フィラディス実験シリーズ第13弾『万能なワイングラスを探せ!』(営業 笹井 涼乃)

フィラディス実験シリーズ第13弾『万能なワイングラスを探せ!』(営業 笹井 涼乃)
wine

今回の実験のテーマは、『万能のワイングラスとは?』です。


以前(2016年7月号)、『ボルドー型グラスやブルゴーニュ型グラスが、本当にそのワインに合っているのか?』という検証を行いましたが、その際にワイングラスの形状によって香りや味わいが違うことを明らかにしました。そして、“ワインに対して求めるもの”によってワイングラスを使い分けることが有効だと提言をさせていただきました。

≪前回のまとめ≫ グラス形状がワインに与える影響

HP9

≪参考≫[2016年7月号] ボルドー型、ブルゴーニュ型・・・『○○型ワイングラス』は、本当にそのワインに最適な形なのか?

産地や品種ごとに細かく分類されたワイングラスが販売されていますが、現実的にはたくさんの種類を揃えるのは難しいとお悩みの方も多いのではないでしょうか。実際に、1種類のグラスで全て対応しているという声もお聞きしますし、一般のご家庭でも収納スペースが確保できないお宅が多いようです。

そこで今回は、これを置いておけばどんなワインにも対応できる!という『万能グラス』を探すことに焦点を当てました。『○○型グラス』は、合うワインには“最良”でも別のワインには“NG”でしたが、『万能グラス』は全てオールマイティに“良”であるようなグラスです。ここで“良”という判断の重要なポイントとなるのは、品種の個性を活かしているかとなります。「タンニンを強く感じない」「フルーティーな方が好き」といった個人の好みではなく、対象となるワインが本来持っている個性がしっかり表現されているかどうかを判断するように心がけました。

【実験概要】

● グラスの種類

HP1

① ボルドー型グラス(小サイズ)
東洋佐々木ガラス 「ディアマン」シリーズ RN-11236CS φ58×H209・M79mm 365ml

② ボルドー型グラス(大サイズ)
東洋佐々木ガラス 「ディアマン」シリーズ RN-11283CS φ69×H224・M96mm 600ml

③ ブルゴーニュ型グラス(小サイズ)
東洋佐々木ガラス 「ディアマン」シリーズ RN-11285CS φ74×H212・M111mm 730ml

● 使用したワイン&評価方法

・様々なタイプの白・赤ワイン10種類を用意。グラスワインとして使用することを想定したワインです。

・ひとつのワインを4種類のグラスに入れ、香り、アタック、味わい構成・バランス(甘さ、酸、タンニン)を比較検証する。

・各グラスに注ぐワインの量は「グラス形状毎に適正と思われる量」とし、同じ容量ではない。

【実施結果】

今回は、最初にどーんと結果を発表してしまいましょう!

HP2

≪結果詳細≫

1. ソーヴィニヨン・ブラン [ベストグラス⇒小ボルドー]

小ボルドーではフレッシュなソーヴィニヨン・ブランの個性(柑橘果実、しっかりしたミネラル、きれいなハーブ香など)をしっかりと感じ、全てがきれいにまとまっていました。

相性が悪かったのは小ブルゴーニュです。香り・味わいともに散漫とした印象で、折角のフレッシュな果実味や酸、美しいミネラルがぼやけ、ワイン自体が“緩く”感じてしまいました。大ボルドーは悪くはないのですが、ワインの開きが早く、時間が経つと果実味が抜け、酸だけが目立ってしまう結果となりました。

2. リースリング [ベストグラス⇒小ボルドー]

こちらも小ボルドーが最もワインの良さを引き出す結果となりました。元々バランスの取れているワインでしたが、グラスの中で香り・味わい共に“集約”され、より均整が取れたように感じました。

相性が悪かったのは大ボルドーです。ワインとのスケール感が合わず、ワインが水増ししたように感じてしまいました。小ブルゴーニュは、リースリング特有の華やかな香りはしっかりと感じられるものの、果実味が抜けたような、のっぺりとした印象になりました。

3. シャルドネ [ベストグラス⇒小ボルドー]

なんと!小ブルゴーニュが1位かと思いきや小ボルドーが健闘しました。小ボルドーはスケール感は大きくないもののまとまりがあり、果実・酸・ミネラル全てがバランス良く感じました。また余韻が最も長かったのもこのグラスです。対して小ブルゴーニュは、香りの段階では一番優れていたのですが、味わいの面で樽の強さ、果実の弱さが目立ってしまい、若干アンバランスに感じました。飲み終えた後に物足りなさを感じるという意見もありました。もっと上のクラスであればブルゴーニュグラスが素晴らしい結果を出した可能性が高いと思われます。

4. モンテプルチアーノ [ベストグラス⇒小ボルドー&大ボルドー]

唯一意見がきっぱり分かれ、男性陣は大ボルドー推し、女性陣は小ボルドー推し、という結果になりました。大ボルドーは、果実の強さをしっかり感じながらも、タンニンとのバランスも取れており、パワフルなテイストを楽しめました。しかしアフターにタンニンのザラついた印象が残る、という意見もありました。小ボルドーは、果実・酸・タンニンのバランスが取れ、全体をきゅっとまとめてくれましたが、モンテプルチアーノに求めるパワフルさを感じない、若干青さを感じる、という意見もありました。同じワインでも、モンテプルチアーノにパワフルさ・飲みごたえを求める男性陣と、しなやかさ・飲みやすさを求める女性陣の意見が食い違ったようです!

5. グルナッシュ [ベストグラス⇒小ブルゴーニュ]

ここでようやく小ブルゴーニュが日の目を見ました!チャーミングな果実を更に軽やか・華やかに楽しむことが出来る上、時間が経つごとに更に良くなっていきました。このワインに関しては特に相性が悪いものはありませんでしたが、小ボルドーはジューシーさは楽しめるものの小さくまとまりすぎて、ワインが抑えつけられているような印象を受けました。大ボルドーは全体的に大らかに感じたのは良かったのですが、酸とタンニンが若干目立つという結果になりました。

6. シラー [ベストグラス⇒大ボルドー]

大ボルドーで飲むと、ボリューム感、果実の甘さが引き出される上に、タンニンもキレイに伸びて、ワインそのものを豊かに感じることが出来る素晴らしい結果となりました。このワインも相性が悪いグラスはなかったのですが、小ボルドーは全体的にタイトに、小ブルゴーニュは全ての要素がゆるく感じました。

7. ピノ・ノワール [ベストグラス⇒小ボルドー&小ブルゴーニュ]

さすがの小ブルゴーニュが本領発揮です!そして、ここでも小ボルドーが大健闘しました!小ブルゴーニュは香り・味わいの広がりが圧倒的で、アフターの伸び、心地良さも最も感じました。小ボルドーは若々しさとチャーミングさがしっかり出ており、バランス良く飲むことができました。1杯を大事にゆっくり飲むには小ブルゴーニュ、次のワインが控えているなら小ボルドーでキャッチーに楽しんでいただく、という使い分けが良いかもしれません。

芳しくない結果となった大ボルドーは、タンニンが強く感じられ、余韻も短くワインのレベルを下げてしまった印象でした。

8. メルロ [ベストグラス⇒小ボルドー&大ボルドー]

大・小ボルドーの2つに軍配が上がりました!小ボルドーはワインの良さがキレイにまとまっていましたし、大ボルドーはワインそのものの良さを引き出し、余韻まで美味しく飲ませてくれました。また時間が経つと更に良くなっていました!小ブルゴーニュも悪くはなく、酸を強めに感じるもののエレガントに飲める、華やか・軽やかに飲めるという意見もありました。

9. テンプラニーリョ [ベストグラス⇒小ボルドー&大ボルドー]

こちらはメルロと似た結果になりました。小ボルドーはワインの良さを集中してキャッチーに美味しく飲むことが出来ました。大ボルドーはたっぷりとした大らかさを味わえ、タンニンも甘やかに、そして余韻も長く優雅に楽しめました。

小ブルゴーニュは相性が悪く、ワインが水っぽく、薄っぺらく感じる上に、タンニンだけが浮いてしまった印象でした。

10. サンジョヴェーゼ・グロッソ [ベストグラス⇒大ボルドー]

こちらはダントツで大ボルドーが勝利しました!香りの華やかさはもちろん、ワインのスケール感・重厚感が増し、余韻まで長く楽しめる素晴らしい結果となりました。小ボルドーは悪いところは一切なかったのですが、元々のワインのポテンシャルより小さくなってしまった印象です。小ブルゴーニュは、軽やかになりすぎてしまい折角のワインの良さを引き出せていないように感じました。

HP3

【まとめ】

● 万能グラスNo.1は小ボルドーとなりました!

結果の表を見ても明らかですが、今回の実験で最も汎用性の高い万能なグラスは小ボルドーであることが分かりました。

小ボルドーを使用すると、ワインの持つ様々な要素をコンパクトにまとめてくれて、全体的にワインの味わいに突出して目立ったものを出さず親しみやすく感じさせてくれました。

ローヌのグルナッシュ&シラーだけは、“まとめる”という効果がネガティブに作用して全体的にタイトな印象になりましたが、今回検証したワインが比較的若くてフレッシュ感を楽しむものが多かったので、小ボルドーが特に合ったのだと思います。

グラスワインとして提供する際にも、小ボルドーにはメリットがあります。グラスを口元に持っていってからワインを口に運ぶまでの時間・飲み込むまでの時間が短いので、同じワインを同じ量注いでも、他のグラスに比べて飲むペースが早くなるためです。お店でグラスワインをたくさん飲んでもらいたい場合、大ボルドーや小ブルゴーニュといった大きいグラスではなく、あえて小ボルドーを使ってみるのも手かもしれません。

● やはりフルボディ&タンニンしっかり系には大ボルドー

万能とは言えない大ボルドーや小ブルゴーニュも、それぞれの良さがありました。特に大ボルドーは、ボルドーワインなどのタンニンのしっかりしたワインには最良の組合せであり、スケール感を感じさせ余韻まで美味しく飲むことが出来ました。ポテンシャルが高いワインを更に魅力的に感じさせてくれるグラスだと実感しました。

小ブルゴーニュは職人的なグラスです。香り・味わいを広げ、軽やかかつ華やかに楽しみたいワインには最適ですが、1種類のグラスで全てのグラスワインに対応したい!という方にはお勧めできません。

2回に渡りワイングラスをテーマに実験を行いましたが、グラス形状がワインの味わいに与える影響の大きさには驚くばかりでした。色々な種類のグラスを揃えられる方も、そうでない方も、それぞれのグラスの特長を上手に利用して、1本のワインを更に美味しくお愉しみいただければ幸いです。

ご協力: 東洋佐々木ガラス株式会社

Read more

熟成ワインの魅力(後編)

熟成ワインの魅力(後編)

前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

By YURI ASAHARA
熟成ワインの魅力(前編)

熟成ワインの魅力(前編)

「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

By a.watanabe
太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

By a.watanabe