世界各地のワイナリーに聞く、新型コロナウイルスのインパクトとは?(広報 浅原有里)

世界各地のワイナリーに聞く、新型コロナウイルスのインパクトとは?(広報 浅原有里)
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現在も新型コロナウイルスの脅威が続き、残念ながら未だ収束は見えていません。私どもフィラディスも非常に苦しい状況に置かれていますし、このニュースレターをお読みいただいている皆さまも多大な影響を受けていらっしゃることと思います。
しかし、こうした状況でも、ブドウは健やかに育ち、もう間もなく収穫の時を迎えます。ワイン造りは待ったなしの状況です!
今回のニュースレターでは、各国のワイナリーにインタビューを行い、コロナ禍の現在と今後の展望について伺いました。


インタビューしたワイナリー

イメージ①Juan Gil スペイン、フミーリャ フィラディス売上No.1のシルバーラベルをつくるスペインの中規模ワイナリー。低価格帯から高品質・高価格のワインまで幅広くラインナップし、世界各国に輸出している。
イメージ②Tramin イタリア、アルト・アディジェ アルト・アディジェの小規模生産者による協同組合で、産地の個性を表現した完成度の高いワイン造りが特長。価格帯は中〜高価格。
イメージ③Michael David アメリカ、カリフォルニア ロバート・パーカーが「地球上で最もベストバリューなワイナリーのひとつ」と評した。世界規模の生産者として不動の人気を誇る大規模ワイナリー 。価格は中価格帯。
イメージ④Lancelot Pienne フランス、シャンパーニュ グランクリュのクラマンにて緻密で精巧なシャンパーニュを造るレコルタン・マニュピラン。①〜③に比べ規模は小さいが、フランス国内外から注目される生産者のひとり。

1. コロナのロックダウン期間から現在にかけてどんな状況か?小売は好調だったため低価格のワインは堅調だが、レストランが甚大な影響を受けたため中~高価格ワインは低迷中。

①Juan Gilコロナのパンデミックはスペインで非常に深刻な影響を及ぼしており、GDPの低下と失業率のかつてない増加が危惧されています。スペインのワイナリーは、ワインツーリズムやワイナリーでの販売がなくなり、ほぼ活動できなくなったところが少なくありません。エントリーレベルの価格帯のワインを販売するワイナリーはスーパーマーケットなどで継続して販売できましたが、品質の高いワインを販売する専門店が対象のワイナリーでは深刻な問題に直面しています。また、スペインでもオンラインのワイン販売が大幅に成長しました。

②Tramin

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ロックダウン期間中は一般客向けにはワイナリーを閉鎖し、ワインショップも5月8日まで閉鎖しました。生産設備内では厳しい洗浄&消毒手順を設けています。勤務体制としては、生産部門では感染者が出た場合でもワイン造りをストップさせないように週交替のシフトで作業しており、管理・運営部門はロックダウン期間中はテレワーク勤務となりました。全従業員が手の消毒を徹底し、マスク着用も義務付けられています。 ロックダウンの期間中、全てのレストラン・ワインショップが閉店したため、イタリア国内のワイン売上は減少しました。その中で、オンライン販売数は急激に伸びました。6月頭頃からレストランが再開し、徐々に売り上げも回復してきています。輸出に関して言うと、若干の減少はありますが、ロックダウンの程度が国によってかなり違うので国ごとの差が大きく出ています。第二波がない限りは今後の販売に関してはかなり楽観視しています。

③Michael Davidすべての従業員にCOVID-19の症状について教育や対応方法の訓練を行い、距離を保ち、マスクやフェイスカバーの使用も義務付けています。また、テレワークを推奨し、すべての会議は現在もリモートで行っています。また、当ワイナリーが所有および運営する施設はすべて一般公開をやめ、外部からの訪問も禁止、生産設備では洗浄と消毒の回数を増やし、地元のお客様向けの持ち帰り用ワインのピックアップ場所を用意するなど、様々な対応を行っています。 販売面については、当ワイナリーの幅広い流通ネットワークが機能し、現在も安定しています。ワインの売り上げ自体は伸びているので、今後も続くことを期待しています。

④Lancelot Pienneコロナの間もブドウの成長は待ってくれないので、ロックダウンから今日まで畑仕事は続けています。もちろん正しい行動をするように心がけ、畑やワイナリーでは人と人との距離を保っての作業を行っています。販売面への影響は甚大で、大惨事といえます。フランスや他の多くの国でレストランやバーが閉鎖したことによるものです。 幸いなことに、ロックダウン後にもその他の顧客であるセラーや個人客のみなさんがシャンパーニュを求めてくれたので少し救われました。6月には少し持ち直し、徐々に回復してきています。

2. ブドウ栽培&ワイン造りへの影響があるか?ワイン造りにはコロナの影響はほぼみられない。

①Juan Gil

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畑での作業にはほとんど影響はありません。今年のスペインは雨が非常に多く、想定外の自然災害がなければ2020年は収量・品質どちらにおいても非常に素晴らしい収穫が期待できます。障害がない状態で収穫に臨めるように祈っています。

②Traminほとんど影響はありませんでした。トラミンは協同組合であり、各組合員の持つ畑は平均1ha以下と比較的小さいです。その為、家族で畑仕事を行っているところが多く、日々の作業には大きな影響はありませんでした。醸造に関しては、前述の通り厳しい洗浄&消毒手順を設け、週交代のシフトにして感染を予防しています。

③Michael Davidほとんど影響はありません。これまでと異なるのは、全てのスタッフが保護防具を身につけるようになったこと、また長期的な休暇を取るようになったことです。畑での作業は屋外ですし、自然と距離を保つ事が出来るため、それほどの問題はありませんでした。また、来る収穫期についても、特に大きな変化や不安要素は考えていません。

④Lancelot Pienneほとんど影響はありませんでした。フランスでは法律で畑仕事を続けることを許可していましたし、ワイン造りもシャンパーニュではすでに終わっている時期でした。瓶詰めは7月に行ったので大きな影響はありませんでした。ただ、今回デゴルジュマン(澱抜き)は遅らせなければならないでしょう。

3. 新しい取り組みがあれば教えてください。どのワイナリーも希望を持って前進中!コミュニケーションや“あり方”を見直すワイナリーも。

①Juan Gilオンライン、専門店、食料品などマーケティングを更に多様化させていく必要があると感じています。また、今回のような危機の中でビジネスを続けることができるよう状況を分析しています。 一方、今後消費者からは、より環境に配慮した持続可能な取り組みを行うこと、企業の社会的責任を果たすこと、人々と従業員へのコミットメント、社員の仕事と家庭のバランスを守ることなどをワイナリーに期待されるでしょう。ワインについても、品質だけでなく、より透明性と誠実さが求められると予想しています。これらの期待に応える為、我々は全ての分野で重要な変化を起こしていかなければなりません。 スペインの農業従事者は、常に変化に適応し、困難な状況でも前進していく力があります。困難な状況でも何世代にもわたってやってきたという自負があるのです。彼らの勇敢さはスペインの危機を克服するための要の一つになるでしょう。

Tramin感染を防ぐため、ワイナリーの職員は引き続きマスク着用&手指の消毒を常に行っていますし、ワインショップへのアクセスを制限したり、1時間毎の生産設備の殺菌も引き続き行っています。 コロナ禍でもソーシャルメディアを通しお客様と積極的に交流し、ブランド認知度の向上に努めました。また新しいウェブサイトも制作中で、近日中にお披露目が出来る予定です!

③Michael Davidこの状況での好ましいニュースは、ワインの販売が引き続き好調であることと、全てのスタッフが仕事を続けることができていること、全員が変化に適応して近隣の多くのワイナリーと同様に前進していることです。 私たちは将来を見据え、現在多くのブランドパッケージをリニューアルしようとデザインを練り直しています。未来にどんなことがおきるか、とても楽しみにしています!

Michael David がつくる、アメリカでもっとも売れているジンファンデル「セブン・デッドリー・ジンズ」

④Lancelot Pienne

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私たちは自分たちの仕事とワインの品質に自信を持っているので、価格を下げることは考えていません。しかし減少した売上を回復させることが急務であるため、新しい国への輸出の可能性など、ポテンシャルのある新しいマーケットを探し始めています。 また、ワイナリーやワイン造り、チーム、ワイナリーでの仕事、そしてワインについてもっと知ってもらうことは積極的に行いたいと考えています。ワインツアーを拡大してより多くの人にワイナリーを訪問してもらう試みも始まりましたし、3月より毎月新聞を発行して情報発信をしています。希望があればフィラディスチームと共にマスタークラスを開催することも可能です。私たちは単なるワイナリーとしてではなく、皆さんにとってもっと本当のパートナーとしてありたいと考えています。

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熟成ワインの魅力(後編)

熟成ワインの魅力(後編)

前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

By YURI ASAHARA
熟成ワインの魅力(前編)

熟成ワインの魅力(前編)

「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

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