コラム

熟成ワインの魅力(前編)

コラム

熟成ワインの魅力(前編)

「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

By a.watanabe
太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

コラム

太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

By a.watanabe
気候変動とワイン造り~ADVICLIMが示すブドウ栽培の未来②~  仕入れ担当 末冨春菜

コラム

気候変動とワイン造り~ADVICLIMが示すブドウ栽培の未来②~ 仕入れ担当 末冨春菜

地球上で生きている私たちにとって、切っても切れない地球温暖化の問題。 第一回目 は導入編として、ブドウ栽培における気候変動の概要をご紹介しました。 二回目となる今回は、主要な短期的アプローチについて、ADVICLIM※の提言と、実際の生産者の導入例をご紹介していきたいと思います。 ※ADVICLIM・・フランス国立農学研究所(INRA)やドイツのガイゼンハイム大学をはじめとした国際的パートナーによる気候変動へのブドウ栽培の適応方法を検討したプロジェクト まずは前回の振り返りとして、ADVICLIMがまとめた短期~長期的な対応策と、気候変動への効果の表を振り返りましょう。 短期的なアプローチ ①醸造技術 (Winemaking Techniques) & ②収穫管理 (Harvest management) ADVICLIMの提言書では、醸造技術と収穫管理において、以下の提言がなされています。 * 収穫時期の調整、収穫時期を早める メリット:ブドウの過熟を防ぎ、酸を保ち、アルコール度数の上昇を抑制する。 * 収穫されたブドウの温度管理 メリット:収穫後

By Migrator Added Author
ワインは海で育つ?北海道の海中熟成ワインをテイスティング (広報 浅原 有里)

コラム

ワインは海で育つ?北海道の海中熟成ワインをテイスティング (広報 浅原 有里)

以前のワインコラムプロにて、北海道の7つの海域でワインやウイスキーなどを熟成させている株式会社 北海道海洋熟成の本間一慶さんのインタビューをお届けしました。 今回はその続編として、3年間海中にて熟成させたワインの味わいの違いを検証しました。通常のセラー熟成と比較して、海中環境ではワインにどのような差異をもたらすのか。さらに、海域の違いで味わいにはどんな違いが生まれるのか。今回のテイスティング結果から明らかにしていきます。 熟成環境 以下のそれぞれの環境で、同一ロットのワインを3年間熟成させました。 熟成期間は、2022年6月〜2025年6月です。 ①セラー熟成・フィラディスの長期熟成用セラー・温度15度、湿度75%前後 * https://www.westporttennisclub.com/contact * https://www.ausfitprojects.com.au/testimonials/ ②羅臼(らうす)・水深20〜30m・水温は7つの海域の中で最も低く、0℃〜高くても20℃前後。寒流しか流れ込まないため温度上昇は少ない。・世界遺産に認定された知

By Migrator Added Author
ワイン表現を考える−「テクスチュア」(ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

コラム

ワイン表現を考える−「テクスチュア」(ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

ワインテイスティングの際に使われる様々な表現語彙は、そのワインをより端的かつ具体的に表現し、ワイン描写の大きな手助けとなってくれます。それら語彙には、濃い/淡い(色合い)、強い/弱い(風味など)、高い/低い(酸味、アルコール度など)といった直接的な表現語彙の他に、多くの比喩語彙があります。最も代表的で馴染みがあるのが、多種多様な香り(nose)表現の比喩です。果実、食品、草木などの自然、身の回りの匂いがあげられます。しかし、比喩語彙は香り表現のみならず、味わい(palate)表現でも用いられます。 今回はその味わい表現のなかのテクスチュア(texture)について考えます。テクスチュアは“質感”、“手触り”、“表面の質感”と直訳され、ワイン表現においてもその滑らかさと渋みに起因する質感を表す際に使われる用語です。では、そのテクスチュア(質感)とは具体的に何を表していて、どんな要素に起因しているのでしょうか。また、テクスチュア同様しばし表現語彙として使われるストラクチュアとはどんな違いがあるのでしょうか。実際にテクスチュア表現に使われる用語を元に考えていきましょう。 * http

By Migrator Added Author
今一度プレモックスを掘り下げる(ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

コラム

今一度プレモックスを掘り下げる(ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

2000年台前半にワイン業界に衝撃を与えたプレマチュア・オキシデーション(Premature Oxidation、熟成前酸化、以下プレモックス(Premox))。プレモックスが業界の話題になったきっかけは、1996年ヴィンテージのブルゴーニュ白ワインがたった5-6年後の2000年代前半に驚くほどの酸化劣化をしていた事でした。しかもそれは著名無名、特級村名を問わずブルゴーニュ全体から散見されました。2010年代以降のヴィンテージでは深刻な欠陥はブルゴーニュからは見られなくなりましたが、世界中のとりわけカリフォルニアや西ケープのような温暖な産地からの事例報告は今も挙がっております。一時は単純にコルクの品質が原因だと言われていた時期もありました。しかし、ブドウの段階から瓶詰めまでの酸化作用、酸素の蓄積、亜硫酸をはじめとする抗酸化成分の不足が数年後にプレモックスとして現れることが分かっています。発端から30年近く経った今でも完全なる解決がされていない事からも、幾つもの要素が複合的に絡んでいる事が示唆されます。 プレモックス、その判断の難しさ プレモックスは熟成前酸化と記される通り、熟成経

By Migrator Added Author
気候変動とワイン造り~ADVICLIMが示すブドウ栽培の未来①~(仕入れ担当 末冨春菜)

コラム

気候変動とワイン造り~ADVICLIMが示すブドウ栽培の未来①~(仕入れ担当 末冨春菜)

地球上で生きている私たちにとって切っても切れない地球温暖化の問題。 まだ記憶に新しい2023年、この年は異常に暑く、世界各地で40℃越えを記録し、山火事などの自然災害も相次ぎました。世界気象機関(WMO)は、2023年の世界平均気温は1850〜1900年と比較して、約1.4℃上昇し観測史上最も高かったと発表しています。 同年7月、国連の事務局長による「地球温暖化(Global Warming)から地球沸騰化(Global Boiling)の時代に入った」という発言は、非常にインパクトがあり、印象に残っている方も多いのではないでしょうか。我々が口にしているワイン、そしてブドウもその影響を大きく受けています。 皆さまは、ヨーロッパの複数の機関や研究者が連携し、2014年から2020年に活動していた「ADVICLIM」というプロジェクトをご存知でしょうか? AD aptation of VI ticulture to CLIM ate change (=気候変動へのブドウ栽培の適応)の頭文字を取っており、気候変動がワイン産業に与える影響を研究し、適応策を提供することを目的とし

By Migrator Added Author
マスター・オブ・ワイン - 世界最高峰ワイン資格の難解さに触れる (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

コラム

マスター・オブ・ワイン - 世界最高峰ワイン資格の難解さに触れる (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

2024年11月5日ロンドンのヴィントナーズホールにてマスター・オブ・ワイン(MW)合格者アワードセレモニーが行われました。今年は新たに10名のMWがその峻険な頂の登攀を家族友人等が見守るなか盛大に讃えられました。 MWは世界最高峰ワイン資格と評され、その合格者数は第1回試験の1953年より現在までの70年間で未だ500名弱に留まります。現役では421名(2024年11月時点)が世界30カ国のワイン業界で活動しています。これまでの合格者には名だたるワインプロフェッショナルが名を連ね、ジャンシス・ロビンソン女史、ジャスパー・モリス氏、故ジェラール・バッセ氏などが挙げられます。 このワイン資格に日本在住者では東京拠点(当時)のネッド・グッドウィン氏が2010年に初めて合格しました。日本人ではこれまで2名がその峻岳を上り詰め、前回合格者は2015年の大橋健一氏です。 インターネットの活性化による情報へのアクセスの手軽さ、世界各地への渡航利便性の向上、物流の発展による各国ワインの入手し易さなど、試験対策環境は向上しています。しかし、同時に出題範囲も拡大し続け、また出題分野も多岐にわたるため

By Migrator Added Author
『Charles Joguet カップ』結果発表!!優勝&フィラディス特別賞に選ばれた、シノンにマリアージュするレシピとは?

コラム

『Charles Joguet カップ』結果発表!!優勝&フィラディス特別賞に選ばれた、シノンにマリアージュするレシピとは?

今回のコラムプロでは、今夏に実施したレシピコンテスト『Charles Joguet カップ』の結果発表をお届けします! 本コンテストは、世界屈指のカベルネ・フランを生み出すワイン産地、ロワール地方シノンで神様と称されるシャルル・ジョゲの「シノン・シレーヌ」にマリアージュするお料理をテーマに開催し、多くの創造力豊かなレシピが集まりました。厳正なる審査を経て、見事なペアリングを披露した優秀作品が決定いたしましたので、講評とともにご紹介します。 👑 優勝 👑 大和芋とベーコンのオーブン焼き、トリュフと山椒の香り製作者:ヒメさん 様 ■マリアージュのポイント 素朴になりがちな大和芋をオーブンで焼き目を付けて明るいテイストにする事で繊細なシノンに合わせてみました。また、隠し味の山椒とトリュフソルトがより複雑なシノンに寄り添います。 * https://www.westporttennisclub.com/contact * https://www.ausfitprojects.com.au/testimonials/ ■材料・大和芋 60g ・ベーコンみじん切り 30g

By Migrator Added Author
ブドウ樹の病害と新しい対策について<後編>-Pest / 有害生物- (仕入れ担当 末冨春菜)

コラム

ブドウ樹の病害と新しい対策について<後編>-Pest / 有害生物- (仕入れ担当 末冨春菜)

多くのワインメーカーが「素晴らしいワインは素晴らしいブドウから生まれる」とし、畑での作業に多くの時間を費やしています。このコラムでは全3回に分けて、畑にフォーカスし、生産者、そしてブドウ(樹)を脅かす病害とその最新の対策について見ていきたいと思います。 第1回は幹の感染症、第2回はカビ・細菌・ウイルス病について紹介しました。最終回となる今回は、有害生物(害虫)をご紹介します。 ①有害生物(害虫)による被害 有害生物は様々な方法でブドウ畑を襲います。ブドウ粒の食害や、ブドウ葉に物理的に損傷を与え光合成能力を低下させるだけでなく、葉の上に住み、樹液を吸ってブドウ樹全体を弱らせたり、根を攻撃し、ブドウ樹の水分や栄養分の吸収能力を低下させます。さらに、媒介者としてブドウ樹からブドウ樹へと病気やウイルスなどを感染させるという害も与えます。 栽培家にとって一番シンプルな対応法に殺虫剤や殺ダニ剤の使用がありますが、これは最小限に抑えたとしても畑に生息する捕食者となる益虫まで殺してしまう事があります。環境への負荷を0に近づけながら害虫の被害も無くすため、栽培家は畑や植物を注意深く観察しながら

By Migrator Added Author
【シャンパーニュのアルチザン6名来日記念🍾】 ソムリエ協会分科会で実施したパネルディスカッションの内容を公開!後編:「シャンパーニュにおける栽培・醸造」

コラム

【シャンパーニュのアルチザン6名来日記念🍾】 ソムリエ協会分科会で実施したパネルディスカッションの内容を公開!後編:「シャンパーニュにおける栽培・醸造」

4月5日〜10日まで、フィラディスが正規代理店を務めるシャンパーニュのアルチザン6名が同時に来日し、東京と大阪で様々なイベントを行いました。 どの会場もご来場いただいた皆さまの熱気で非常に盛り上がり、生産者たちは心から満足した様子で帰路につきました。ご参加くださった皆さま、誠にありがとうございました!! 今回の来日ではソムリエ協会に協力を仰ぎ、東京と大阪にてパネルディスカッションを行いました。前編と後編で3生産者ずつに分け、前編は「土壌とスタイルの関係性」、後編は「栽培・醸造」というテーマでそれぞれの考えを伺いました。 6月号では前編「シャンパーニュにおける土壌とスタイルの関係性」の内容をご紹介しましたので、今号では後編「シャンパーニュにおける栽培・醸造」を公開します。 前編「シャンパーニュにおける土壌とスタイルの関係性」 https://firadis.net/column_pro/202406/ アルチザン・シャンパーニュとは かつてシャンパーニュのマーケットはメゾンの独壇場でした。時代を経て、テロワールを深く意識した小規模生産者が台頭し、より幅広い選択肢の中からシャンパ

By Migrator Added Author
ブドウ畑を陰から支える台木。その品種選択を探る。( ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

コラム

ブドウ畑を陰から支える台木。その品種選択を探る。( ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

新たなブドウ畑の開墾や既存畑の植替えの際に検討することになるのが台木品種の選択です。この台木の選択は、現代ブドウ栽培において重要視される項目の一つとなっています。台木(rootstock ルーツストック)とは、その名の通り果実品種(ブドウ品種)の穂木を接ぎ木する“台となる木”の事でブドウ樹の下部半分を指し、地中部に拡がる根の特性が選択のカギとなります。 根は植物自身が雨風で流されない様に表土に固定する物理的役割の他に、水分と栄養素を地中から吸収する化学的役割があります。根が地中に力強く広がり多くの水分と栄養素を取り込めば、ブドウ樹上部の樹勢は強くなります。また、土中害虫への抵抗力、土壌pHや石灰岩含有量、土壌塩分濃度など生育環境が根に適していれば、ブドウ樹の樹齢も長くなります。更に、降雨量や気温などその土地の気候条件に根が対応できれば、出来上がるブドウの質と量も向上するでしょう。 一般的に台木に使われるのはアメリカ系品種で、主に3種類あります。川ブドウと呼ばれ、涼しく湿った河川域を原産とし、根を浅く張るリパリア。岩ぶどうの種類で樹勢が強く、根を深く張る傾向のあるルペストリス、同じく

By Migrator Added Author