特別セミナー 『ワインの欠陥(オフ・フレーヴァー)』(講師: 大越 基裕氏)

特別セミナー 『ワインの欠陥(オフ・フレーヴァー)』(講師: 大越 基裕氏)
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ワインを扱う方であれば、どうしても避けられないのがワインの欠陥(オフ・フレーヴァー)です。 今回は、代表的な6種類の オフ・フレーヴァーがどのような香りを持ち、何故その香りが生まれるのかを解説したセミナーの内容をご紹介します。 監修は、ワインテイスターとして活躍中の大越基裕氏です。


【オフ・フレーヴァーが少しでもあったらNGワイン?】

今回はオフ・フレーヴァーを取り上げるが、まず最初に、オフ・フレーヴァーがある=悪にすることにはあまり賛成できない。醸造学的に微生物などの影響を受けて生まれてしまうオフ・フレーヴァーは、それだけを嗅げばあまりいい香りではないが、ワインの中に少しだけ紛れているだけなら必ずしもオフではないことが多い。 ※ブショネは除く

香水などにもみられる事だが、良い香りだけで構成されているものは総合的には大して良い香りにはならない。良い香りとそうでもない香りが混ざっている方が、総合的に良い香りになることが多い。例えば、シャネルのNo.5という香水は発売以来長く支持されているが、発売当時とても画期的で新しい技術の窓を開いたとされるものだった。それは、これが初めて単体で嗅げばよろしくない匂いを混ぜて使った香水だったから。そういった良くない香りを混ぜることで、より魅力的な香りを作り出せることは実証されている。

オフ・フレーヴァーも然りで、強ければ美味しいと思われる状態にはもちろんならないが、微量であればワインをより美味しくすることもある。ただし、その香りがワインに存在することに気が付くことは我々の仕事にはとても大切である。

ただし、人によって域値は様々で、微量であれば感じにくい人もいる。経験や訓練で感度を上げることは可能である。

☆ ブショネ

Bouchoné (ブショネ)はコルクをさす Bouchon の形容詞。英語では Corked と言い、コルクのような風味がワインに移ってしまった状態を表しているが、厳密にはコルクの風味ではない。コルクが原因で起こることが多いので、ブショネという名前が付けられている。主な原因物質は、2-4-6-TCA(トリクロロアニゾル)だが、原因物質は他にも存在する。

原因: 塩素系物質とカビの反応

コルク、木製の発酵槽、木製の建物で発生する。コルクは使用前に水で洗浄されるが、その時に使う水は塩素処理されている。また塩素系の洗剤を使うこともあり、それらの塩素がコルクに若干残ってしまうことがある。それをワインに打栓してワインセラーで熟成させる際に、ワインセラーはカビが繁殖しやすい環境なので、残留していた塩素系物質とカビが反応してTCAを発生させる。

木製の発酵槽が一槽丸ごとブショネということもあるし、塩素処理した木材を使った建物だった場合、建物内でTCAが発生することもある。最近の醸造所は、木を使わなかったり、塩素処理した材料は使わなかったりと対策している。

TCAは微力だが感染力もあり、1ケースの中でブショネが数本見つかることもある。

香りの特徴: かび・コルク・しけった段ボールなどに似た香り

慣れていないと樽の香りと間違うこともある。しかしオークの香りは果実味とハーモニーを生むが、TCA由来の香りは果実味を殺してしまい、味わいがドライアウトする。アフターフレーヴァーに果実感がきれいに残らない。またシャンパーニュはイースト菌の香りにまぎれて、特に開けたてすぐは分かりにくい時がある。

対処: DIAMやその他合成コルク、 スクリューキャップへの変更

☆ 揮発酸

代表的なものは、酢酸エチルと酢酸。ワイン中で発生する酢酸エチルは、様々なバクテリアなどが繁殖、反応した際の副産物として生成されてしまうので、色々な原因が考えられる。酢酸菌が作用してしまった時にも発生する。一例として、発酵前のSO2添加量が少ないとピキュール・ラクティック(乳酸菌が糖を食べる反応)が起き、乳製品系の香りと酢酸を生成されることがある。

揮発酸自体は、個人差もあるが、ある程度まではフレッシュ感を与えるので良かったりする。

原因: 様々なバクテリアなどの繁殖、反応

香りの特徴: ボンド・除光液・シードル・ビネガー(セメダイン系の香り)など。ツンツンとした刺激

対処: 十分な量のSO2の添加

☆ 還元

還元的な環境での醸造・熟成、果汁の窒素不足が原因であり、特に自然派ワインだけのものではない。酵母は窒素を栄養としており、果汁に窒素が少ないと硫化物を排出する。樽で熟成している間は、木が酸素を通すので、ステンレスタンクより還元しにくい。また澱は還元物質なので、澱が多い状態やバトナージュをすると還元状態になる。

還元は常に悪いものということではないが、酸素が不足すると硫化化合物(二酸化硫黄、硫化水素、メルカプタン、メチオノール等)が出来てしまう。飲む時にグラスを回したりデキャンタージュすれば中和されて本来の香りになる。

ただ、すごく強い還元の場合で、メルカプタンやメチオノールという成分があった場合(硫化水素以上に強い還元で放置されるとこの2つの物質ができる)、もう取り除くのは困難になる。出来てしまったワインの多くは、発酵前やマロラクティック発酵後にSO2を入れていないもの。SO2を入れないので酸化しやすいため、澱引きしないなど常に還元状態を保ち続けるように調整するが、それをやりすぎてしまうと起きる。

また、ポリフェノールやタンニンはアンチ酸化物質なので、それらが多い良い年のワインは還元になりやすい。シラーは、ポリフェノールや酸が多いので還元しやすい品種の一つ。

原因: 特異な製造過程(SO2を入れない、澱引きをしない、スクリューキャップ)、酵母の窒素不足

香りの特徴: 少し硫黄っぽい香り。たまねぎ・ゆで野菜・ゆでたまご、馬小屋のような香り

対処: 十分な量のSO2の添加、発酵中に窒素化合物を添加する

☆ 酸化

酸化熟成は正しい熟成の一つなので、必ずしもネガティブではない。ただ、いき過ぎてしまえば味は劣化する。酸化の作用を利用して作られているマデラワインや、オロロソのようなシェリー酒、ナチュラルワインも存在しているので、そのバランスによっては美味しく楽しめる。

原因: アルコールの酸化

アルコールを酸化させ、アセトアルデヒドという物質をつくったり、色調を茶褐色へと変化させる。

香りの特徴: マデイラワインや溜まり醤油のような香り、白ワインであれば、へーゼルナッツやクミンような風味

☆ フェノレ(ブレット)

一部のフェノール化合物が原因となる。赤ワインではブレタノミセス(腐敗酵母)が関与しており、海外ではよくブレットと呼ばれている。アルコール発酵後にSO2を入れないとブレタノミセスの発生、増加の抑制ができない。フランスでは、南フランスなどの暖かいところでの発生が多かったが、近年はブルゴーニュでも発生している。

原因: 一部のフェノール化合物とブレタノミセス(腐敗酵母)

香りの特徴: ゴム、カーネーション、救急箱、馬小屋のような感じが出る

強さにもよるが、馬小屋のような香りは、還元の場合と混同しやすい時がある。微量にある分には、むしろ美味しい。必ずしも悪ではないが、気になる人はいる。

南の方の産地では、暖かいというだけでなく、古い樽を使い続けるという風習があるのでより発生しやすかった。

対処: 十分な量のSO2の添加

☆ Gout de Souri (グー・ド・スーリ、ねずみの味 ※英語でもMousy と言われる )

ブレタノミセスや一部の乳酸菌を含むバクテリア、酸素との接触も原因だが、メカニズムの全てはまだクリアになっていない。アフターフレーヴァーに特有の味(香り)が明確に出てくるのが特徴。ワインを開けて時間が経てば経つほど強くなっていく傾向にある。

SO2が防ぐので、SO2を適量入れているワインではない。ただし、SO2を入れていない生産者全員から出てくるかというと、全くそういうことではない。

原因: ブレタノミセス、酸化、微生物

香りの特徴: 麦汁、オートミール、豆

強く印象に残るフレーヴァーなので、ワイン本来の風味を消してしまう為、この香りがあることは好ましくない。

対処: 十分な量のSO2の添加

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熟成ワインの魅力(後編)

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前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

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熟成ワインの魅力(前編)

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

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