『ドローンワイン・プロジェクト』の新たな取り組みブドウ畑の「カーボン吸収力」見える化に向けたチャレンジ

『ドローンワイン・プロジェクト』の新たな取り組みブドウ畑の「カーボン吸収力」見える化に向けたチャレンジ
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2020年にドローン・ジャパン株式会社とのコラボレーションにより始動した『ドローンワイン・プロジェクト』。「ドローン&AI」を活用し、“農薬や化学肥料に頼らない栽培支援技術”を発展させ、「ひとりでも多くのワイン用ブドウの有機栽培生産者を増やす」ことを目指して活動しています。

今年より新たな取り組みを行うフェーズに入ったとの情報を得まして、ドローン・ジャパン株式会社の勝俣 喜一朗社長に再度お話を伺いました!


これまでの活動成果

以前のニュースレターでもお伝えしたとおり、これまで『ドローンワイン・プロジェクト』ではワイン用ブドウ畑の①テロワールの見える化、②摘葉の自動化、③水分量の把握、④雑草の自動除草 などを目指し、当社が懇意にする南フランスのワイナリーの協力を得ながら研究を進めてきました。それにより、ブドウ畑の「地力分布」と「雑草識別」を表現する技術を開発しました。

※詳細はこちら

https://firadis.net/column_pro/202105/

1. ドローンによる地力分布

ワイン用ブドウの樹勢の生育期ごと「形・色・大きさ」を学習、AI画像解析することで地力分布図をつくる技術。この地力分布図から精密な肥料設計・計画が可能となり、化学肥料を少なくすることに役立つ。

2. ドローンによる雑草識別

ドローンで撮影した画像を色とあわせ3次元情報を加えることで、「ブドウの葉と雑草の区別分布」を可能にする新たなAI画像解析技術。この分布図は雑草と“共生”するワイン用ブドウの栽培に活用でき、農薬・化学肥料を少なくすることに役立つ。

現在でもデータの蓄積を重ねており、さらにテロワールを見える化することによって、膨大な労力がかかる畑作業を効率化し、農薬や化学肥料に頼らないワイン用ブドウの栽培拡大を目指しています。


新たな取り組み:「カーボン吸収力」の見える化

24年度からは、さらに一歩進んでワイン用ブドウ畑の「カーボン吸収力」に着目して研究を進めることとなります。

脱炭素化に向けた世界的な動き

ご存知の方も多いとは思いますが、まずはCO2等の温室効果ガス削減に関する世界的な動きをおさらいしましょう。 2015年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)にて、「パリ協定」という気候変動問題に関する国際的な枠組みが採択され、2016年より発効しました。「パリ協定」では2020年以降の温室効果ガス削減に関する世界的な取り決めが示され、世界共通の目標が掲げられました。また、同じ2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも、目標13に「気候変動に具体的な対策を」が盛り込まれ、この年を機に世界の気候変動への取り組みが加速しました。 各国が国家レベルで温室効果ガスの削減に向けて様々な施策を実施している一方、民間でも金融業やIT産業を筆頭に脱炭素化に向けた取り組みが行われています。

その中でも大きな役割を占めているのが、カーボン・オフセットです。カーボン・オフセットとは、日常生活や経済活動において避けることができない温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについては、植林や森林保護などによる温室効果ガスの削減・吸収活動、あるいは他者が実現した温室効果ガス削減量をクレジットとして購入するなどを通してオフセット(埋め合わせ)するという考え方です。

カーボン・クレジット市場はアメリカやヨーロッパですでに活発化しており、日本も追随する形で取り組みが始まっています。

農業におけるカーボン・オフセット

ワイン造りも含む、農業分野でのカーボン・オフセットの取り組みはどうでしょうか?

先述した2015年のCOP21にて、世界に先駆けてフランスが「4パーミル・イニシアチブ」を提唱しました。4パーミル(‰)とは、0.4%のこと。地球全体でカーボンは0.4%ずつ増え続けており、それを全世界の農地で吸収してカーボン・ニュートラルを実現しようという提言です。それまで排出量を減らすことばかりが取り沙汰されてきた環境対策の中で、カーボンを吸収してしまおう!という非常に画期的なものでした。

全世界の農地は40%のカーボン吸収・貯蔵能力があります。そのパーセンテージをいかに守り、上げていけるかが肝となるのですが、「4パーミル・イニシアチブ」が提言されて以降、カーボン吸収能力を上げる農業栽培技術が注目され、技術開発に対するインセンティブなども増加しました。

研究によって分かったのは、土壌のカーボン吸収力が「土壌の肥沃度」と「生物多様性」に比例するということ。つまり、農薬・化学肥料を使わず、土壌微生物が豊富な状態をつくったり、耕起を少なくしたりといった環境に優しい栽培技術を採用することで、農地のカーボン吸収力が上がることが実証されたのです。
こうしたカーボンに着目した農業技術を導入することを、「カーボン・ファーミング」といいます。

ナパ・ヴァレーでは2022年にカーボン・ファーミングを取り入れた農地への認証制度を作り、すでに16%が認証を受けたという報告がなされました。また、EUでは2023年にカーボン・ファーミングを行うことが義務化されることが決まりました。農業分野においても法的義務が課せられるということになり、これは世界的にも画期的な決定です。
日本ではまだカーボン・ファーミングを実現できているのは全農地の0.5%程度ほどですが、2050年までに25%まで広げようとしています。まだ法制化はされていませんが、法制化に向けた色々な制度が作られ始めているところです。

農家にとってのメリット

カーボン・ファーミングを導入することにより、農家はカーボン・クレジット市場に参入することができ、追加的な収入機会を得ることになります。 現在、約1トンのカーボンを吸収できると、それによって3,000円ほどの副収入を得ることができます。将来的には10倍にも値上がりするのではないかと試算されており、農作物の販売以外の副収入を得られることは非常に大きなメリットとなります。 また、カーボンをどのくらい吸収しているのか“定量的”に図る技術が確立されると、農家の知恵と工夫により、副収入と直結するカーボン・ファーミングの栽培技術が一気に向上されることが予想されます。

「カーボン吸収力」の見える化を助けるセンシング技術

カーボン・ファーミングを導入するにあたり、絶対に必要になるのがカーボン吸収力を正確に/定量的に/客観的に測定する技術です。つまり、カーボン吸収力を精度高く見える化することが重要になります。 現在はまだ導入段階であるため、定量化されておらず正確でない情報を元に判断している場合が多いのですが、ドローン・ジャパン社や多数の研究機関などが技術革新のために研究を進めています。

実際に小麦畑などでは精緻な数値化が実現できており、下の写真のように、一つの地域内でも区画それぞれのカーボンの含有率を測ることができるようになってきています。

カーボン吸収力の測定は、畑の衛星画像と土壌サンプルを独自のアルゴリズムで掛け合わせて行います。
小麦のような毎年一切の植物が生えていない裸地の状態になる作物であれば測定は容易ですが、ブドウ畑の場合は木の樹齢が長く、裸地となるタイミングがほぼないため過去のデータを遡って裸地だった地点の画像を取得します。そこに実際に採取した土壌データを加え、センシングを行います。

2024年の『ドローンワイン・プロジェクト』では、Because, ワインシリーズの南仏シャルドネが植えられている土壌を使って検証を行っています。


まだ始まったばかりではありますが、世界中で競うように技術革新が進められている将来的に必要不可欠な研究であるとともに、ブドウ栽培農家にとってメリットが非常に大きい「カーボン吸収力」の見える化計画。ぜひ今後の取り組みにご期待ください!


ドローンワイン・プロジェクト

勝俣喜一郎社長
勝俣喜一郎社長

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熟成ワインの魅力(後編)

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前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

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熟成ワインの魅力(前編)

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「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

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