世界におけるバルクワインの位置付けと日本の現状(バイヤー 山田篤典)

世界におけるバルクワインの位置付けと日本の現状(バイヤー 山田篤典)
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バルクワイン概要

①バルクワインとは

バルクワイン(Bulk Wine)は読んで字のごとくBulk=大量なワインで、ボトルに入った状態ではなく液体の状態で大量に輸入されて、消費国でボトリングし販売されるワインのことを指します。 日本ではまだまだ一般的と認知はされていませんが、実は世界のワイン生産量の32%(2022年、金額ベースでは7%)を占めている重要なカテゴリーの一つです。 オランダで開催されるWBWEやアメリカで行われるIWBSSなどバルク専門の展示会も世界では開催されています。

②バルクワインの輸入フロー

ボトルワインとバルクワインでは輸入フローが大きく異なります。 ボトル輸入の場合は、既に製品化されたワインを選定し、コンテナにボトルの状態で搬入して日本に輸入、到着後販売をすることが一般的です。 一方バルク輸入の場合は、まずは原酒の選定をします。一般的にこの段階ではまだ製品化されていないため、輸入者とワイナリーで相談しながらブレンドなどを行い、最適な味わいのスタイルや価格などを決定します。その後、ワインを液体の状態でコンテナに充填し、日本に輸入します。輸入した後に、日本でボトリングを行い、また同時にラベリングも行います。そのため、輸入者は自分たちでラベルデザインを行い、ボトルやラベルなどの資材を調達する必要があります。無事にボトリングとラベリングが完了した後に、ようやく販売となります。

③バルクワイン容器

バルクワインの輸入フローで説明した通り、バルクワインの場合は、液体の状態でコンテナに詰めて輸送するので、通常のボトル用コンテナとは性質が異なります。ここではいくつかの代表的なバルクワイン用コンテナをご紹介します。

コンパートメントトラック

サイズ:5000L~12000L(約6500本~16000本)

陸送用のバルク輸送方法です。タンクローリーのような液体用タンクを搭載したトラックで、ヨーロッパなど陸送が可能なエリアでは多く使用されています。

フレキシタンク

サイズ:24,000L(約32,000本)フレキシタンクはバルクを海路輸送する際に、最も一般的に使用される輸送容器です。1回使い切りの袋状の容器を使用しているため衛生的ですし、輸送先から引き返す必要も

ないため安価ですが、後述するISOタンクほどの耐久性はなく、温度管理機能も通常は付帯していません。

ISO タンク

サイズ:24,000L〜26,000L(約32,000〜35,000本)

ISOタンクはフレキシタンクよりさらに安全性が高く、基本性能として温度管理機能が付いています。フレキシタンクと違い何度でも再利用が可能というのも大きなポイントです。一方でフレキシタンクよりもコストがかかります。


バルクワインのメリット・デメリット

【メリット】

前述したようにバルク輸送の進化に伴い、世界的に見てもバルクワインはワインビジネスにおいてますます重要なポジションを担うようになってきています。それではなぜ世界中の企業がバルクでワインを輸入するのでしょうか?ここでは主な理由を3点説明します。

①価格優位性

通常ボトルでワインを輸入する場合、1コンテナ辺りの積載本数は16,000本程度であるのに対して、フレキシタンクなら約32,000本とおよそ2倍量をコンテナに積載することができます。そのため輸送コストを抑えることができ、販売するワインに価格的優位性をもたらします。 ただし高額なワインの場合は、輸送費コストが価格に与えるインパクトは小さいため、バルク輸入の恩恵も非常に小さくなります。従って一般的にバルクワインは低価格のカジュアルなワインに向いているとされています。

②高い自由度

ボトルワインと違い、まだ製品化されていない液体の状態のワインを購入するため、オプションに対する自由度が非常に高いのもバルクワインの特徴の一つです。輸入会社が求めるワインの生産を実現できる可能性がより高まります。

例1. 原酒のブレンド:エリアやブドウ品種、味わいスタイルなど

例2. 資材の選択:容器、ラベル用紙、ラベルデザイン、キャプセルなど

③環境への配慮

現在世界的にバルクワインが注目されている最も重要な理由の一つが、バルクワインが環境に与えるプラスの影響です。 バルクワインを輸送し、輸入国でボトリングすることで、二酸化炭素排出量を最大40%削減できると言われています。

またボトルの再利用の可能性も注目されています。特にヨーロッパでは既にボトルの再利用が進んでいますが、日本のワイン業界においては聞き馴染みがないと思います。

ワイン業界の温室効果ガス(GHG)を考える際、輸送時の排出が注目されがちですが、それよりも多大な影響を与えているのがガラス製造工程だとされています。ガラス製造では溶解炉を動かす際に未だ化石燃料が使用されているためです。そのため、日本でもバルク輸入が増え、ワインボトルの再利用が進むことで大幅にCO2削減に寄与できると考えられています。

【デメリット】

ここまでバルク輸入の良い面を説明してきましたが、このようなメリットが数多くあるにも関わらず、日本においてまだまだ一般的でないのには理由があります。ここでは3つの代表的なリスクや課題を解説します。

①ボトリング設備の調達

ヨーロッパ諸国やアメリカのようなワイン生産大国においては大きな問題とならない可能性が高いですが、日本のようにまだまだワイン生産量が少ない国においては高いハードルとなるのがボトリング設備の問題です。日本のワイン輸入会社の中で、この設備を自分たちで確保することができる会社は非常に限定的です。

②大量輸入による大量在庫

前述したように最も一般的なバルクワイン用のコンテナであるフレキシタンクは24,000Lで本数にすると32,000本です。酸化のリスクがあるため、24,000Lを大幅に下回る量で輸入することはできません。そのため1回の入荷で1つのアイテムを32,000本輸入させ、倉庫にて在庫し、安定的に販売を行う必要があります。1アイテム32,000本を一度に在庫でき、一定の期間で安定的に販売するための販路や営業リソースを持っている輸入会社も限定的と言えるでしょう。

③コンディションリスク

既に製品化されて安定しているボトルワインと違い、バルクワインは輸入国に到着した後に完成しますが、輸送前後及び輸送中に正しくケアしないとトラブルが発生してしまう可能性が有ります。そのためボトル輸入に比べて、より多くの知見やノウハウが必要となります。 実際フィラディスでもバルク輸送を始めた当初、ワイナリーの出荷作業や船の運行に予期しない遅延が発生し、入荷する時期が大幅にずれて熱劣化させてしまったことがありました。32,000本ものワインすべてが劣化してしまうという苦い経験を経て、より慎重に手続きを進めるようになりました。


バルクワインの生産国

今回バルクワインの生産量について調査してまず驚いたことは、バルク生産量圧倒的トップを誇るスペインを筆頭に、オーストラリアや南アフリカでは生産量の過半数以上をバルクワインが占めているということです。オーストラリアや南アフリカのような海路での輸出が中心の国においてもバルクワインがワインビジネスの中心にあることも注目に値します。 またUSAとニュージーランドにおいては、合計生産量と合計金額に大きな差はありませんが、バルクの金額ではニュージーランドはUSAのおよそ2倍です。ここからUSAでは低価格帯のみがバルク輸出されているのに対して、ニュージーランドはそもそも低価格帯のワインが少ないこともあり、もう少し高額なレンジでのバルク輸出がされていることが分かります。

【バルクワイン生産量ランキング】第1位:スペイン 第2位:イタリア 第3位:オーストラリア 第4位:チリ

【バルクワイン生産割合ランキング】第1位:オーストラリア 第2位:南アフリカ 第3位:スペイン 第4位:ポルトガル

【バルクワイン生産金額ランキング】第1位:スペイン 第2位:ニュージーランド 第3位:イタリア 第4位:オーストラリア

<国別バルクワイン生産データ>


バルクワインの輸入国

輸入国に関しては、合計輸入量TOP4がバルク輸入においても1位から4位を独占しています。バルク輸入量ではドイツがダントツで1位で、残りの3か国は横並びです。一方、バルク輸入金額ではUKが頭一つ抜けており、ここからドイツではより低価格帯のワインがバルク輸入されており、UKではもう少し高価格帯のワインまでバルクで輸入されていることが分かります。 またバルク輸入量の割合は、イタリア、フランス、ポルトガル、ドイツとヨーロッパの国々が独占しています。特にトップのイタリアに関しては輸入量の85%がバルク、フランスとポルトガルに関してもおよそ75%がバルクワインであるという結果になりました。つまりこれらの国においては、ボトル輸入よりもバルク輸入の方が圧倒的に一般的となっているということになります。

ヨーロッパ各国は陸続きなので、トラックでのバルク輸送が可能なことが大きな要因であると考えられます。また前述した通り、ボトリング設備が充実していることにも起因しているでしょう。

【バルクワイン輸入量ランキング】第1位:ドイツ 第2位:USA 第3位:UK 第4位:フランス ※日本:12ヵ国中10位

【バルクワイン輸入割合ランキング】第1位:イタリア 第2位:フランス 第3位:ポルトガル 第4位:ドイツ ※日本:12ヵ国中9位(同率)

【バルクワイン輸入金額ランキング】第1位:UK 第2位:ドイツ 第3位:USA 第4位:フランス ※日本:12ヵ国中11位

<国別バルクワイン輸入データ>


今後の日本におけるバルクワインビジネスの展望

Because, シリーズを筆頭に、フィラディスではバルクビジネスには以前から注目し、着手し始めています。Because, シリーズの販売は堅調ではあるものの、日本全体におけるバルクビジネスの存在感は依然大きいとは言えません。一部の国ではバルクワインが過半数を占めて半ば当たり前の存在になりつつあることを考えると、日本のバルクビジネスの成熟度は他国と比べて非常に低い水準であると言えます。

一方で、近年のワイン蔵出し価格の高騰や日本円の為替悪化などにより、日本における安価なワインの供給は明らかに難化しています。これから我々日本の輸入会社はますますコストに対する強い意識を持って、できる限りクオリティを落とさずに安価な価格でワインを提供できる企業努力が強いられることは間違いないでしょう。
まだまだ日本ではバルク輸入の課題が多く存在していますが、このような状況の中で、今後バルクワインの存在感が増していく可能性は十分にあると考えられます。

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熟成ワインの魅力(後編)

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前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

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熟成ワインの魅力(前編)

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

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