日本の魚とアルザスワイン (営業 池田 賢二)

日本の魚とアルザスワイン (営業 池田 賢二)
201307-2

こんにちは、営業の池田です。今回は、フィラディス・マリアージュシリーズ第2弾「日本の魚とアルザスワイン」についてお話をしたいと思います。


唐突ですが、「なぜアルザスワイン?」と思われた方が多いのではないでしょうか?

魚料理=白ワイン、誰もが知っている一般的な組み合わせですが、実際に合わせるその白ワインの品種と言えば、シャルドネ、ソーヴィニョン・ブランといったメジャーな国際品種や、海の幸に恵まれた沿岸エリアで造られる各国の土着品種のワインを選ぶことが多いと思います。元々、ワインと食文化は地産地消で育まれてきたわけですから、マリアージュとして理にかなっていて当然ですね。

しかし今回フィラディスが注目したアルザス地方は、リースリング・ゲヴュルツトラミネール・シルヴァネールなど多種多様な白ワインが特に有名ですが、あまり魚料理というイメージが浮かばない産地です。アルザス地方はフランス最東部、ドイツとの国境に位置する四方を山に囲まれた盆地で、郷土料理と言えばドイツ料理のようなお肉料理中心。とはいえ、アルザスの中心を流れるライン川では川魚がたくさん取れますので、アルザスの食文化に全く魚がないということはありません。ただ生で食べる文化は当然ありませんし、そもそも島国の日本で食される海の魚とアルザスワインは合うのだろうか???そんな疑問が出たら、探究心に火がついてしまうのが、フィラディス。

今回、はるばるアルザスから4人の生産者が来日したこともあって、彼らを代表する 4つのグランクリュと日本でよく食される魚とのマリアージュ会を開催しました。フィラディス社員御用達の居酒屋さんにご協力頂き、白身魚、赤身魚、青魚、エビ、イカ、それぞれお刺身と焼いたものを用意してもらいました。

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実験結果

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肉にも魚にも 1 本で合わせるならシルヴァネール!

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≪結果≫

シルヴァネールと最も相性が良かった素材は、風味のしっかりしたエビでした。特にしっかり焼いた方が、よりGood!!焼いて引き締まったエビの繊維の間に、固くてサラサラした質感のワインがうまく入り込み、お互いが引き立ちます。また焼いたことによってエビに香ばしさが加わり、このシルヴァネール特有のスモーキーなフレーバーと素晴らしいハーモニーを生み出す結果になりました。

生エビに対しては、ネガティブな意見は少なかったものの、特有のネットリ感やプリプリとした質感とワインの硬いテクスチャーの方向性が異なり、いまひとつの結果でした。

ここでもう一つ注目したいのは、白身魚。生でも焼いても特筆すべき評価はないものの、否定的な印象が全くなかった唯一の素材でした。それでは、なぜ高評価に繋がらなかったのでしょうか?それは、グランクリュならではの重厚なアフターが原因でした。食べ始めの印象はとても良い感触ですが、時間と共にワインの味わいが大部分を占めてしまい、違和感が出てしまうという意見が多数を占めました。結果としては、生が○、焼きが△となっていますが、焼いたキンメの焦げた皮の部分と一緒に合わせたときに、香ばしさや仄かな苦味がワインのフレーバーや複雑さにマッチして印象が非常に良くなったという意見もあり、素材にプラスα のアクセントを加える重要性に気づかされました。

≪シルヴァネールの総合評価≫

全体的には可もなく不可もなくという結果になりましたが、あくまでもゾッツェンベルグの強さ故。マリアージュの選択肢として、十分にポテンシャルを秘めている品種と言えるでしょう。もともと白いお肉にはとても合うシルヴァネールですから、魚系(特にエビ!)の前菜に白身の肉がメインというコース料理にワイン 1本で通すなら、幅広く対応できるシルヴァネールがお勧めです。

白身魚とドライリースリング、今回のマリアージュ大賞です☆

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≪結果≫

今回のマリア―ジュで、最も素晴らしい結果を生み出したのが、このドライなリースリング・カステルベルク。特に焼いた白身魚との抜群な相性は、目から鱗が落ちる発見でした。

このワインは、他のリースリングとは異なるクリスタルのような硬さを持つミネラリーな質感が特徴的で、そのテクスチャーが焼いた鯛やキンメの脂がのって引き締まった肉質と絶妙に合いました。またほのかに塩気を感じるこのワイン独特の旨みとキレのある酸が、上手に魚の臭みを消してくれます。更に程よい柑橘系の甘みが魚本来の旨味・甘みを引き立たせ、ワイン自体もよりボリュームアップしたかのような相乗効果を生み出し、ついつい笑顔になってしまうマリアージュでした。

焼くとバッチリの白身魚ですが、生の時にはどうしても魚の淡白さが際立ってしまうので、少しマイナスな印象も。ただ、すだちなどの柑橘系の酸と風味を加えるひと手間をかけることで、ワインの優美な酸や華やかなフレーバーが調和し、バランスが取れるという意見が多かったです。

実は青魚チームも、焼いたサワラだけは高評価を得ましたが、それはサワラの細かい繊維の詰まった肉質と焼くことによって血合いの生臭さが消え、引き出された旨味や甘みが上述の鯛やキンメと共通点があるからこそだと思います。そして生のエビも満足できる結果に。ワインのアタックに感じるほのかな柑橘系の甘みとエビの独特な甘みのボリューム感が調和していて、またカステルベルグ特有のミネラル感とプリプリしたエビの筋肉質なところもマッチしていて、心地良い組み合わせでした。

≪ドライリースリングの総合評価≫

和食のみならず、フレンチやイタリアンでも登場回数の多い鯛やヒラメなどの白身魚。合わせるならドライでテクスチャーのしっかりしたリースリングがベストマッチ。特にカステルべルグのある北部アルザスのような涼やかでキレのあるものを選ぶのがポイントです。

そして覚えておきたいもうひとつのポイント。白身魚の刺身にすだちを絞ることで、柑橘系の酸味とフレーバーがドライなリースリングと同調する絶妙なマッチングになったことです。なかなかぴったりと合わせにくいワインと刺身というこれまでの難題に一石を投じる結果となりました。

甘さのあるリースリングには意外や意外、イカチームが大健闘!

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≪結果≫

今回選んだアイシュベルグは、ドライなワインではあるのですが 2009 年南部アルザスはとても暑いヴィンテージだったため、より甘さが引き立つ味わいになっています。この若干甘さのあるリースリングとの相性の良かった魚ですが、なんとイカが健闘しました。イカに甘さのあるリースリング?と疑問を持たれた方もいらっしゃると思います。味わいや香りの強いエビですらワインのリッチさに負けてしまうのに、どうしてイカなのか…?

生イカの特徴は、キメが細かく滑らかで、噛むと歯応えの良い食感、イカ独特の旨味・甘みが噛むごとに出て余韻が長いところです。このアイシュベルクが持つ南部アルザスらしいふっくら柔らかいテクスチャーや甘みのあるリッチな果実味は、そのイカの滑らかな質感や甘み、旨味の方向性・大きさが非常に似ていて、お互いを引き立てる素晴らしい調和を生み出しました。

実はイカはスミイカとヤリイカを用意するというこだわりようだったのですが、より甘みと旨みの強いヤリイカがお勧めです。

焼いたイカは、ちょっと個性的なマリアージュ。焼いたことによって、内側モッチリ、外側プチっとになったイカに、柔らかく濃厚で甘みのあるワインの果実味が甘いソースのような役割を果たし、まるでナタデココを食べているかのような融合が感じられ、とてもユニークでインパクトのある相性でした。このナタデココ感は、より肉厚なスミイカの方によく表れていました。

そして番外編としてお伝えしたいのが、青魚チームのサワラ。同じチームにいまいちのアジがいたため、チーム総合でハイスコアを獲得することは出来ませんでしたが、噛めば噛む程旨味が出てくるサワラと、ほんのり甘みのあるリースリングがアフターにかけて味わいの強さが一致。口の中で全体のバランスが良くなり、心地よさを感じるという結果に。

≪アイシュベルクの総合評価≫

甘さのあるリースリングには、柔らかいながら弾力のあるテクスチャーと、その特有な甘みとの調和がポイントとなります。そこで今回、そのワインと共通する特徴を持つイカが大活躍したわけです。イカとサワラ以外の食材に対してはワインの全ての要素が素材に勝ってしまって難しい結果となりました。

個性際立つゲヴュルツ、派手派手か地味派手で!

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≪結果≫

ゲヴュルツトラミネールはご存知のとおり、芳香豊かでインパクトが強い品種です。さらにグランクリュのキルシュベルクですから、より香りが華やかでスパイシーさが際立ちますので、さすがに魚は合わないだろうという先入観を誰しもが持ってしまうワインです。実際、白身魚・赤身魚・青魚との相性は想像通りで、ワインの個性が前面に主張し、かつ魚の生臭さを引き出してしまうという最も厳しい結果となりました。しかし唯一、甲殻類が大健闘!!高級食材としての風格を感じさせる車エビは、焼くことによってエキゾチックでゴージャスに。キルシュベルクの華やかさ・ゴージャスさにも決して負けません。ですが車エビそのものにはスパイシーさがないので、出会いはバッチリですが、アフターにはワインのフレーバーだけが残ってしまったのが残念です。

そして、またまた意外な生イカとのマリアージュも興味深い結果に。イカの滑らかな質感がキルシュベルクのシルキーなテクスチャーと合い、またゲヴュルツトラミネールの仄かな甘さやスパイシーさがまるでソースのような役割となって、イカの旨みを引き立て、ワイン自体も生きてきました。

≪ゲヴュルツトラミネールの総合評価≫

ゲヴュルツトラミネールに関しては、そのエキゾチックな特徴が災いとなり、殆どの食材で高評価は得られませんでした。その中、エビとは派手さ+派手さのハーモニー、イカとは地味さ+派手さから出てくる相乗効果という異なるコンビネーションの妙は、とても面白く新しい発見でした。ゲヴュルツトラミネールとのマリアージュには、アロマとそのスパイシーなフレーバーを同調させる調理法やソースを加えることがポイントで、飛躍的に幅が広がるポテンシャルを感じさせる品種という見解で一致しました。

実験を終えて

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正直、実験前までは「どの食材も難しいかも」と不安に思っていました。というのも、今回選んだ4つのグランクリュは、個性的で華やかなワインです。どんな食材でもワインの個性が勝ってしまうのではないかと。

しかしそんな予想に反して、日本の魚に対するアルザスワインのポテンシャルを十分に感じられる結果となりました。今回のようにシンプルに塩だけの味付けという条件でも、見事な組み合わせを見つける事が出来ましたし、風味をプラスしたりソースのバリエーションや調理方法次第ではもっと良いマリアージュが期待できる内容でした。

日本の豊かな海の幸にアルザスの白ワイン。今後のマリアージュにおける選択肢の一つとして加えてみてはいかがでしょうか。特に今回の結果で☆や◎になった組み合わせは、一度お試し頂くだけの価値はあります。

追記

今回選んだ食材とは別に、今回のアルザス生産者来日に際して当社スタッフが発見したお墨付きの“和食+アルザスワインマリアージュ”をご紹介!!

○ピノ・ブラン(リーフェル)+あさりのお吸い物=あさりの塩味と旨味にピノ・ブラン爽やかな酸味と甘み、という四味が調和する理想的なマリアージュ。

○リースニング・カステルベルグ(ギイ・ヴァッハ)+のどぐろの塩焼き=のどぐろのジューシーな脂と旨味に、カステルべルグのほのかなミネラル系塩味と柑橘系の甘みがお互いを引き立てる絶妙なマリアージュ。

○リースニング・アイシュベルグ(エミール・ベイエ)+海老しんじょ=海老しんじょの柔らかい食感と噛むと広がるダシや海老の旨味が、アイシュベルグのふくよかなテクスチャーと甘みと同調するエレガントなマリアージュ。

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熟成ワインの魅力(後編)

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