フィラディス実験シリーズ第14弾『オマールエビにマリアージュする白ワインとは?!』(営業 池松 絢子)

フィラディス実験シリーズ第14弾『オマールエビにマリアージュする白ワインとは?!』(営業 池松 絢子)
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日本人が大好きな海老!その中でもスペシャルな存在として君臨するのがオマールエビ(ロブスター)です。 フレンチからイタリアン、和食まで幅広いジャンルのお店で使用される高級食材ですが、素材として考えた時にいったいどんなタイプのワインに合うのでしょうか・・・?今回もマリアージュの傾向をあぶり出したいと思います。


【オマールエビについて】

オマールエビは、胴体部分のぶりっとした噛みごたえのある身と、はさみ部分の口の中でほろっと崩れる身で食感が異なりますが、今回の実験では胴体部分を使用しました。

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また味わいの特徴としては、甲殻類特有の香りの強さ(フレーバー)、 強い甘み・旨み(五味)、濃厚で重心の低い味わい(ボリューム)、身が引き締まって弾力が強いこと(テクスチャー)が挙げられます。

今回のマリアージュ実験では、オマールエビを ①ボイル&オリーブオイルと②ポワレ&バターという基本となる2種類の方法で調理し、マリアージュするワインを検証しました。オマールエビは前菜や魚料理として提供されることが多いと思いますので、ワインは白ワインのみに絞っています。

○ カナダ産冷凍オマールエビの胴体部分を使用

○ 2種類の調理法を用意

① ボイルし、オリーブオイルで和える

② バターで焼く

※両方に強すぎない程度にレモンを絞る

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【マリアージュの判断方法】

今回は、オマールエビが食材として持つ大きな特徴でもあり、調理法の違いによっても大きく影響を受ける「フレーバー」を筆頭に、「ボリューム」「テクスチャー」と「五味」に注目して、調理法ごとに実験を進めました。

また、ワインは銘柄をオープンにした状態で検証しています。

分析するにあたり、参考とするマリアージュポイントは下記の通りです。

・同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)
例:タイムの香りがする料理にグリーンノートのあるワインを合わせる。

・中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)
例:カベルネ・ソーヴィニヨンと仔羊の組合せが好例。ワインのタンニンが仔羊の脂を中和する。

・補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)
例:塩味&旨味を持った料理に甘味&酸味を持つワインを合わせ、 五味を補完し合う。

【実験結果】

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今回は、調理方法は全く異なる2種類でしたが、結果は似たような傾向となりました。つまり、それだけオマールエビという食材そのものに合うかどうかが重要になったということでしょう。

では、具体的なマリアージュのポイントについて、「フレーバー」「ボリューム」「テクスチャー」「五味」のそれぞれについて考察していきたいと思います。

● フレーバー

☆ オマールエビの強くて甘いフレーバーに合わせるか、ソルティーなフレーバーに合わせるか

☆ ワインの樽香はNG!「生臭さ」が引き出されます

今回最重要だった「フレーバー」。何かをプラス(補完)するのではなく、共通点を同調させるマリアージュが目立ちました。

①ボイル&オリーブオイルは、オマールエビ本来の強くて甘いフレーバーが顕著だったため、華やかなフローラル系の香りを持つアルザスのリースリング(No.3)が断トツで1位でした。2位には、甲殻類特有の“海”を感じさせるソルティーなフレーバーで同調したリアス・バイシャスのアルバリーニョ(No.1)が選ばれました。

アルバリーニョ(No.1)は、②ポワレ&バターでは1位を獲得!バターで焼くことでオマールエビのソルティーなフレーバーがより強調されたため、①ボイル&オリーブオイルよりも更に良い同調のマリアージュとなりました。2位となったのは、酸化熟成タイプのジュラのサヴァニャン(No.12)でした。今回の調理法は①②ともにシンプルであり、スペインのゴデーリョ(No.2)のような強くて複雑なフレーバーのワインはオマールエビの香りを打ち消してしまうため相性は良くなかったのですが、このサヴァニャンに関しては違いました。酸化熟成からくる特有の複雑性がソースのような役割をして、オマールエビに絶妙な味わいをプラスしてくれました。ただそれが双方を高め合う“マリアージュ”なのかどうかで意見が分かれ、1位のアルバリーニョ(No.1)に僅差で敗れる結果となりました。

ネガティブな要素として、魚介類をワインと合わせる時に最も避けたいのは「生臭さ」ではないでしょうか。合わせることで「生臭さ」を感じてしまうワイン・・・それは、樽を使ったワインであることが明らかになりました!今回該当したのは、樽熟成由来のフレーバーを強く感じるゴデーリョ(No.2)、ムルソー(No.10)、カリフォルニアのシャルドネ(No.11)でした。②ポワレ&バターに関しては、「バターを使った料理×白ワインの樽香」というマリアージュの定説によって合うのでは?と予想しましたが、ボイルより多少は共通点が出て近付くものの、寄り添い相乗することはありませんでした。

● 五味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)

☆ ワインの苦味はご法度!

☆ 「穏やかな酸味」がオマールエビのふくよかさと調和し、旨味を引き出す

今回、フレーバーに次いでマリアージュを左右したのが「五味」でした。

その中でも、最も影響が強かったのが苦味です。強い苦味を持つワインをオマールエビと合わせると、アフターにより強く苦味を感じてしまう残念な結果となりました。特に強く出たのがゴデーリョ(No.2)、ゲヴュルツトラミネール(No.5)、ピノ・グリ(No.7)でした。苦味と甲殻類は、ご法度の組み合わせのようです。

また、どのような酸味を持っているかもマリアージュの鍵になりました。ヴィンテージの若いフィアーノ(No.9)のような鋭角的な酸はオマールエビの持つふくよかさと合わず、硬い違和感をもたらしました。一方で、残念ながらフレーバーでNGとはなりましたが、アルザスのピノ・グリ(No.7)や南仏の大らかな白(No.8)、ムルソー(No.10)のようにマロラクティック発酵などによって穏やかな印象の酸を持つワインは、五味の面ではオマールエビと調和し、上手く旨味を引き出していました。

甘味については、強すぎても弱すぎてもNGとなりバランスが求められました。若くフレッシュなリースリング(No.3)が持つ自然な甘味がオマールエビには丁度良く、ピノ・グリ(No.7)や、ゲヴュルツ(No.5)の強い甘味は合いませんでした。今回の実験には現行ヴィンテージのみを用意していたためあくまでも推測となりますが、熟成によって生まれる甘味は合うのではないかと思います。もしフィアーノ(No.9)やフリウラーノ(No.4)が少しこなれていたら、フレーバーの華やかさと甘味で素晴らしいマリアージュを生んでいたかもしれません。

● ボリューム

☆ 凝縮感やストラクチャーのパワフルさが必要

☆ ただし、フレーバー&五味が優先

オマールエビのボリューム感は、他の甲殻類と比べてとても大きい部類に入り、重たい印象です。そのため、ワインにも凝縮感やストラクチャーのパワフルさを必要とします。

ボリューム感だけで見れば、上位に入ったワインよりも、No.8~11のような凝縮感やパワフルさがあるワインの方が合っていたのですが、今回のマリアージュでより重要であったフレーバーや五味が合わなかったため評価が伸びませんでした。

● テクスチャー

☆ ①ボイル&オリーブオイルでは、ふっくら柔らかなシュナン・ブランが好相性

☆ ②ポワレ&バターでは、密度の高い味わいと弾力&強さのあるテクスチャーにサヴァニャンがGOOD!

テクスチャーでは、身が引き締まって弾力が強いオマールエビに、ワインをどう合わせるかが焦点となりました。

また、今回は2種類の調理法で実験を行いましたが、結果は①ボイル&オリーブオイルの3位シュナン・ブラン(No.6)と、②ポワレ&バターの2位サヴァニャン(No.12)以外は大きな差が出ませんでした。違う結果となったこの2つのアイテムが選ばれたのは、調理法によってテクスチャーの違いが生まれたことに起因します。

まず①ボイル&オリーブオイルでは、ボイルすることでオマールエビの弾力にふっくらとした柔らかさが加わったため、ロワールの偉大な生産者によるシュナン・ブラン(No.6)の強さもありながらふんわり柔らかなテクスチャーととてもよく合いました。それでも3位という結果に留まったのは、五味が強すぎてオリーブオイルを和えただけというシンプルな調理法ではワインが勝ってしまったためです。

対して②バターで焼いた場合には、オマールエビの水分量が減って味わいの密度が上がり、同時にテクスチャーには更にプリッとした硬さと強さが出ました。そのため、2位となったサヴァニャン(No.12)のような、よりテクスチャーの強いものがランクインするという結果に繋がったと考えられます。

【実験を終えて】

実験結果を踏まえると、オマールエビと白ワインのマリアージュ要素は以下となります。

○ 樽香が強くなく、華やかなフレーバーかソルティーなフレーバーを持つ

○ 穏やかな酸味を持ち、苦味が強くない

○ 凝縮感やストラクチャーのパワフルさがある

○ 調理法でテクスチャーが変わることを念頭に置いて、ワインも揃える

む、難しい・・・。甲殻類の中でも特に強いフレーバーを持つオマールエビをシンプルに調理した場合、マリアージュまで昇華するワインを探すとなるとストライクゾーンが狭く、非常に難しい食材であると感じました。

一般的に魚介類に合うとされているドライで酸の強い辛口白では五味やボリューム感で合うことができず、バターで焼けば樽感の強いワインが合うのではないかという予想がことごとく裏切られるなど、過去最大級に難易度の高いマリアージュ実験でした。

ここで立ち返るべきなのが、基本中の基本ではありますが、改めてソースの存在の重要性です。

オマールエビは鉄板焼や浜焼きのようなシーフード専門店以外では、ここまでシンプルな調理法で提供されることは殆どありません。クラシックにはグラタンのようなクリーム系であったり、モダンにはフルーツを使用したソースをまとった姿などで私達の目の前に現れます。そういった別の要素があれば、ワインとのマリアージュには新たな橋が生まれます。

複雑な調理法を施してなお主張する素材本来の味わいの力強さ、ソースにより無限に広がるワインとのマリアージュの可能性こそが、オマールエビがメインの食材として重宝される所以なのではないかと感じました。

蛇足ですが、ジュラのサヴァニャンがマリアージュ実験で上位を獲得するのは、もはやお約束。万能過ぎて、「また!?笑」とスタッフ内でも物議を醸すほどで、“困ったらサヴァニャン”が合言葉になりつつあります。まだその威力を感じていない方はぜひお試しを。。

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◆ヴァン・ジョーヌ(サヴァニャン)が第1位になったマリアージュ実験はコチラ↓↓

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