ヴァン・ジョーヌ、サヴニエールの真価に触れ、思うこと (営業 古川 康子)

ヴァン・ジョーヌ、サヴニエールの真価に触れ、思うこと  (営業 古川 康子)
サロン・デ・ヴァン・ロワール

みなさんは普段レストランで、どんなワインをどのようにお料理に合わせられますか?多くのフレンチレストランのワインリストは、シャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュの3大地方が大部分を占めており、他の地方があっても、どうせボトルを頼むなら、ブルゴ-ニュのシャルドネ、ボルドーもしくはブルゴーニュの赤といったところでしょうか。 2月初旬、ジュラとロワールに行ってきました。そこで出逢えたワインについては、いずれ皆様にご案内できる日が来ると思いますが、今回はその土地で経験できたことについて、少しお話します。


感動のマリアージュ、ヴァン・ジョーヌ

ジュラといえば、もちろんヴァン・ジョーヌ。

サヴァニャン種を樽に入れ6年以上の間、補酒されることなく熟成されたものだけが名乗ることの出来る黄金色のワインです。この熟成過程でワインは樽の中で目減りしますが、ワインの表面に酵母の膜が出来ることによって急な酸化から守られ、独特の風味をもったワインが生まれます。その魅力にはまり、レストランで使っていらっしゃるソムリエさんもごく一部いらっしゃいますが、せいぜい1度か2度飲んだことがあったかな?という方がワイン好きの方々の中でも大半ではないでしょうか?その素晴らしさが語られることがあっても、実際普及していないのが現状です。

そんなヴァン・ジョーヌとの有名なマリアージュといえば、“ブレス鶏のモリーユ茸とヴァンジョーヌ煮込み”。想像しただけで目が輝く一品。ブレス鶏は、ジュラ県を含む3県にまたがるブレス地方で飼育される、フランスでも唯一AOC認定を受けている高級鶏。余談ですが、高速道路のブレスのサービスエリアのキャフェテリアで、普通にこの高級鶏が焼かれているのを発見。ちょっと火を入れ過ぎでしたが、それでもジューシー、さすがブレス鶏様!と感動した一コマがありました。時間の無い方にはお薦めです(笑)。

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郷土料理とその土地のワイン。残念ながら、この王道の組み合わせは体験できませんでしたが、ヴァン・ジョーヌ1本でディナーを通す意外な楽しみがありました。前菜にお薦めされたのが、なんと“スープ・ド・ポワソン”。山麓のジュラの小さなレストランのメニューにあること自体に驚きましたが、まさか、ヴァン・ジョーヌに合う料理としてお勧めされるとは。しかし、生涯忘れることのない感動のマリアージュだったのです。旨みのたっぷり詰まった濃厚なスープに、長年熟成を経ることによって生まれたナッツやはちみつ、スパイスの風味、そしてドライで深みのあるヴァン・ジョーヌの個性が寄り添い、お互いの風味を引き立てていくのです。双方の味わいをより長く楽しむことのできるマリアージュ。そして、マダムのお薦めのお肉料理は子羊!?でも合ってしまうんですね。もうこの現実は受け入れるしかありません。全く想像もしなかったこれらの組み合わせに脱帽。ヴァン・ジョーヌという個性の強いワイン1本でディナーを存分に楽しむことができ、大満足です。

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ヴァン・ジョーヌは決して安いワインではありませんが、そのワインに掛けられた時間(最新ヴィンテージで2007年!)と生み出されるクオリティー、そしてその多様性を考えると十分納得の価格です。では、お料理がなければ、やっぱりヴァン・ジョーヌは難しい?いえいえ、コンテがあれば、それだけで幸せです。王道の組み合わせですが、ご経験は?まだの方、是非ここから始めてみてください。

シュナン・ブランとサヴニエール

さて、もう一つ、ロワール地方アンジェからのお話を。ロワールと聞いて一般的に想像あるいは飲むワインといえば、サンセールを代表するソーヴィニョン・ブラン種、そしてミュスカデ種ではないでしょうか。素晴らしい白ワインを生み出す地方ですが、なぜかロワールを代表するシュナン・ブラン種は、日本人にあまり馴染みがありません。弊社取扱いの中でも人気生産者であり、ロワールの評価では常にトップクラスの評価を得ているジャニエールのベリヴィエールも、当初ご案内を始めたころは、「シュナン・ブランの使い方がよくわからない」、「シュナン・ブランは売れない」という理由だけで門を閉ざされたものでした。

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そのシュナン・ブラン種のワインの中でも、最も遠ざけられているであろうサヴニエール。ニコラ・ジョリーのクロ・ド・ラ・クレ・ド・セランが有名というか、あまりにも印象が強いのか、皆さんはサヴニエールにどのようなイメージをお持ちでしょうか。サヴニエールは、素晴らしいテロワールに恵まれロワール地方におけるグラン・クリュに値し、比類なき高品質で長熟なワインが生み出されます。収量は平均でも 34hl/haと、フランスの辛口白ワインの中で最も低い数字であることからも明らかです。なのに、“難しい”という言葉で片付けられてしまう。

今回私がレストランで試したのは、2004年のサヴニエール。ワインリストの中ではちょっと古めのものにも関わらず、それほど高くないので大丈夫かな?と思いつつも、興味をもってトライ。

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まずテイスティング、その心配はすぐに吹き飛びました。かりんや蜂蜜の香り、コクがあり芳醇でありながら、毅然としたミネラルがきちんとワインに緊張感を与えています。1 日 200 種以上のテイスティングという連日の展示会で疲れ切った心と身体を癒してくれます。2004 年の白であれば既に 10 年という時を経ており、最近ブルゴーニュのプルミエクラスでも、モノによっては飲みごろのピークを過ぎ、難しくなっているものがあるくらい。それなのに、このサヴニエールは全くそんな世界とはかけ離れた熟成具合。熟成により複雑で豊かさが増しながら、どこかフレッシュ感を感じるほどです。

お料理は特別なものを頂いたわけではありません。前菜では定番のホタテのポワレ。素材の甘みとシュナン・ブランの心地よい甘み、そして帆立とワインの柔らかいテクスチャーがぴったり、味わいの方向性が一致し更に強い味わいへと膨らみます。贅沢にブルゴーニュのシャルドネを合わせるのもいいですが、負けていないですよ。プロヴァンス風のスパイスが効いた付け合わせにも、ワインにあるスパイシーさと共通点が見出せます。

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お魚料理は鱈、こちらも素材の甘みを引き立てながら、添えられたトリュフとワインの土っぽいブーケがハーモニーを奏でます。そして残ったワインは、もちろんシェーブルチーズと。1本で前菜からチーズまで楽しむことができます。「シュナン・ブランの甘みが…」と言われますが、実はこの甘みがシュナン・ブランにしか出来ない技を披露してくれるのです。

ジュラのヴァン・ジョーヌ、ロワールのサヴニエール、偶然にもマイナー系白ワインでの新たな発見というか、これまでワインの仕事をしながら目を向けていなかったことへの大反省となった出張でありました。とても感動しつつも、同時にこれらのワインが多くの人のなかで、誤解もしくは未知の世界にあることが残念で残念でなりません。決して“難しい”ワインではなく、実に多様性のある、万能で質の高いワインなのです。そして、飲み手の心を癒してくれる滋味深いワイン。

「もっと多くの方に知ってほしい」。これまでで、一番強くそう思いました。

今回は、たまたま 2 つのワインから教えられたことですが、そんなワインが、決して遠くにではなく、手を伸ばせば届くところにあると思うのです。ワインの世界は無限です。でもちょっとしたきっかけで、その楽しみ方は何倍にも広がり、心を豊かにしてくれます。

ぜひ既成概念にとらわれず、少し冒険もしてみてください。そのお手伝いとなるご提案ができるよう、フィラディスは日夜ワインの探究に努めます!

追記

帰国後はついついワインリストの中で、そんな変わりモノを探す癖がついてしまいました。

先日グラスで頂いたのは、2011 Saveniere Les Vieux Clos / Nicolas Joly。〆に頂いた一杯ですが、ブルゴーニュのグラン・クリュを頂いた後にもふさわしい風格。しかもお財布にも優しい。そんなお店が増えることを個人的にも願っております。

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熟成ワインの魅力(後編)

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前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

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熟成ワインの魅力(前編)

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「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

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