ワイン樽特集 第2弾 『樽はワインの味わいにどんな影響を与えるのか』 (営業 加藤 武)

ワイン樽特集 第2弾 『樽はワインの味わいにどんな影響を与えるのか』 (営業 加藤 武)
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前号のニュースレターでは、ワイン生産に欠かせない樽について、オーク材やその産地、樽メーカーの違いから製造工程まで、意外と知られていない正しい情報を整理してお届けしました。   今回はワイン樽が及ぼす味わいの変化がテーマです。 昨年のスペイン出張で生産者を訪問した際に、同じベースワインを産地が違う3種類のオーク樽でそれぞれ熟成させた ワインの比較試飲と、異なる樽メーカーの樽で熟成させたものを試飲するという貴重な体験をしてきましたので、そこで学んだことをお届けしたいと思います。


樽(オーク)の違いによる味わいの変化   リオハ Valenciso

昨年より弊社が取扱いをしているリオハのバレンシソを訪問した際に、同じベースのワインをフレンチオーク、アメリカンオーク、ロシアンオークの3種の樽でそれぞれ熟成させたものを試飲することができました。

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バレンシソで使用する樽メーカーはRadouxラドー社の一社のみ、そして樽の焼き加減は全てミディアムローストということで、オークの産地以外は全く同じ条件でのブラインド試飲でした。ちなみにブラインドだったので3種を当てようとしましたが、私は一つも当てることが出来ないという非常に恥ずかしい結果となってしまいました。

★ アメリカンオーク
イメージをお持ちの方も多いと思いますが、3種の中で一番バニラやココナッツの香りが強く、分かり易い樽のフレーヴァーがあります。

★ フレンチオーク
アメリカンオークと並んで馴染みの深い産地ですが、こちらは香りが非常に繊細でしなやか、特徴的な香りにリコリス(甘草)があるそうです。

★ ロシアンオーク
あまり馴染みのないロシアンオークですが、3種の中では一番控えめでソフト&ニュートラルな印象です。特徴的な香りとしてバルサミックの香りがあるそうです。

生産者から説明を聞くまでは違いは判るものの明確に表現することが出来ませんでしたが、改めて3種をじっくりと試飲してみるとやっと上記のような違いを感じとることが出来てきました。今までは新樽率が高いか低いかは意識して試飲したことはありましたが、オーク材の違いにここまで意識を集中して試飲したことはありませんでした。

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アメリカンオークに関しては、バニラなどの強い樽香のイメージは何となく持っていたにも関わらず、こうして3種を比べて 試飲しないと明確な特徴を捉えることは出来ませんでした。ましてやフレンチオークとロシアンオークの違いは微妙で、今回はビンテージも同じベースワインだったのでやっと特徴を僅かに感じ取れましたが、違うワインで違う樽メーカーだったら言い当てることなど到底できません!(私には…)。

今回は特にフレーヴァーに注目して試飲しましたが、もちろん樽が与えるワインへの影響はフレーヴァーだけではありません。しかしながら、この3種のフレーヴァーの特徴がどんなワインに合うのか、どの様な意図で使われているのかは少しだけ理解出来てきたような気がします。

樽メーカーによる味わいの違い   リベラ・デル・デュエロ Finca Villacreces

バレンシソの後に訪問したリベラ・デル・デュエロの生産者フィンカ・ヴィリャクレセスでは、同じベースワインを今度は樽メーカー違いで熟成中のものを試飲することが出来ました。

フィンカ・ヴィリャクレセスは、数ある樽メーカーの中でもボルドー右岸を中心に世界中のトップワイナリーから愛され、自身が認めたワインにしか樽を卸さないといわれるダルナジュー社から樽の使用が認められたワイナリーです。スペインでは3社しかおらず、残りの2つがベガ・シシリアとピングスであることからもその評価の高さが分かります。

試飲では、同ワイナリーが誇るトップキュヴェNebroネブロを、ダルナジュー社製の樽とフランス・コニャックのタランソー社製の樽の2種類で熟成中のものを比較試飲しました。どちらのメーカーもフレンチオークです。

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★ ダルナジュー社製
非常にローストの強さを感じさせ、スモーキーなカカオやバニラ、スパイシーな香りを多く感じ取れます。口の中に入れるとまず樽由来のフレーヴァーが立ち、その後から徐々にフルーツの香りが追ってきます。

★ タランソー社製
樽由来の香りは十分に感じますが大分繊細で優しい香りです。ダルナジュー社製に比べ口の中で先に感じられるフレーヴァーはフルーツの香りで、中盤から樽の優しい香りを纏っていくようなイメージでした。

この2つをその場でブレンドしたワインも試飲しましたが、ブレンドしたものが一番美味しく感じました。実際にフィンカ・ヴィリャクレセスでは最終的にこの2つのキュヴェをブレンドして味わいにより複雑さを出しバランス良く仕上げていきます。まだまだ熟成途中のワインでしたが、ブレンドしたワインには確かに複雑さやどこかに偏りすぎないバランスの良さが十分に感じられました。

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バレンシソとフィンカ・ヴィリャクレセスでの貴重な試飲から、当然のことではありますが、生産者それぞれが自身の造るワインのイメージに対する樽の影響を考えて、樽メーカーやオーク材の産地といった細かな選択をしており、それがどれほど重要なことなのかを体感することが出来ました。

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「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

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