ローヌ出張報告 ~Cote Rotieについて (営業 池松 絢子)

ローヌ出張報告 ~Cote Rotieについて (営業 池松 絢子)

9月の始め、まだ夏のバカンスの余韻を残す南仏マルセイユ空港から一路北へ向かい、ローヌへ出張に行ってきました。 目的はCote Rotieです。フィラディスとして、今後どのようなCote Rotieを皆様にご紹介するのがいちばんお役に立つのかを、明確にするために訪問してきました。


Rotieはフランス語で“焼けた”ということを意味し、その名前の影響もあってか、Cote Rotieはパワフルなワインだと思われがちです。また、品種がシラーということもそこに拍車を掛けているのかもしれません。ですが実態は北ローヌでも最北に位置するCote Rotieは究極にエレガントなワインです。世界トップのエレガント・シラーだと思います。その魅力は、決して濃さや強さではありませんでした。訪問して見えてきたCote Rotieの味わいを左右するふたつの大きな柱である“土壌”と“生産者のスタイル”について、ご報告したいと思います。

Cote Rotieの風景

決して大きくはないAmpuisの町から、堂々とゆったり流れるローヌ河の反対方向を見ると、南東向きに切り立った丘がそびえています。下から見上げるそれは丘というよりは全てが崖といった印象で、これまで私が見てきたワイン産地のどことも異なる独自の景観でした。その斜面に張り付くように作られた畑は、あまりに斜度があるので、かなり細かい段々畑になっていま
す。限られた畑を最大限に活かす為か、ひとつの段にたったひと畝という場所もあり、畑仕事がどれだけ重労働か、また命がけかは容易に想像がつきました。1970年代の初めには僅か70haまで畑が衰退してしまったという話も、やむを得なかったこととして実感できました。写真で、その“急斜面”が皆様に伝わると良いなと思っています。

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土壌で分かるCote Rotieの全体像

Cote RotieはCote Blondeより南側とCote Bruneより北側と、大きく二分して認識されることがこれまで多かったと思いますが、その分け方は少し大雑把過ぎるように思います。Cote Rotieはこの有名な2つの丘から成り立っている訳ではなく、実際は10ほどの丘から成り立っており、それは3つの地質に分かれていました。

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地図のようにCote Blondeまでの北部はシスト(緑)、そこからSemonsというリューディまでの中部ではシストと花崗岩が混ざり(黄)、最南部は花崗岩(ピンク)という区分です。ワインの味わいに深遠なシリアスさを与えるシストのエリアが最も広く、ちょうど南北の中間あたりに位置する、Cote Blondeがある丘とCote Bruneがある丘は両方シストです。

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2 つの丘の前に立って右左を見比べても、明確な色の違いはありませんでした。しかし生産者に確認すると、これまで言われてきた通り、土の色はCote Blondeは砂状で石灰が混じりやや白っぽく、Cote Bruneは粘土状で鉄が含まれやや黒っぽいとのことです。シストのエリアの中ではこの二つの丘の間で、鉄分の含有量と、砂状か粘土状かという点に大きな差があります。

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この二点を組み合わせて、Cote Rotieを土壌でもう少し正確に分けるならば、北から“シスト・粘土状・鉄”、“シスト・砂状・石灰”、“シストと花崗岩”、“花崗岩”の4つになると思います。

Cote BlondeとCote Bruneに並び有名なリューディとしてLandonneが挙げられますが、Landonneがあるのも異なる丘になります。こちらは 4 つの区分では“シスト・粘土状・鉄”の土壌になります。Cote Rotieの中でもファンの多い偉大な生産者Rene Rostaing訪問時のCote BlondeとLandonneの比較は、“シスト・砂状・石灰”と“シスト・粘土状・鉄”との違いを如実に表現していてとても興味深い試飲になりました。どちらにも比較しがたい魅力があります。Cote Blondeは軽やかさやエレガントさが際立ち、一方Landonneはしっりとして密度を持っていました。

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残念ながら、南部の花崗岩土壌の畑単体のCote Rotieとは出会う事ができず、はっきりと試飲で比べることはできませんでしたが、北部のシストに比べ南部の花崗岩土壌ではより軽やかでミネラリーな味わいになると考えられます。

更に畑の立地で見ると、南北以外にもうひとつ分け方が存在すると思います。

急斜面がほとんどを占めるCote Rotieエリアですが、Ampuis村にある丘を登りきるとそこには平坦で穏やかな光景のぶどう畑が広がっていました。ここで造られる最も有名なCote RotieはClusel RochのGlandes Placesではないでしょうか。このエリアでは年々畑が増えているようです。斜面で造られるものに比べ荘厳さはないものの、そこには穏やかという別の素晴らしい魅力が備わっていると思います。

ワインの味わいを決定する生産者によるスタイルの違いについて

今回の訪問で、おおよそ著名生産者と言われるドメーヌをほとんどすべて網羅することができたのですが、味わいのスタイルという視点で見ると、大きく 3 つに分かれていたように思います。Clusel RochやRene Rostaingに代表されるクラシックな生産者、Ogierに代表されるモダンな生産者、そしてYves Cuilleronのようにその中間に位置づけられる生産者の 3 つでした。例えば、Ogierは樽発酵で新樽を 20 ~ 30%使用し熟成しますが、Rostaingは一部除梗をせずバリックと中樽を両方使用しています。

Cote Rotieはテロワールとしては線の太いパワフルなワインができるアペラシオンではありませんので、どちらにしろエレガントな方向性にはなるのですが、モダンで果実味を豊かに感じさせる造りをする生産者のものは、若いうちから飲みやすく、より一般的に受け入れられやすい美点があると思います。逆にCote Rotie本来のエレガントさを際立って感じさせるクラシックな生産者のものは、アペラシオンの個性をより率直に表現しているのでテロワールを楽しむ通の飲み手を満足させることができますし、熟成による成長もより楽しめる、という魅力があるのではないかと感じています。

前項では土壌についてお話させて頂きましたが、Cote Rotieは畑ごとの個性よりも、このように生産者ごとの味わいのスタイルを理解する方が分かりやすいと思います。それは、リューディごとにワインを造るということがほとんどなく、北から南までいろいろな場所に植わるぶどうをブレンドしてひとつのキュヴェを造ることが一般的だからです。そのためCote Rotieのリューディはブルゴーニュのクリュのような見方ができないのです。

また、今回の訪問で分かったことがありました。このエリアで最大の力を持つ(もちろん果たした役割がとても大きいので当然ですが)Guigalに対する生産者達の遠慮?のような意識です。Guigal以外の生産者もCote BlondeやCote Bruneといった有名なリューディを所有していますが、例えそのリューディだけで造ったものであっても、ワイン名にはしない生産者が多いのです。多くの場合は別に独自のキュヴェ名を付けて上級キュヴェとしていますので、どの畑のぶどうを使ったものなのかは分かりづらく、畑の個性でそのワインを判断することを難しくしています。

なぜCote Rotieなのか

最後になりましたが、なぜ今あらためてCote Rotieに注目したのか、その理由をお伝えできればと思います。

もう皆様ご承知のことと思いますが、昨今の異常なボルドーとブルゴーニュの値上がりは、この先収束の見込みがないように思えます。悲しいですが、今後ブルゴーニュの偉大なワインはなかなか手の届かない存在になる可能性が高いです。

Cote Rotieは大量生産ができるようなものではなく価格が安いワインではありませんが、品質に対する価格という観点で見ると、本当の意味でのコストパフォーマンスは充分過ぎるほどに持っていると感じます。手を伸ばしづらくなったブルゴーニュから少し離れて、「それでもやっぱりエレガントなワインが好き!」という方が頭に浮かべる選択肢として、Cote Rotieはおすすめです。そんな方々に、新たな扉を開けてもらう、そして楽しむワインの幅を広げてもらう、そのようなご提案をしていければと思っています。狭いエリアで生産者も生産本数も限られる中ではありますが、ファインワインを含め、お役に立つCote Rotieがお届けできるよう、努めていきたいと思います。

つい最近の 2000 年代初めまでは植え替えの時に、味わいが開きやすい南仏のシラーのクローンを植えた生産者も少なからずいたそうです。しかし今は本来この地にあったシラーをセレクションマッサールする方が長熟で偉大なものが出来るとみんなが気づき、変わってきているそうです。この素晴らしい変化で、Cote Rotie全体がクオリティの面で更に一歩上に進んでいくこともこれから期待できそうです。

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