ブルゴーニュ出張報告 ~若手の躍進と、見直すべき一級畑の魅力 (営業 曽束 仁寿)

ブルゴーニュ出張報告 ~若手の躍進と、見直すべき一級畑の魅力 (営業 曽束 仁寿)
6197

3月の中旬に、2年に一度開催されるブルゴーニュ・ワインの大試飲会「Grands Jours de Bourgogne 2014」に参加してきました。この試飲会は、北はシャブリから南はコート・シャロネーズまでをカバーする大規模な試飲会で、アペラシオン毎に試飲会場が集約され、直接生産者がブースに立つ大変魅力的な試飲会です。


gazou1

2012年ヴィンテージと天候への不安

今回試飲したヴィンテージは、2012年となります。一言で表すと赤・白ともに凝縮感のある優良なヴィンテージでした。ワイン評論家のティム・アトキンMWは、12年が99年、05年、09年、10年のような優れたヴィンテージに含まれることを確信しています。

しかし、12年が生産者が楽観視できるほどに気象条件に恵まれていたのかというと必ずしもそうではありません。まず2月は非常に寒く、霜害が起き、3月に一度暖かな天候が続いた後に、4月に入るとまた気温が下がり、5月まで霜害の影響が続いたこと。4月からは断続的に雨が降り、7月末までの内6週は例年より50%多く雨が降りました。この開花期での霜害は結実不良を引き起こし、例年以上の大雨は大量のカビ病を引き起こすこととなりました。更に打撃を与えたのが6月から8月初旬にコート・ド・ボーヌを襲った嵐により収量が落ちてしまった事です。7月からは気温が上がり、8月には一部の畑でブドウが日焼けを起こす程に暑くなりました。霜(Gel)、雹(Grele)日焼け(Grillure)の3Gが生産者を困らせる要因だったようです。夏は例年よりも暑く、秋が早くやってきた事に加え、上述の天候による低収量が、結果優良なヴィンテージを生む事になりました。

しかしながら、ここ最近の不安定な天候を生産者は憂慮しているようです。2010年から2013年の4年間の総生産量は例年の2年分にしかなりませんでした。1950年代以降、これほど収量が少ない年は無かったそうです。このような気候への不安を語るCoche-DuryのJean-Francois Coche氏のインタビュー記事がありました。「最近の気候パターンは栽培家にとって一層問題
になりつつある。このような状態が続けば、ブルゴーニュは非常に短期間で壊滅するかもしれない。ローンの支払いに苦労しているワイナリーに対し、抵当流れをしないよう、地元の政治家が銀行に圧力をかけなければならないところまで来ている。また、地球温暖化に伴い、生息するはずがない虫を見るようになり、新たな病害も危惧する」という内容でした。

今回訪れた3月中旬も毎日暖かく、生産者は開花が早まることを危惧していました。生産者にとっても、いちブルゴーニュファンとしても、今年こそは、生産量の多いヴィンテージを迎えて貰いたいものです。

世代交代による若手の躍進

今回の試飲会は生産者が直接ブースに立っていたため、印象に残ったのが80年代以降に生まれた若手の活躍ぶりです。世代交代により著名生産者の顔ぶれがその子息に代わっており、経験数は絶対的に少ないはずなのに、見事にどれも素晴らしいワインに仕上げています。

1981年生まれのDenis MortetのArnaud Mortet、CharlopinのYann Charlopin、DurocheのPierre Durocheのジュヴレ村の3同級生。他にも、1984年生まれのSylvin Cathiard Sebastien Cathiard、1985年生まれのHenri BoillotのGuillaume Boillot にTessierのArnaud Tessier、 1988年生まれのHudelot NoellatのCharles Van Canneyt。Georges NoellatのMaxime Cheurlinに至っては、1993年生まれの若干21歳という恐るべき面々です。

次の世代交代まで少なくても20数年あります。今後彼らがどこまで進化していくのかを考えると、末恐ろしくさえ感じます。

一級は単一、それともブレンド?

今回Jean=Louis Trapetとの会話で、改めて一級畑について考えさせられました。『一級畑』というと、特級畑と村名格の中間に位置づけられており、価格もそれに準ずるため、魅力が両者よりも語りづらいのではないでしょうか?しかし一級畑こそ数も多く多様性があり、もっと深く知るべきだと今回強く思いました。

単に一級ワインと言っても、畑名を記載しない一級ワイン、単一畑で詰めた一級ワイン、はたまた特級畑の若木を格下げした一級畑など様々です。LecheneautのLes Damodesでは、一級畑の区画と村名格の区画を所有し、両者の違いがあまり見当たらないという理由で、これまで敢えて村名格のLes Damodesでリリースしてきました。(今回の 2012 年は一級区画のみ瓶詰して、一級ワインとしてリリースしていました)。

Trapetではジュヴレ村に様々な一級畑を所有していますが、単独の畑で瓶詰するのはPetite ChapelleとClos Pieureのみ。

その他の一級畑はそれほど強い個性を持つ畑でないため、1er Cru Capitaとして 3 つの一級畑をブレンドしてリリースしています。(ちなみに 2010 年と 2012年はあまりにも収穫量が少なかったので、全ての一級畑をブレンドして、1er Cru Alea(直訳:危機)という名でリリースされています)。一級でも個性の強い畑は単体で詰めた方が良いでしょうが、個性がそれほど強くない畑の場合、お互いの個性を上手く引き出し補い合うことによって、よりスケール感の大きな球形に近いバランスのとれた味わいのワインに仕上げています。

特級畑の価格は、以前は村名格を「1」とすると、一級畑が約 1.2 ~ 1.5 倍、特級畑が約 2 倍程度の価格差でしたが、現在では一級畑が約 1.5 ~ 2 倍、特級畑に至っては 3 ~ 5 倍、場合によっては 10 倍もの格差になってしまいました。特級畑はその偉大さゆえ味わいの個性も強くて分かりやすく、更に数も少ないので世界的な需要は非常に高い状態が続いています。特級畑の入手が難しく、また価格的にも販売が難しくなりつつある今だからこそ、村名格にはない畑の個性を感じることができる一級畑の存在を見直してみてはいかがでしょうか。

余談:映画俳優としても一流? Guy Roulot

今回のテイスティングで最も印象に残ったのがGuy Roulot。日本でもなかなか目にする機会は少ない造り手ですが、品質は間違いなくムルソーで最上の造り手でした。その当主のJean-Marc Roulot氏は、若かりし頃俳優だったそうで、久しぶりに映画作品に出演されています。出演作は、ミッテラン元大統領のプライベート・シェフを描き、昨年日本でも公開された『大統領の料理人』。ソムリエ役としてストーリー上で重要な役を演じています。

是非、本人に会ったときは「Movie Star!」と呼んであげてください。もしかしたらドメーヌの超希少なムルソー・ペリエールを開けてくれるかもしれませんよ(笑)。

Read more

熟成ワインの魅力(後編)

熟成ワインの魅力(後編)

前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

By YURI ASAHARA
熟成ワインの魅力(前編)

熟成ワインの魅力(前編)

「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

By a.watanabe
太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

By a.watanabe