【フィラディス実験シリーズ第29弾 】 銀座「はっこく」の30貫の圧巻の鮨に合うワインとは?

【フィラディス実験シリーズ第29弾 】 銀座「はっこく」の30貫の圧巻の鮨に合うワインとは?
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フィラディスでは、和食、鮨、焼き鳥、天ぷら、焼き肉といった和食業態の飲食店様向けに、そのお店のお料理にマリアージュするワインの提案サービスを行っているのはご存知でしょうか?

和食業態のお店ではソムリエが在籍しない場合が多く、専門スタッフがいなくても、こだわりのお料理に合うお客様の満足度の高いワインを提供してほしいという思いから、2018年にスタートしました。

今回のニュースレターでは、本サービスをご利用いただいている人気の鮨店「はっこく」様で行ったマリアージュ検証会の様子をお伝えしたいと思います。


「はっこく」の鮨

銀座に店を構える「はっこく」店主の佐藤博之さんは、サービスマンから鮨職人に転身したというめずらしい経歴を持ちます。そうした出自もあってか、フレンチやイタリアンのグランメゾンのような鮨店を目指して「はっこく」を立ち上げ、舌の肥えた銀座のお客様に絶大な支持を得ています。

3月末、実験当日のメニュー

はっこくさんの最大の特徴は、約30貫(!)の握りのみで勝負されていること。

途中で野菜の小鉢はいくつか供されますが、次から次へとテンポよく握られるお鮨でお腹を満たしてもらおうという心意気が感じられます。中盤ではまぐろが5貫(赤身、中トロ、カマの下の霜降り、大トロ、ヅケ)も続くなど、満足度が高くとてもワクワクさせてくれる構成が魅力です。

シャリは

赤酢を使用したインパクトの強い味わいです。約30貫を提供されるということで、一つ一つの鮨は小ぶりですが、ネタも素晴らしくシャリとの調和が見事なお鮨 でした。

鮨とワインのマリアージュ基礎

実は実験シリーズの第21回にて、鮨とワインのマリアージュ実験を行っています。その時には白酢と赤酢の両方のシャリを用意して、汎用性の高い幅広く合わせることが出来るワインを探していきました。お鮨とのマリアージュを考える上でのポイントも挙げていますので、ぜひこちらを先にお読みいただき、今回は応用編として捉えていただければ幸いです。

https://firadis.net/column_pro/201812/


合わせたワイン

今回は、高級店で注文されることの多い「シャンパーニュ」「シャルドネ」「ピノ・ノワール」に特化し、はっこくさんのお鮨に合うタイプがどのようなワインなのかを検証しました。

※白ワインには前回の実験で白酢1位だったグリューナー・フェルトリーナーも参考として用意しました。


結果

<シャンパーニュ>

第1位:NV Cuvee Sainte Anne Brut / Chartogne-Taillet

マグロの赤身

はっこくさんの鮨に最も良く合ったのが、じんわりとした旨味と複雑味が特長のChartogne-Tailletでした。マグロの赤身では、特有の鉄っぽさを軽やかに引き上げ、旨味が同調して長い余韻を楽しませてくれましたし、蛍烏賊とは、ワインのタイトさと烏賊の苦味がよく合うとともに甘味を増幅させていました。その他にも、青柳、鰆西京漬、鮟肝、松葉蟹などが素晴らしかったのですが、全体的にもとてもよく合っていました。

第2位:NV Brut Carte d’Or / Veuve Olivier et Fils

春子鯛

ムニエ比率が高く酸も穏やかで柔らかい味わいのVeuve Olivierも全体的にとても良かったです。特に、春子鯛(カスゴダイ)や金目鯛、細魚(サヨリ)、白子、平貝、墨烏賊、中トロといった繊細で甘みのある味わいのネタに好相性でした。カツオや大トロ、マグロのヅケなど薬味やネタの味わいが強いものにはワインが負けてしまった印象でしたが、これは合わない!というネタがほぼなかったため、全体的に合わせやすいと感じました。

はっこくさんの旨味の強い赤酢のシャリには、ムニエを含むブレンドのシャンパーニュがよく合いました。旨味が豊富なシャンパーニュは、やはり鮨ととても相性が良いと改めて実感しました。
残念だったのは、ブラン・ド・ブランの2種類でした。ふんわりおおらかな果実味が特徴のClaude Cazalsはその果実味が悪目立ちしてしまいトーンが合わず、ミネラルが強く鋭角的な酸を持つJ.L.Vergnonはテクスチャーがことごとく相反してしまう結果となりました。とはいえ、どちらも決定的に合わないということはなく、どのネタでも無難に合わせることができるのはシャンパーニュの強みだと感じました。

<シャルドネ(白ワイン)>

第1位:2019 Chablis V.V. / Sebastien Christophe

シャルドネNo.1にはシャブリが輝きました!シャブリの中でも凝縮した果実味に活き活きした酸とミネラルがあって樽香は比較的少な目なスタイルなので、旨味の強いはっこくさんのお鮨にもしっかり寄り添い、更に旨味や甘味を引き上げてくれました。特に、墨烏賊や白甘鯛昆布〆、鮎魚女(アイナメ)などには柑橘の香りをプラスして爽やかに楽しませてくれました。

第2位:2018 Meursault Tete de Cuvee / Francois d’Allaines

シャブリよりも強い樽のニュアンスが、ところどころで悪目立ちすることはあったものの、はっこくさんの代名詞である中盤のまぐろ5貫とはテクスチャーやトーンがよく合い、まぐろをより甘く旨味の余韻長く感じさせてくれました。はっこくさんのまぐろのお鮨を更に引き立てる1本だと言えます。

前回の実験で特に樽が強いシャルドネは鮨に合わせづらいという結果が出ましたが、はっこくさんの旨味の強いお鮨ではより合いやすかったように思います。とはいえ、比較的樽香の強いPouilly Fuisseやカリフォルニアのシャルドネでは多くのネタで樽が浮いてしまいました。
尚、参考で合わせたグリューナー・フェルトリーナーは、鮨の甘味を引き上げ、強い旨味にも寄り添ってくれるためやはり全体的に良かったのですが、今回は本当にどのネタにもシャブリが素晴らしくマリアージュしたため、1位の座はシャブリが獲得しました。

<ピノ・ノワール(赤ワイン)>

第1位:2017 Nuits St. Georges Grandes Vignes / Daniel Rion

車海老

ピノ・ノワール対決では、ミネラル感が強くエレガントな味わいのNuits St. Georgesが1位となりました。特筆すべきは、鮨と合わせた時の余韻の長さと美しさ!!シャリとも抜群に合っており、ワインのミネラル感と鮨のミネラル感が同調して甘味や旨味を引き立て合い、透明感のある美しい余韻を味わわせてくれました。どんなネタでも合わせられましたが、特に細魚(サヨリ)や鯵、中トロ、車海老や貝類が素晴らしかったです。
今回の検証全体でも、このNuits St. Georgesが一番良く合っていたと思います。

2位以下はほぼ同率というところでしょうか。赤酢のシャリのため、どのピノ・ノワールも平均点以上に美味しく合わせられました。強くどっしりした印象のMarsannayは、まぐろのづけや煮蛤など味わいの強いネタと同調しましたし、土っぽいニュアンスがあるSantenayは、のど黒やマグロの赤身と素朴でしみじみとした美味しさを感じさせてくれました。しっかりした甘さのあるオレゴンのピノも、蛍烏賊や煮蛤・鮟肝などもともと甘味が強いネタと同調し、更に旨味を引き出していました。
どのピノも、牡丹海老や平目には甘さの方向性が異なり素材を殺してしまいましたし、小肌や桜鱒にはワインが強すぎて合わないなど、いくつか根本的に合わないネタはありましたが、やはり赤酢の鮨にはピノ・ノワールはお勧めできると思います。


今回はマリアージュ応用編として、はっこく様のお鮨にシャンパーニュ、シャルドネ、ピノ・ノワールを合わせてみましたが、いかがでしたでしょうか?
これまで様々なマリアージュ実験を社内で行ってきましたし、ペアリングに定評のあるトップソムリエさん達との勉強会を重ね、独自のマリアージュ理論を作り上げてまいりました。「うちの料理にはどんなワインが合うの?」「こんなワインがよく出るけれど、どんな料理をお勧めすべき?」といった疑問があれば、ぜひフィラディスまでお問い合わせください!


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