今夏大注目の “夏ジビエ” を攻略! ~ 取り扱いの新ルールから美味しい調理法、ワインとのマリアージュまで ~(営業 吉田 淳)

今夏大注目の “夏ジビエ” を攻略! ~ 取り扱いの新ルールから美味しい調理法、ワインとのマリアージュまで ~(営業 吉田 淳)
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近年広く親しまれるようになったジビエですが、ジビエと言えば、やはり冬のイメージがあります。しかし、実際には1年中捕獲したばかりの新鮮なジビエを食べることが出来ると聞き、改めてジビエについてしっかりと理解するために、日本ジビエ振興協議会の理事長であり長野県茅野市のオーベルジュ・エスポワールのオーナーシェフである藤木徳彦氏にお話を伺ってまいりました。 テーマは、冬のジビエに対抗して“夏ジビエ”です!ジビエについて勉強させていただくと同時に、夏ジビエを使ったお料理とワインのマリアージュについても探って来ました。


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【ジビエの種類】

ご存知のように、ジビエとは狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味するフランス語であり、狩猟の対象となっている野生鳥獣は全てジビエとして定義されます。エスポワールのある信州・蓼科でも、シカ、イノシシ、野ウサギ、ウズラ、ハト、ムクドリ、真鴨、小鴨、尾長鴨、カルガモ、キジ、コジュケイ、カラス、山シギ、田シギなど様々なジビエが提供されますし、フランスなど海外では日本では保護動物として狩猟が禁止されている雷鳥や、ヌートリア・ハクビシンといった珍しい動物も食べられています。

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【狩猟期間と“夏ジビエ”】

日本では、北海道以外では11月15日の夜明けとともに狩猟が解禁され、2月15日の日没とともに終了となります。(北海道は10月1日~翌年1月31日)フランスでは地域によって違いますが、9月下旬~2月下旬までというところが多いようです。やはり本来は秋から冬にかけて市場に出回る食材ですから、ジビエ=冬というイメージは間違いではありません。

では、今回のテーマ“夏ジビエ”とはどういったものなのか?それはずばり、環境省によって『有害鳥獣』の指定がされている動物です。具体的には、シカやイノシシ、カラスが当てはまります。

近年山の生態系が大きく変わったことで、シカやイノシシなどの野生動物が異常繁殖し、田畑の作物が食い荒らされる深刻な被害が各地で広がっています。その被害はなんと年間200億円!特にシカ、イノシシの被害の増加が顕著で、2014年に成立した改正鳥獣保護法ではシカの捕獲目標が倍になったほどです。シカ、イノシシともに年間80万頭を捕獲し続けないと生態系が崩れてしまうそうなのですが、近年の爆発的な異常繁殖に捕獲が追いついていないのが現状です。

【『有害鳥獣』の利活用の実態】

このように『有害鳥獣』として捕獲されたシカ、イノシシですが、その95%以上が廃棄されてしまい、食用としては数%しか活用されていません。

* シカの廃棄95%、食用5%

* イノシシの廃棄98%、食用2%

【流通の新ルール】

ジビエは狩猟によって手に入る食材であるため、猟師さんから直接買い付けるという話もよく聞きます。つまり、少し前まではジビエの狩猟から流通について明確なルールは無かったわけです。

しかし、全国的に安定した流通を確保して豚や牛のような家畜と同様に安全に美味しく食べようという動きのなかで、2014年11月に厚生労働省がガイドラインを定め流通のルールが整備されました。このガイドラインでは、狩猟時から解体や運搬、そして飲食店での仕入れ方法や調理法まで様々な指針が定められていますが、飲食店様に関係する部分としては以下のようなポイントがあります。

☆ 全国に約300カ所ある食肉処理業の許可を受けた施設で処理されたジビエを仕入れること

「猟師直送」などと謳ったネット販売を利用することや、知り合いの猟師から直接肉を仕入れること、自分で捕獲した シカやイノシシを食肉処理業の許可を受けた施設で解体処理せずに提供する事は禁止されています。

☆ 仕入れ時に、肉の色や臭い、また金属(鉄砲の弾)など異物がないかの状態確認の徹底

藤木氏によると、“ジビエは臭い”というのは肉の管理が曖昧で鮮度の落ちた肉を使っていた頃の誤った認識とのこ と。牛や豚などと同様に、鮮度管理された肉の使用を定めています。

☆ 生食用としての食肉の提供は決して行わないこと

☆ 中心部の温度が75℃で1分以上またはこれと同等以上(同じような蓄積時間であれば低温化熱もOK)の 効力を有する方法で加熱調理すること

今年7月にはE型肝炎の患者が過去最多となったというニュースが話題になりましたが、この主な原因はシカやイノ シシなどのジビエや豚などの生食です。E型肝炎以外にもカンピロバクターなどの食中毒や寄生虫などのリスクもあ るため、加熱調理を定めています。

【“夏ジビエ”の魅力】

シカ肉はなんと体脂肪0.6%!

他の食肉と比べ脂肪が少ないヘルシーな食材として関心を集めているシカ肉。低カロリーなのに高タンパク、ヘム鉄と呼ばれる鉄分(人間の身体に吸収されやすく、貧血や冷え性を予防する働きもある)も豊富です。高齢者や子ども、運動選手、妊婦さんなどに最適な食材だと言えます。

夏のシカは、餌となる新緑が豊富なので脂がのります。藤木氏によると、夏は赤身の中に脂が入るイメージで、赤身の上に脂がのる秋冬よりも美味しいとされているそうです。

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コラーゲンたっぷり!脂身が美味しいイノシシ肉

高タンパク、低カロリー、低脂肪で、カルシウムやタウリン、ビタミンB1やコラーゲンも豊富に含まれるヘルシーな食材であるイノシシ肉ですが、やはり真骨頂はコラーゲンが豊富な脂身です。最も美味しい時期は一番脂ののる秋です。夏は若干劣勢ですが、フルーツやスパイスを効かせたソースに浸け込んでから焼くと美味しくヘルシーに食べることができます。

また、イノシシ肉は特有の匂いが苦手な方もいますのでしっかりとした血抜き処理と調理を行うことが重要です。

【美味しく安全に調理するには?】

厚生労働省のガイドラインではジビエの調理方法が「75℃で1分以上またはこれと同等以上」と定められていると説明しましたが、E型肝炎ウイルスの感染性を失わせる調理として、「63℃で30分間と同等以上」の熱処理を推奨しています。この方法に則ると、加熱温度と時間は以下のようになります。

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藤木氏が代表を務める日本ジビエ振興協議会では、この「63℃で30分以上と同等以上の熱処理」は準拠しながらも、熱を入れ過ぎると固くなって美味しく食べられなくなるジビエの難しさを解決する調理方法として、以下の2つを推奨しています。

※トリミング・整形したシカ肉ブロック肉を、2.5cm厚・100g程度にカットしたものを使用。

* ロティール:肉塊をオーブンの中で焼く技法

フライパンでの表面焼き固め(表面温度)160℃ → オーブン熱入れ①(230℃、約8分) → 金属皿の上で肉を休ませる(10分間) →  オーブン熱入れ②(230℃、3~4分)

* アロゼ:調理過程で出た煮汁や脂を素材に回し掛けして焼く技法

フライパンで油を回し掛けながら焼き上げ(表面温度 160℃、4~5分) → フライパン上で肉を休ませる(保温状態、10分間) →  オーブン加熱(230℃、3~4分)

【“夏ジビエ”とワインのマリアージュ】

藤木氏には“夏ジビエ”のシカとイノシシの様々な料理をご用意いただいたのですが、ここでは夏が一番美味しいとされるシカ肉のシンプルな塩だけの味付けのポワレと、そのお肉にジビエの赤ワインソースを合わせた2種類のマリアージュについてご説明したいと思います。

ワインは、ジビエに合わせたい赤ワインを6種類用意しました。

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シカ肉ロースのポワレ

プティ・サレをして7日間熟成したお肉をいただきました。通常は2週間熟成させるそうですが、1週間の熟成であっても熟成による香り、旨味が十分に出ており、質感が柔らかく滑らかで、全く臭みはありませんでした。ワインとの相性の点で、この熟成と質感・テクスチャーがポイントとなりました。

一番相性が良かったのは、2003 Sarget de Gruaud Laroseでした。熟成したシカ肉とワインの熟成由来の旨味・フレーバーが同調し、柔らかく滑らかなお互いのテクスチャーが寄り添うことで、余韻長く双方の味わいを楽しむことができました。

シカ肉ロースのポワレ ジン香るジビエの赤ワインソース

上記の熟成したロース肉に、シカの骨やスジを赤ワインで煮込んだフォン・ド・ジビエに、ジンのジュニパーベリーの風味をアクセントとしたソースを合わせた一皿。

こちらには、Prunoが最も良く合いました。Prunoのスパイシーさとジュニパーベリーのフレーバーが同調するとともに、赤ワインソースの甘味と アフターまで広がるPrunoの甘いフレーバーが同調し、双方の風味をよりまとまりあるものにしていました。また、柔らかいお肉にソースを合わせることでお料理に少し油分が増しており、その油をPrunoのタンニンが上手く中和してくれました。

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今回はメンバーも限られ、用意するワインも6種類と少なかったため正確な実験とは言えません。

ですので、早急にシカ肉のマリアージュ大実験を行い、実際にシカ肉に合うワインはどんな品種・産地で、どんなポイントが重要なのか、検証してみたいと思います。ジビエ特集第2弾をお楽しみに!

【まとめ】

捕獲されているシカやイノシシは狩猟期も含めて年間約80万頭ですが、食肉として活用されている割合はほんの数パーセントにすぎません(流通が確立され、最も活用されている北海道のエゾシカでも約14%)。既に茅野市内のスーパーではシカ肉やイノシシ肉が購入できる店舗も出来てきているそうですが、これが全国規模になったり、あらゆるレストランで扱われるようになったり、と広まっていけば、鳥獣被害や環境保全の問題解決の一助となります。

「獲った命は無駄なくいただき、人の命の糧とする」という本来あるべき姿に少しでも近づけるよう、より多くの人が関心を持ち、より良い循環が生まれることを願っています。

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