イタリア出張報告 ~メラーノ・ワイン・フェスティバルとドメニコ・クレリコ訪問 (営業 青山 マルコ)

イタリア出張報告 ~メラーノ・ワイン・フェスティバルとドメニコ・クレリコ訪問 (営業 青山 マルコ)
クレリコ今

毎年4月にヴェローナで開催されるイタリア最大のワインの展示会、ヴィニタリーまで2ヶ月余りとなりました。それに先駆け、今回はヴィニタリーに次ぐイタリア有数の展示会のひとつ、メラーノ・ワイン・フェスティバルを訪問したことについてお話ししたいと思います。


メラーノ・ワイン・フェスティバルとは

メラーノ・ワイン・フェスティバルは、1992年から毎年11月に開催されている歴史ある展示会ですが、実は今まで足を運んだことはありませんでした。その理由のひとつが、開催地のロケーションにあります。イタリア最北部の州のひとつであるトレンティーノ・アルト・アディジェ州の中でも更に北、オーストリアとの国境がすぐそこに迫るメラーノという小さな町に会場が設けられるのです。

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この展示会はイタリアの他の都市から非常にアクセスしにくい場所で開催されるにも関わらず、イタリア全土の著名生産者と優れたワインが集まることで有名です。その秘密は出品ワインの選定方法にあります。ヴィニタリーなど通常の展示会ではスペースさえあれば出展希望の生産者全員が参加することができ、生産者はどのワインでも自由に展示することができます。

しかしメラーノ・ワイン・フェスティバルでは、出展希望者はまず主催者に出品したいワインのサンプルを送らなければならず、選考に通過したワインとその生産者のみが出展を許されるのです。審査基準は非常に厳しく、前年出品したヴィンテージと同じワインを出すことは認められません。それに加え、1日あたり90ユーロという高額の入場料により、来場者もワインに真剣な業者や愛好家のみとなります。お祭り気分の一般来場者が増えてきたヴィニタリーとは、この点も異なります。また、ビオワインのカテゴリーだけの日があったり、イタリアのみならず、ユニオン・デ・グラン・クリュ・ド・ボルドーやその他ヨーロッパ、新世界のワイン、更にはビールの試飲会も同時開催されます。

ちなみに、2013年度のメラーノ・ワイン・フェスティバルの出展生産者は合計約5百社、訪問者数は6千5百人でした。一方、同年のヴィニタリーの出展者は4千社以上、訪問者は14万8千人を超えました。それでも、メラーノ・ワイン・フェスティバルの会場は常に人でいっぱい、熱気にあふれていました。私の感覚では会場の規模の違いもありますが、ヴィニタリーよりも混み合っていると感じました。

また、著名生産者の厳選されたワインのみを試飲することができるこの展示会には、他にも魅力があります。ひとつは、著名生産者のバックヴィンテージが試飲できることです。生産者ブースに通常展示されているワインだけではなく、朝から15分刻みでどこかのブースで貴重なバックヴィンテージが数量限定で試飲に出されるのです。下にその一例を挙げましたが、会場では「次は××が開くぞ!」という訪問者の熱狂的な声が飛び交っていました。

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もうひとつ、このフェスティバルの特徴的なイベントは、試飲会と並行して別会場で開催される垂直試飲セミナー各種です。今回、Le Macchiole Messorio 1998~2009やCh Grand-Puy-Lacoste 1978~2008、Biondi Santi Brunello 1971~2008などがありましたが、ビオンディ・サンティの垂直セミナーに参加してきました。やはり人気が高く満席でしたが、セミナー開催直前まで交渉し、何とか追加席を設けてもらうことができました。しかし、そこは主催者席のど真ん中。私の隣にはビオンディ・サンティの販売責任者、その隣にはヴェロネッリ誌のテイスター、ダニエル・トーマセスが座り、正面にはセミナーを聴講するソムリエやジャーナリストなど約50名が並ぶという壮観な眺めの中、リゼルヴァ含む1971年から2008年までの8ヴィンテージを試飲したのでした…。

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このように、メラーノ・ワイン・フェスティバルはイタリアのトップ・ワイナリーや注目ワインを知るには絶好の場所ですが、難点もあります。厳選された出品ワインは上級ワインに偏っている傾向にあるため、生産者のベーシックなラインナップを試飲できないのです。ワイナリーの顔ともなる上級のラインナップは質が高くて当たり前だと考えています。それよりもお客様にご紹介する機会が多い基本のワインを知らないことには、ワイナリーとの取引を決めることは難しいのです。その点においては、ヴィニタリーにアドバンテージがあるといえるでしょう。この教訓を活かし、今後もフィラディスのイタリアワインを一層充実させることに励みたいと思います。

ちなみに、このメラーノ・ワイン・フェスティバルではアジア系の来場者をまったく見かけませんでした。アジアではまだまだ馴染みがない穴場的な展示会なのでは…。

ドメニコ・クレリコ訪問

メラーノの後はピエモンテに移動し、昨年 5 月の来日のお礼を兼ねてドメニコ・クレリコを訪問しました。アメリカ訪問直後という強行スケジュールでの来日だったので、当時は相当お疲れの様子でしたが、新設セラーで迎えてくれたドメニコ氏は非常にお元気で、トラクターどころか乗用車も普通に運転できる程でした。

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私はドメニコ・クレリコの新しい醸造施設を見たのは今回が初めてだったのですが、要塞のような巨大な規模に驚きました。とにかく広大な施設の中には、巨大なロータリー・ファーメンターがずらりと並ぶ発酵室や、バリックが整然と置かれた熟成庫だけでなく、タンクからワインを移動する際に使うホース専用の収納部屋すらあり、重力システムを利用するために何層にもなったセラー内部には至る所にエレベーターが設置されていました。

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正直なところ、やりすぎではないかと感じ、思い切ってドメニコ氏になぜこんな大規模なカンティーナを建設したのか尋ねました。彼の返答は意外なものでした。「正直、こんな広大なスペースは実際ワイン造りには必要ない。ただ、一代でここまで大きなものを造ることができると、若い生産者に見せたかったんだ」。子供がいないドメニコ氏にとって、この地でワインを造る若者たちは自分の子供同様なのでしょう。彼らにアメリカン・ドリームならぬ、ワイン・ドリームを示したいというドメニコ氏。これまでバローロのワイン造りをけん引してきた彼の中に、その歴史と未来に対する責任感を見て、ドメニコ・クレリコは紛れもなくバローロを象徴する造り手なのだと改めて実感しました。

セラーと畑の見学の後、モンフォルテ・ダルバの老舗リストランテ、Da Felicinで夕食をともにしました。ここはドメニコ氏が 15 歳で初めてアルバイトしたリストランテで、白いジャケットを着た給仕姿の若き日のドメニコ氏の写真が店内に飾られていました。食事だけでなく、もちろんお店のワイン庫も楽しませてもらいました。

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地下セラーには、バローロやドルチェット、ランゲなど、アペラシオンごとにスペースが区切られワインが整理されていましたが、その片隅に、”Barolo Bianco”と書かれたボトルがあることに気付きました。バローロというのに、中の液体はビアンコの名前の通り赤くないのです! 1950 年代-1960年代のワインだったので、当時は白のバローロも存在したのかと驚きましたが、”Bianco”というのは生産者名で、その正体は長い熟成を経て色素がすっかり抜け落ちてしまったバローロでした…。

この状態のワインですから、ただの飾りとネタでしかなかったので、もちろん”Barolo Bianco”は飲みませんでした。

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また、夕食を共にしながらドメニコ氏は「まだ判断するには早いが、2013 年は開花が遅れ収穫時期が最近の年よりも遅かった。でもその収穫時期が理想的だったことを考えると、もしかしたら偉大な年になるのではないかと期待している」と言っていました。

フィラディス取り扱いピエモンテの他の生産者からも同様に「春の到来が遅く、6 月頃まで天候不順が続くも夏以降は天候に恵まれ、収穫は例年より 3 週間程遅かったが、秋の収穫時期は理想的な天候に恵まれた。偉大なVTとなりうる可能性がある」。との情報が入っています。2013 年に期待が膨らみます。

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熟成ワインの魅力(後編)

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前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

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熟成ワインの魅力(前編)

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

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