ロワール出張報告 ~ミュスカデの現状と、“21世紀のフィラキセラ”と呼ばれるエスカEsca(営業 古川 康子)

ロワール出張報告 ~ミュスカデの現状と、“21世紀のフィラキセラ”と呼ばれるエスカEsca(営業 古川 康子)
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2月の月初に、サロン・デ・ヴァン・ド・ロワールへの参加に合わせて、昨年より取扱いを始めました、ミュスカデのダヴィッド・エ・デュヴァレを訪問してきました。 ミュスカデの栽培面積は約6000haで、現在約700軒の栽培家がいるそうです。しかし、生産されるワインは、70%がネゴシアン、30%がドメーヌ詰め。まだまだ大量生産のネゴスワインが多いことがわかります。 ダヴィッド・エ・デュヴァレは、栽培家の4代目ステファン・ダヴィッド氏が栽培を、パリのレストランで働いていたセバスチャン・デュヴァレ氏が醸造を主に担当しています。


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地道な取り組み

ミュスカデは畑によって様々な土壌から成り、同じ生産者でも全くキャラクターの異なったワインが出来るという多様性がとても興味深く、畑を訪れることが楽しみでした。

この日は、ちょうどステファン氏が冬の剪定作業を行っておりました。ブドウの樹の枝を1本だけ残して後は全て切り取っていくという地道な作業なのですが、所有畑にあるブドウの樹は20万本。これをたった3人で2~3週間かけて行うそうです。1人約7万本です!この日の気温は氷点下、しかも強風で体感温度は更に低く、手袋をしても私には堪えられない寒さでした本当に頭の下がる思いです。

このような努力をしても、大量生産のミュスカデの何倍もの価格になるわけはなく(と言うより、価格はほとんど変わりません)、なかなか報われないというのが実情です。手を掛ければ掛けるほど、収益は悪化します。近年廃業する生産者も増えていますが、残念ですが理解できる現実でした。

もう1つ、珍しい取り組みをしていました。ここダヴィッド・エ・デュヴァレは、苗木も自分たちで栽培しています。ミュスカデではたった2件しか行っておらず、手間の掛かる気の長い取り組みですが、まるで子供を育てているかのように可愛がっている様が、とても微笑ましかったです。

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エスカ Esca

剪定中のブドウ畑で、現在問題となっているブドウの病気を目の当たりにしました。剪定の途中、ステファン氏が樹齢の古い樹をポンと蹴るといとも簡単に倒れ、手に取ったその樹はスカスカになっていました。これは、エスカEscaという病気で、胞子が根を腐らせてしまうのです。畑の脇には、エスカに罹って引き抜かれた樹があちこちに積み重ねられており、その光景は忘れることができません。

エスカはローマ時代から存在しますが、農薬で対策をとって抑えられていたものの、その農薬に発ガン性物質が含まれているということで、フランスでは2001年に全面的に使用禁止となりました。以来、特にこれといった確実な対策が見つかっておらず、フランス全土で深刻な問題になっています。特に、樹齢10年から25年という最も収穫に適した樹を好むため、生産者はせっかく手間暇かけて育てた樹の植え替えを余儀なくされ、その労力と費用の負担は多大なものになっています。数年前には、マコネの生産者たちが何の対策も行わない国に対してデモを起こしたというニュースもありました。

「21世紀のフィラキセラ」とも呼ばれるエスカですが、既にフランスだけでなく、他のヨーロッパ諸国や北米、オーストラリアでも問題になっています。まだ日本へはそれほど情報は入って来ていませんが、近い将来私たちにとっても深刻な問題として迫ってくることは間違いありません。

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熟成ワインの魅力(後編)

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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