鮎に恋するワインを求めて(広報 浅原有里)

鮎に恋するワインを求めて(広報 浅原有里)
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香ばしく焼き上げた鮎の塩焼き。
その繊細な旨みと、ほんのりとした苦み、清流を思わせる清らかな香りは、日本の夏を代表する風物詩のひとつです。
鮎は「香魚」とも呼ばれ、若鮎の時期にはスイカやきゅうりのような爽やかな香気を放ち、旬の最盛期には内臓にかすかな苦みを含む独特の味わいを持ちます。
淡白ながらも骨や皮にも旨味が詰まっており、塩だけで丁寧に焼き上げれば素材の風味がダイレクトに立ち上る、日本人を魅了してやまない食材です。

鮎とワインのマリアージュについては、過去にもさまざまな考察が出ていますが、私たちフィラディスでも完璧なペアリングを求めて実験をしてみました!
どんな産地/品種のワインがマッチするのか。またワインのどの要素が、鮎の味わいとどう響き合うのかーー。そんな疑問を解き明かしてみたいと思います。


鮎について

今回の実験は2024年7月12日に実施しました。 使用したのは、岐阜県産の養殖鮎。一尾あたり約80〜100gと、若鮎の時期を過ぎて盛夏に向けて成長した、やや大ぶりな個体です。シンプルに塩だけで炭火で焼き上げました。 鮎の塩焼きは、淡白ながら脂の乗った白身の甘味と旨味、肝の苦味、パリッと香ばしく旨味が凝縮された皮、そして塩のアクセントと、さまざまな要素が折り重なっています。それでいて全体としては非常に軽やかで、上品な食べ心地が特徴かと思います。

ワインについて

スパークリングは白8種類とロゼ1種類、白ワイン12種類、ロゼワイン2種類、赤ワイン11種類の計34種類用意しました。

マリアージュの判断方法

「ボリューム」「テクスチャー」「フレーバー」「五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)」について、以下のマリアージュポイントを参考にしながら分析します。

同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)

※マリアージュ理論の詳しい内容は以下よりご覧ください。
https://firadis.net/column_pro/201312/

結果

スパークリングワイン部門

1位 6:NV Brut Carte d’Or / Veuve Olivier

1位に輝いたのは、ムニエ比率の高いシャンパーニュでした!力強い旨味やミネラル感が鮎と同調しながら、双方のおいしさを更に引き上げてくれる素晴らしいマリアージュとなりました。また、鮎の優しい風味や軽やかさを殺さず、ボリューム感や双方の強さは拮抗しており、最もバランスが取れた組み合わせでもありました。
このワインは、過去に生牡蠣とのマリアージュ実験でもNo.1に選ばれた実績があり、その実力の高さがうかがえます。

2位 8:NV Heritage / Brice

またしてもシャンパーニュがランクイン!こちらはこれ以上ないくらい肝にバシッと合う点が評価されました。ワインの存在感が強く、重たく感じるという意見もありましたが、肝の苦味を中和し、旨味が心地よく同調しており、鮎とワイン両方が格上げされたように感じました。

3位 3:NV Cremant de Loire Brut Zero / Ch. de L’Aulee

ここへきて本命のロワール、シュナン・ブランの泡が実力を発揮!ミネラルと塩味が同調し、ワインがドサージュゼロで甘さが控えめな分、すっきりとシャープさが際立つ組み合わせでした。シュナン・ブラン特有の果実味と鮎が非常に良く合い、じわじわと甘味・旨味が広がっていくようなアフターの美しさが印象的でした。

スパークリングは全体的に高評価!

スパークリングは全体的に高得点を獲得しており、鮎の塩焼きと合わせやすいことが分かります。強いて言うならば、アロマティックな果実味はあまり相性は良くなく、ミネラル感やキレのある味わいの方が合わせやすいという結果になりました。

白ワイン部門

1位 12:2022 Sancerre / Terres Blanches

まさにベスト・マリアージュだったのが、サンセールとの組み合わせ!「意外性がなくて面白みに欠けるのでは?」という声も吹き飛ぶほど、すべてが完璧に調和した、非の打ちどころのないペアリングでした。ワインのフレッシュな酸味とほろ苦さが鮎の旨味に寄り添い、双方のボリューム感やテクスチャーまでもが見事に一致。全体を通して、文句なしのNo.1でした!!

2位 15:2022 Gruner Veltliner Langenlois / Weszeli

1位のサンセールに僅差で敗れたのがオーストリアのグリューナーでした。豊富な旨味やミネラル感、柔らかなテクスチャーが鮎と同調し、旨味に至ってはさらに引き上げられました。また、ワインの酸味や果実味が嫌味なく足されることで、より芳醇に感じられ、安心感のあるマリアージュを見せてくれました。

3位 13:2023 Gewurztraminer / Tramin

3位のゲヴュルツトラミネールは総じて評価は高かったものの、意見が分かれました。ワインの持つ苦味が鮎の肝の苦味と同調し、ゲヴュルツトラミネールのアロマティックな味わいや豊富な旨味と、脂の乗った鮎の旨味溢れる味わいがとても相性が良く、華やかなマリアージュでした。ただ、ゲヴュルツ特有のライチや桃のアロマがどうしても気になってしまうという意見もありました。

樽香や黄色系のフレーバーはNG

1位から3位まで、まさに「これぞマリアージュ!」という感動をもたらしてくれた白ワインたち。一方で、樽の香りが強く出ていたり、黄色系果実の濃厚なフレーバーを持つワインは、鮎の繊細な風味と調和せずに味わいがちぐはぐに感じられ、相性が良くありませんでした。

赤ワイン部門

1位 30:2021 Chinon Silenes / Charles Joguet

ワインのトーンの高さ、柔らかさ、豊富な旨味が鮎の塩焼きにしっかりと寄り添い、特にタンニンが肝の苦味と同調し、素晴らしいマリアージュとなりました!またその上で、カベルネ・フランの黒系果実のフレーバーやスパイス感やハーブ香が足され、全体が渾然一体となったおいしさは格別でした。

2位 27:2021 Moulin a Vent Rouchaux / Louis Boillot et Fils

ワインのつやっとしたニュアンスやスパイシー感が非常に鮎と合っており、透明感があり明るさを感じるマリアージュでした。タンニンと肝の相性も良く、双方の旨味やボリューム感、テクスチャーも同調しました。

3位 31:2018 Brunello di Montalcino Campo di Marzo / Il Valentiano

熟成によって角が取れたなめらかなテクスチャーと、丸みを帯びた酸、黒系果実の風味が鮎と見事に調和しました。「イタリアの風が吹いた!」と言う声も上がるほど心地よい抜け感があり、ガストロノミックで独特のマリアージュとなりました。

赤系果実のフレーバーや強い酸味・樽香は難しい結果に

これまでのマリアージュ実験でもたびたび確認されてきましたが、鮎の塩焼きにおいても、強い酸味や樽香を持つワインは相性が悪く、やはりNGという結果に。 また、黒系果実は比較的好相性だった一方で、赤系果実のフレーバーは鮎の風味とぶつかってしまい、ムーラン・ナ・ヴァンという例外はあったものの、他は難しい結果となりました。


全体1位はサンセール!!やはりロワールは強かった

実験全体を通じて、最も傑出したマリアージュだったのが「12:2022 Sancerre / Terres Blanches」でした!
サンセールはフランス・ロワール地方を代表する白ワインですが、赤ワイン部門でも1位にシノン、スパークリング部門では3位にクレマン・ド・ロワールがランクインし、やはり伝統的に川魚料理の文化を育んできた産地のワインが強さを示しました。
旨味・苦味・爽やかな香りなど多様な要素を持ちながらも繊細な鮎という食材を、さらにおいしく引き立ててくれる──そんなワインの奥深さに、今回も改めて感服しました。

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熟成ワインの魅力(後編)

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