【フィラディス実験シリーズ第26弾 】イタリア料理に必要不可欠な『トマトソース』に最適なワインとは?(営業 岩元 淳)

【フィラディス実験シリーズ第26弾 】イタリア料理に必要不可欠な『トマトソース』に最適なワインとは?(営業 岩元 淳)
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ワインに携わっている方は勿論、一般家庭にも完全に定着し老若男女問わず幅広く親しまれているイタリア料理。今回はイタリア料理では必要不可欠な『トマトソース』をテーマに、実験を通してマリアージュするワインを模索していきます。


実験の背景

トマトソースは、パスタやリゾットの主力ソースの一つだったり、ソテーした魚や肉にかけたり、野菜と煮込んだり、スープになったりと、その使われ方も様々です。 そのため、トマトソースを使った料理に合わせるワインを選ぶ際には、パスタなのか、魚料理か、肉料理か、といった一緒に組み合わせる食材も大きく影響します。

しかし食材まで考慮すると焦点を定めづらく本質から遠ざかってしまうと考え、より汎用的かつ有益な情報をお届けするために、シンプルにトマトソースに合うワインを突き詰めることにしました。
基本となるトマトソースとのマリアージュと認識した上で、組み合わせる素材に合わせて応用していただければと思います。

尚、実験で使ったトマトソースは、目黒にあるレジョナーレ様にご協力いただいて作っていただきました。レジョナーレ様、ご協力ありがとうございました!!
ソースはホールトマトとオリーブオイルをベースに、実験の深さを増すために、魚介(浅利、甲殻類)のストックで伸ばしたものと、牛肉のストックで伸ばしたものの2種類を用意しました。

実験方法

今回は用意するものは温めたトマトソースだけ!ということで社内会議室にて実験を行いました。 約30人と参加者が多かったために議論が盛り上がってしまい、終わるころにはぐったりするほどハードで長時間にわたる実験となりました。

ワインは白が6種類、ロゼが1種類、赤が6種類の計12種類を、2種のトマトソースで検証しました。

マリアージュで見ていくべき要素は「フレーバー」「五味(甘味、酸味、塩味、旨味、苦み)」「ボリューム感」「テクスチャー」ですが、合わせるものが基本のソースであるため、特にフレーバーと五味に集中してテイスティングしました。

それぞれがどのように合うかを判断する際は、以下のマリアージュポイントを参考にしました。

同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)
中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)
補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)

※マリアージュ理論の詳しい内容は以下よりご覧ください
[2013年12月号] 第1回若手ソムリエ応援プロジェクト
『マリアージュ理論セミナー』の講義内容を公開します!
https://firadis.net/column_pro/201312

結果発表

※各自、4点から0点の点数をつけて審査しました。表中の数字は平均点です。

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魚介トマトソース

肝心のトマトソースは、さらりとした口当たりで、魚介の出汁がほのかに香る優しいソースでした。ソースをスプーンでしっかり1杯分口に含んで飲み込んだ後すぐにワインを飲む、という方法で実験を行いました。

【白】

<合ったワイン>

【No.3】2016 Fiano di Avellino / Rocca del Principe

さすがはトマトの名産地カンパーニャ州の面目躍如と言ったところでしょうか。フィアーノらしい甘く優しい果実味と程良い酸がトマトソースの旨味をしっかり引き上げてくれているという意見が多数でした。また、アフターの塩味の出方や方向性が近いために一体感があり、ワインの持つオイリー感がトマトソースに厚みを与えていました。全体的にバランスが良い組み合わせでした。

2018 Verdicchio dei Castelli di Jesi Classico Superiore / Andrea Felici

品種特有のほのかな苦味が少し悪目立ちするという意見もありましたが、トマトソースに無い苦味をワインが補完するという、嫌われがちな苦味がポジティブに働いた組み合わせでした。ワインの持つシトラスやハーブの香りがワイン、トマトソース双方の立体感を際立たせているという興味深い意見もありました。

<合わなかったワイン>

2017 Limoux Blanc Peyre Jac / Ch. Antugnac

樽のフレーバーが強くて浮いてしまい、トマトソースの旨味を覆い隠してしまう結果になりました。フレーバーの強さや方向性も一致せず、非常に難しい組み合わせでした。

2017 Alchimie / Terres Blanches

ソーヴィニヨン・ブランのハーブを感じる美しいフレーバーが全く活かされず、青さが目立ってしまいました。トマトとハーブなので、バジル的にトマトのアクセントになっていると捉えるスタッフもいましたが、ネガティブな意見が多数でした。

【ロゼワイン&赤ワイン】

<合ったワイン>

【No.1】2018 Caprice de Clementine Rose / Ch. Les Valentines

トマト料理が有名なプロヴァンスのロゼということで実験前から期待値が高かった組み合わせですが、予想通り素晴らしいマリアージュを見せてくれました!ミネラル感・甘味・旨味がバランス良く完璧に同調しており、ワインをより甘く感じさせてくれました。ワインの持つアフターの苦味もトマトソースにない要素の補完となり、双方を高め合いました。実験を通じて一番点数の高い組み合わせだったことからも、相性の良さが伺えます。

【No.2】2015 Chianti Classico / Castell’in Villa

キャンティの故郷トスカーナもトマトソースを多用しますが、やはりと言うべきか、相性抜群の組み合わせでした。ソースとワインの酸味のレベルが合っているため同調した心地良さがあり、アフターに甘味や旨味が強調されて増した印象でした。ワインの少しこなれたような熟成感とトマトソースの旨味も同調し、余韻も非常に長く、バランス良く穏やかでいつまでもお替わりしたくなる心地よいマリアージュでした。

<合わなかったワイン>

2016 Cuvee Confidence / Fond Croze

果実もタンニンも豊かでボリュームのあるワインだったため、トマトソースの酸味、甘味を悉く消してしまい、個性を吹き飛ばしてしまう難しい組み合わせでした。

魚介トマトソース総評

以上の結果から、魚介トマトソースに合わせるためのポイントは、

①トマトソースの優しい甘味・旨味を引き立たせるため、中程度のボディ(強すぎる果実や樽感、強いタンニンはNG)

②白ワインでは、冷涼地域のワインに多くみられる青リンゴなどの緑色系果実やハーブなどフレッシュな印象がある第一アロマは悪目立ちしてしまうためNG。

一方で、温暖地域のワインにある桃やアプリコットといった有核果実などには合いやすい。

③トマトソースに寄り添う柔らかなテクスチャー

以上の3つが導かれました。

肉トマトソース

魚介トマトソースと同様にテクスチャーはさらりとしていますが、味わいはより旨味が強く、脂感のあるソースです。ソース自体を飲み比べると違いは僅かなのですが、ワインと組み合わせると如実に違いが感じられました。

【白】

<合ったワイン>

【No.2】2017 Limoux Blanc Peyre Jac / Ch. Antugnac

面白いことに、魚介トマトソースでは最も合わないワインだったLimouxですが、牛肉トマトソースでは白ワインで一番良い評価となりました!トマトソースが魚介よりもふくよかになり、脂分も増したことで、魚介トマトソースの時には浮いているように感じた樽のニュアンスが馴染んでいました。トマトソースの甘味・旨味が口内に綺麗に残りつつ、ワインの甘味・旨味も同調して余韻を引き伸ばしてくれました。

<合わなかったワイン>

2018 Roero Arneis / Giacomo Grimaldi

アルネイス由来のオイリーさ、ボリューム感は肉トマトソースと合っていたのですが、ワインにある美しい白桃系の甘味や緊張感のあるミネラルの方向性とソースがまったく合わず、結果的にワインの苦味のみを増幅、強調させるような結果となりました。

2017 Alchimie / Terres Blanches

今回の実験で一番悪い評価となってしまいました。。冷涼なハーブ香が悪目立ちして嫌な青さに感じてしまい、ワインとトマトソースの世界が全く違うという印象でした。アフターのソーヴィニョン・ブランの苦味がえぐみ・茎っぽさに感じてしまい、ワインの美しい酸も肉トマトソースの前では弱すぎてしまい、終始アンバランスで相性の悪さが際立つ格好となりました。

【ロゼワイン&赤ワイン】

<合ったワイン>

【No.1】2015 Chianti Classico / Castell’in Villa

魚介に続き、またしても素晴らしいマリアージュとなりました。ワインの複雑かつ繊細なスパイス感がトマトソースに奥行きをプラスしてくれ、ワインの酸が肉(ストック)の旨味と優しく寄り添って余韻を長引かせてくれる完璧な補完のマリアージュでした。相互補完することで、どちらも美味しく感じられるうえ、ずっと食べ進められる組み合わせという意見も多かったです。また熟成からくる旨味や柔らかさが、ソースの出汁の旨味やテクスチャーとしっかり同調していました。

【No.3】2018 Caprice de Clementine Rose / Ch. Les Valentines

こちらも魚介に続いて高評価を得ました。マイナスに感じるポイントがない秀逸な組み合わせではありましたが、魚介と比べるとベリー香やミネラル感が相乗というほどの相性ではなく、若干ではありますがワインがソースに負けてしまっているという意見もありました。

<合わなかったワイン>

2017 Bourgogne Rouge / Philippe Jeannot

ワインの酸がソースに比べ高すぎるのでバランス感に欠けるという意見が多数でした。ミネラルが一本通るブルゴーニュ・ピノノワールはトマトソースに比べ骨格の固さがあり、テクスチャーの部分も合いませんでした。しかし、トマトソースを多めに食べることでワインと調和してくるという指摘もあり、マリアージュの難しさを実感しました。

牛肉トマトソース総評

魚介トマトソースと比較すると、より牛肉由来の味わいの強さ・脂分・独特の香り・旨味といった要素が強くなるため、ワインにも強さや複雑さ、奥行きが求められる結果となりました。魚介トマトソースよりも赤ワインによりマリアージュする結果が顕著に現れました。

牛肉トマトソースに合わせるためのポイントは、以下のようになりました。

①肉の強さが加わったことに伴い、ワイン自体のボディの強さが必要
②テクスチャーは柔らかめが望ましい
③ややこなれたような熟成のニュアンスがあると、より牛肉の出汁感を活かしてくれる
④魚介に比べると、ハーブのフレーバーやフレッシュ感は更に必要なくなる

総評

ストックが魚介か肉かで異なるものの、俯瞰して考えると、トマトソースとワインのマリアージュは以下がポイントになることが見えてきました。

①酸、タンニン等各要素の突出が無く、テクスチャーが柔らかい
②ボディは中程度
③桃やカリン・アプリコットなど温暖地域の第一アロマを持ち、フレッシュな緑色系果実やハーブなどの要素が控えめであること(白ワイン)

ソースとワインを合わせるという初めての試みだったため、今まで数々行ったマリアージュ実験の中でも難易度の高い回となりました。また、ソースを口に入れる量やワインを試飲するタイミングで結果が変わってしまうという、今までは意識したことのない難しさもあって、改めて人間の味覚の奥深さが強く印象に残りました。

しかし、苦労の甲斐あって、トマトソースに合わせたいワインの方向性はしっかり整理できたと思います!ぜひこの結果をベースとして、一緒に使用する食材や料理全体のテクスチャー、脂の量、スパイスやフレーバー、温度など料理の全体像に合わせてアレンジをしていただければと思います。

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熟成ワインの魅力(後編)

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前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

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熟成ワインの魅力(前編)

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「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

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