Vinitaly報告 ~土着品種ペコリーノを復活させた初の生産者サン・サヴィーノ (営業 青山 マルコ)

Vinitaly報告 ~土着品種ペコリーノを復活させた初の生産者サン・サヴィーノ (営業 青山 マルコ)
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ドメニコ・クレリコ氏来日に先立ち、今年もヴィニタリーに行ってきました。 例年にないくらい寒く、会場があるヴェローナ周辺のブドウの生育も遅いようでした。


さて、ヴィニタリーといえば、ある意味『ワインのお祭り』です。元々業者用の展示会ですが、最近ではワインと各ワイナリーのブースで出される美味しいおつまみを楽しみに来場する一般消費者も増えており、出展を見送る遠方の生真面目な小規模生産者も少なくありません。しかしそんな中、ヴィニタリーには参加しないにも関わらず、熱意を伝えに私たちに会いに来てくれた生産者がいました。今回は彼ら、マルケ州のサン・サヴィーノについてお話したいと思います。

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マルケ州の有名な白と言えばペコリーノです。2011ヴィンテージからこの品種を用いたOffidaのアペラシオンがD.O.C.G.に昇格しました。一方、サン・サヴィーノはガンベロ・ロッソにて、マルケのペコリーノ初のトレ・ビッキエリを獲得した生産者です。

地域の代表品種とそのトップ生産者。しかし、ペコリーノとサン・サヴィーノの間には、それだけではない関係がありました。もしかすると、サン・サヴィーノがいなければ、いまだペコリーノはD.O.C.G.ではなかったかもしれません。

『伝説のブドウ』ペコリーノ

ペコリーノというは、8月末~9月中旬に収穫される早熟の品種です。熟すのが早くても、糖・酸ともにしっかりのったブドウが得られますが、皮が薄くて繊細で、収量は自然と低くなります。羊がこのブドウを食べるのを見たローマ人がワインを造りはじめた、ともいわれる歴史あるブドウですが、近代に入り、10月初旬に一斉にブドウを収穫するというスタイルが取られるようになると、早熟で皮が薄いペコリーノは腐りやすい駄目なブドウとして扱われ、植え替えられるようになりました。更に低収量という性質から、1980年代のワインブーム時にはペコリーノに代わって、もっとたくさん実を付けるブドウが植えられるようになりました。

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19世紀末のフィロキセラのせいで、元々のブドウの数が少なかったことも影響しているでしょうが、1990年代頃にはペコリーノは原産地のマルケの生産者さえほとんど知らない存在になってしまいました。

ペコリーノの再発見

ペコリーノが姿を消した当時のサン・サヴィーノ当主ドメニコ・カペッチ氏もペコリーノについて知識はありませんでした。しかし、親交のあった内陸の村アルクアータである噂を耳にしました。標高700mを超える山の上のワイナリー跡地に、樹齢100年の土着ブドウの古樹が現存しているというのです。実際、荒れ果てた廃墟の近くに、数本の古樹が生きながらえていました。

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ペコリーノの起源には諸説ありますが、一説には羊飼いが夏の間に羊を山の上に放牧する際、下山する夏の終わりには収穫できるブドウとして早熟なペコリーノを植えたことから、羊(pecora)にちなんでペコリーノと名づけられたとも伝えられています。他のブドウ畑から隔離され、フィロキセラの威力も届かなかったであろうこんな山の中にペコリーノが残っていたのは、その名残なのかもしれません。

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興味をそそられたカペッチ氏は、一個人の趣味ではなく、マルケに受け継がれたこの品種のポテンシャルを公明正大に証明しようと決めました。マルケ州政府に届を出し、支援を取り付けた彼は、この古樹のペコリーノからマサルセレクションで約80km離れた自分の畑に接ぎ木し(自根で植樹するのは法律で禁止されています!)、1990年にシャルドネ、リースリング、シュナンなど、他の品種との比較実験を開始。栽培はサン・サヴィーノが、醸造・分析はマルケ州が担当しました。

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ペコリーノ、復活へ

ブドウの生育サイクル、実の成熟速度、収量、実の大きさ、成分分析など、3年かけてつぶさにペコリーノを観察した結果、判明したことは「他の品種と比べても、ペコリーノには優れた白を生み出すポテンシャルがある」ということでした。ここまで詳細な実験ができたのは、州政府の後ろ盾があってのことです。カペッチ氏は『失われたブドウ』ペコリーノから本格的にワインを造るため、それまで栽培していたトレッビアーノやパッセリーナをペコリーノに植え替えました。このブドウについて十分な知識を持つ人がいない中、先駆者として大変な苦労があったかと思います。しかし、その情熱は息子であり現当主のシモーネに受け継がれ、マルケの白として見事にこの品種を復活させたのです。

(分析結果)

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マルケ州からの実験証明書を持つサン・サヴィーノが、州政府公認のペコリーノを復活させた生産者であるのは明らかですが、それを知る人はあまり多くありません。当主の慎ましい性格を考えると納得の状況ですが、マルケでペコリーノを主体としたワインのレベルが上がってきており、その中心にサン・サヴィーノがいるとガンベロ・ロッソが称するのも当然の結果でしょう。

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文字通り、ペコリーノの第一人者が手掛ける最高のペコリーノ。サン・サヴィーノといえば濃厚な赤のイメージをお持ちの方もいらっしゃるかとは思いますが、是非お試しいただきたいと思います。

尚、親木となった古いペコリーノは現在、州に保護されており、誰の手に煩わされることなく静かな余生を送っています。

番外編:例えばこんなマリアージュ

シモーネと食事をしていた際、メインのつけあわせにアーティチョークが出てきました。すると、奥さんが静かに一言「アーティチョークと赤ワインはダメ。ワインが死んじゃうわ」。そこまで言われたらむしろ試してみたいアンチ・マリアージュ。合わせるワインは、濃厚な果実とマッチョなストラクチャーが自慢のトップキュヴェ、クインタ・レジオ。まず、アーティチョークを一口。ほっくりしっとりしていておいしいです。続いてクインタ・レジオを一口…。

…これはすごい!

マッチョなストラクチャーはそのままに、あの甘くてリッチな果実がすっかり消えてしまいました!素晴らしいマジック!!立派な包装の箱を空けたら中に何も入っていなかったかのような空振り感です!!!

ワインと料理の組み合わせは永遠のテーマですが、このアーティチョーク+赤ワインや、辛口リースリング+数の子など、やってはいけないマリアージュ例も押さえておいて損はありませんよ!

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熟成ワインの魅力(後編)

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前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

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熟成ワインの魅力(前編)

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「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

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