.O.C.Gバローロの様に、生産者達がエリアごとの味わいの違いを全面的に打ち出し、それをクリュとして表現しているのとは違い、ブルネッロの生産者達が独自に命名しているクリュが存在しているのみです。日本では大きく、クラッシック派とモダン派と言う製造方法のみでカテゴライズされているのが実情ではないでしょうか。

この出張をきっかけに今回は、モンタルチーノを大きく4つのエリアに分け、ローケーションごとにテイストのタイプを分けることに挑戦したいと思います。

ブルネッロの4つの地区

D.O.C.G.ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、モンタルチーノの丘を中心とし、海抜120~650mと標高差のあるエリアで生産されています。同じく偉大なD.O.C.G.であるバローロは「モンフォルテ・ダルバは重厚でリッチ、セッラルンガ・ダルバはストラクチャーあり男性的な、バローロは華やかでソフト…」というように、地区によって明確にキャラクターが分かれることが知られていますが、生産エリアの面積がバローロの約3倍にも関わらず、ブルネッロでは場所によるテロワールの違いが語られず、ひとつの生産地域として捉えられがちです。しかし実際はテロワールや出来上がるワインのキャラクターにより、大きく4つの地区に分けられるのではないかと思います。

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①北側地区

モンタルチーノの丘の北側は、急な傾斜地です。気候はブルネッロの4地区の中で最も涼しく、土壌は痩せていて石灰が多いため、ワインは鋭いミネラル、エレガンス、香りの高さが特徴です。モンタルチーノの丘寄り上半分は特に傾斜が急な為、小規模な生産者が集まっており、代表的な生産者としてはクラッシック派としてサッセッティ、モダン派としてシロ・パチェンティなどが挙げられます。また、D.O.C.G.の北端にあるブオンコンヴェントの街寄り下半分では斜面も緩やかで、カパルツォやアルテジーノなどの大規模生産者も見られます。

②南東地区

モンタルチーノの丘の南側は北側に比べると傾斜が緩やかで、満遍なく日光が降り注ぎ、土壌も肥沃です。東側斜面ではこの十分な日照量と、区画によっては粘土や砂が混ざったガレストロ主体の土壌から、果実味溢れるパワフルなワインが生まれます。北側地区同様に、モンタルチーノの丘の頂点近くでは斜面が急で小規模生産者が集まっており、クラッシック派のビオンディ・サンティやサルヴィオーニ、バルビ、コスタンティ等の有名生産者が密集している地域です。そしてフィラディス取扱い生産者レッチャイアも、この地区に畑を構えています。またモダン派ではカサノーヴァ・ディ・ネーリの畑が大きく広がっています。

③南西地区

南東地区と同じく、日照量が豊富で粘土や砂が混ざったガレストロ主体の土壌となります。ですが、南東地区と大きく違うのは、海底が隆起して形成された土壌としての一面があり、海風の影響を受ける気候であるということです。約60km先のティレニア海との間には高い山や丘がないため風通しがよく、極度の乾燥と熱から守られています。また標高が高い畑が多く、斜面はなだらかで比較的涼しい気候から、ワインは力強さとエレガンスを兼ね備え、塩っぽいミネラル感が特徴です。斜面がなだらか故に、バンフィやカステル・ジョコンドと言ったモダン派大規模生産者も多く集まっている事が特徴でありながら、クラッシック派の重鎮ソルデーラが位置する事でも、その位置的アドバンテージが分かります。かのアンジェロ・ガヤ氏もソルデーラの近くにピエーヴェ・サンタ・レスティトゥータを構えています。

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④最南端地区

モンタルチーノの丘を南側に下りきったカステルヌオーヴォ・デッラバーテ周辺のエリアです。やはり街を中心に斜面が広がっておりブルネッロの4地区の中で最も暑く、ブドウも最も早く熟すので、収穫は他の地区よりも2-3週間程早く行われます。

暑さと標高の低さに加え、砂が多い土壌となるので、ワインはアルコール度数が高く、柔らかでボリューム感のあるものとなります。代表的は生産者としてはポッジョ・ディ・ソットやチャッチ・ピコローミニ・ダラゴーナが挙げられ、生産者数が他のエリアより少ないのも特徴の一つです。

以上のような分析をもとに、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ協会がホームページで紹介している地図の生産者所在位置を照らし合わせて確認すると、きっと納得して頂けるのではないでしょうか。さらに、クラッシック派とモダン派の製法を加味すれば、より明確なカテゴライズができるはずです。ただし、地図には生産者のセラーを登記場所として記してありますので、稀に地図上の登記場所とは全く違う所に畑を所有している生産者もいるのでご注意を。

ブルネッロ見聞録

そして今回、いくつかのブルネッロ・ディ ・モンタルチーノの生産者を訪問し、感心したことや見聞きした事を3つほど紹介したいと思います。

まず、サルヴィオーニにて。剪定時に、写真で手に持っているブドウの房の真ん中の部分をカットするのだそうです。剪定作業のなかで一本の木に数房しか残さないと言うことはよく知られていますが、いちばん大きくて見た目が良さそうな真ん中の部分をカットするというのを聞いたのは、私も初めてでした。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを生産するための品種がサンジョヴェーゼ・グロッソという“大きいサンジョヴェーゼ”を意味するにも関らず、いちばん大きくなる部分をカットするのは、「生産量は少なくなるが、ブドウの粒が小さい方がより凝縮感が得られ、偉大なワインができるから」と、納得させられる話を聞きました。

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次は北側地区に位置するコッレオーニにて。限りなく自然に近い環境を大事にすることが哲学の生産者です。写真ではちょっと見づらいのですが、棒を差してあるところには、醸造後に廃棄したブドウの搾りかすの中から自然に芽吹いた苗が大事に育てられています。その理由とは…?「樹の植え替えに、以前は自分の畑にある樹からクローンニングしていたが、クローンは同じ遺伝子のため、現状維持しかできない。このように自然と生えてくる苗の中にこそ、優勢遺伝子を持った高品質の苗が現れるはず。例えば、兄弟が多ければ、出来の良いのも悪いのもいて差はあるが、中にはズバ抜けて出来の良いのだってできるはずだ」と。今まで話を聞いたことがある他の生産者達は、苗木屋から買ったクローンの番号でよしとするか、自分のところの樹のクローンを使っているかしか聞いた事がなかったので、まさに自然界との融合を図るその考え方に深く感銘しました。

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そしてもうひとつ、D.O.C.G.ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの拡がりについて。1960年代には60ヘクタール程の作付面積しかなかったブルネッロ・ディ・モンタルチーノも、2000年代には作付面積がなんと2000ヘクタールに拡張されました。以前は、モンタルチーノの丘を中心とした急斜面のエリアに小規模生産者たちがブルネッロ・ディ・モンタルチーノを造っていただけでしたが、大規模生産者がなだらかな斜面に大きな畑を拓くようになり、現在の姿になったようです。聞いたところによると、現在新たにブルネッロ・ディ・モンタルチーノを生産する為の新しい畑をD.O.C.G.協会に申請するには、1ヘクタールあたり億単位のお金がかかるそうです。

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熟成ワインの魅力(後編)

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前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

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熟成ワインの魅力(前編)

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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