クオリティーワイン生産者バイオグラフィー 【イタリア】Nec-Otium & Cru: Chale クリスチャン・パタ

クオリティーワイン生産者バイオグラフィー 【イタリア】Nec-Otium & Cru: Chale クリスチャン・パタ
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残念ながらオフヴィンテージの1968年の8月22日、私はウディーネに生まれました。トレヴィーゾで古典を学び、その後ヴェネツィアとミラノの大学で哲学を学んでいましたが、1991年、父の突然の死により状況は一変しました。義務としてというのは語弊がありますが、彼の仕事を継ぐことになったのです。


父はフランスワインとイタリアワインに心からの情熱を注ぐエキスパートであり、小規模生産者のワインをイタリア国内のレストランやワインショップに販売するのを生業としていました。彼はまた、私にとって食とワインの師でもありました。

時を同じくして、ミアーニのエンツォ・ポントーニとの親交が始まりました。彼は私の父の最後の発掘ともいうべき男で、1987年のメルロや1988年のロッソなど初期のすばらしい作品を元詰めし始めたばかりでした。私たちはどちらも自身の仕事を始めたばかりでしたが、2人で協力すれば素晴らしいワインを造ることができる、これがチャンスだ、とお互いに感じていました。資金がないことも含め、私たちは本当に似ているところが多かったのです。

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そこで私はフリウリの小規模生産者(ミアーニ、 ボルゴ・デル・ティリオ、ドーロ・プリンチッチ、ラ・カステッラーダ、レ・ドゥエ・テッレなど)や、その他イタリア全土からの名高いワイナリーのエージェント業を始めることにしました。しかし、すぐに自分が ”根っからの営業マンではない”という事実に気付きました。テイスティングと同じく、ワイン造りや畑仕事の方にどんどん興味を持つようになったのです。この想いに導かれ、私はフランス、スペインを中心にヨーロッパ中を旅し、またカリフォルニアにも足を運び、畑を見学し、ティスティングを繰り返し、それぞれ短期間ですがたくさんの生産者の下で一緒に仕事をさせても
らいました。同時に、私は営業マンとしての仕事を続ける傍ら、独学でもブドウ栽培とワイン造りを勉強し始めました。

1995年、複数のパートナーと共に新しい会社を設立しました。海外のワインをイタリア国内に輸入したり、イタリアの小規模生産者のワインを世界に輸出したりするためです。私たちが扱っていたワインは当時としてはかなりすごいものでした。手広いとはいえませんでしたが、ミアーニ、ボルゴ・デル・ティリオ、クインタレッリ、ヴァレンティーニ、クルニ、チェスコーニ、フォラドーリ、チャッチ・ピッコロミーニ、チェルバイオーラ、アンヌ・グロ、シルヴィー・エスモナン、ロベール・グロフィエ、プリウレ・ロック、カリヨン、サロン、アルバロ・パラシオス、ピングス、フォアマン、コリソン、セインズベリーなどと取引していました。彼らの多くは当時それほど知られていなかったため、私たちは先見の明に優れた会社としての地位を確かなものにしました。同じ頃、私はミアーニとレ・ドゥエ・テッレの下でワイン造りの実験を始めました。彼らは快く場所を提供し、私のコンセプトとアイディアを発展させることに協力もしてくれました。

その後、ビジネスが過度に成長し、設立時の私の想いと会社の方向性が異なってきたことから、私はこの会社を離れました。その際、フリウリの生産者達は私の進む道に賛同してくれたので、私は彼らのワインを世界に広めるため、一匹狼で再スタートを切りました。それまで私が必要とされるのは最終的なブレンディングやバレル・セレクションの時ぐらいでしたが、これを機に私の役割はどんどん複雑になっていきました。テイスターとしての能力のおかげで様々な造り手からワインを選ぶ機会が得られたため、私はネゴシアン業であるネコティウムをスタートしました。ネコティウムでは、ミアーニやレ・ドゥエ・テッレなどの生産者から上質のワインを少しずつ選び、自分の樽でより長く熟成させ、オリジナルラベルでリリースしました。このアイディアにより事業は拡大し、今ではピノ・グリージョやプロセッコのような手頃なワインも扱っています。

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他にはクル・チャーレにも携わりました。クル・チャーレは私、アグロノモ2名、ワインエージェントの計4名のジョイント・ベンチャーです。この新しいプロジェクトの背後には、フリウリの土地の個性に無頓着な大量生産の醸造所とは一線を画し、フリウリの立地の良い畑を借りてワインを造り、自分たちの手で瓶詰めしたいという想いがありました。クル・チャーレは1999年にスタートし、様々な区画からシャルドネやフリウラーノが造られました。この仕事は今も、私の友人であるルカ・シルクのセラーで続いています。

もちろん順風満帆なだけではありません。例えば、思い立ってクロアチアのフバル島に赴いた時のことです。そこはヨーロッパでも有数の美しいブドウ畑がある島で、プラヴァッツ・マリという偉大なポテンシャルを備えたブドウが植えられています。私は友人のアレックス・シムチッチ(クロアチアの名手エディ・シムチッチの当主)と一緒に、高速道路もない道を15時間もかけて車で移動し、さらにフェリーでフバル島に渡りました。実はアレックスはすでにその地で私たちの新しい試みに協力する意思があり、今までの時代遅れのスタイルに新風を吹き込みたいと心から思っているであろう生産者を見つけていたのです。到着は夜になりましたが、その生産者は新鮮なロブスターと共に、まるで飲めたものではない酸化した白ワイン(現在、ここフリウリでも何人かの生産者がこのようなワインを造ろうとしています…)をごちそうしてくれました。翌日私たちは畑を訪問し、新たなワイン造りの計画を立てました。

収穫時期になり、私たちはフバル島を再訪しました。新たな重大ニュースとしてワイン界で注目されるようなワインを造ろうという希望に満ちていました。セラーに行ってみると、生産者はただブドウの到着を待つばかりで、貧相なロバの背に揺られてビニール袋の中でもみくちゃにされたブドウが運ばれてきたのには驚きました。平均気温35度もの暑い中、除硬機に入れられたブドウはすでに完全に酸化しており、お酢のような香りを放っていました。アレックスと私は思わずお互いに顔を見合わました。そして生産者に新鮮なロブスターのお礼を言い、さらにあのアルバロ・パラシオラスのレミルタ(!)をプレゼントととして残し、車に飛び乗って悲しい帰路についたのです。

現在、私の事業は全てネコティウムの名の下で行われています。その中にはミアーニ、メロイ、ロンク・ディ・ヴィーコ、ロンコ・デル・ニェミツなどフリウリの素晴らしい生産者に加え、トスカーナのモンテカルヴィやピエモンテのフランチェスコ・リナルディなどの小規模生産者のエージェント業も含まれます。ワイン造りに関していえば、クル・チャーレ、妻セレナのロンコ・デル・ニェミツ、そしてもちろんネコティウムにて醸造家として忙しい日々を送っています。

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熟成ワインの魅力(後編)

熟成ワインの魅力(後編)

前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

By YURI ASAHARA
熟成ワインの魅力(前編)

熟成ワインの魅力(前編)

「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

By a.watanabe
太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

By a.watanabe