ワイン輸送の“ホント”を教えます!①ワイナリーから現地の港編 (輸入担当 鈴木幸恵)

ワイン輸送の“ホント”を教えます!①ワイナリーから現地の港編 (輸入担当 鈴木幸恵)
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ワインのプロである皆さんは当然ワインのことはお詳しいですよね。お仕事の中でワインの説明をされる機会も多いことと思います。産地やブドウ品種、生産者やヴィンテージ・・・でも、そのワインどんなふうに輸送されているかご存知ですか?


ワインにとって輸送時のコンディションはとても大切です。どんなに素晴らしいワインも輸送時にダメージを受けてしまっては台無しです。ところがワインの輸送については、正しい情報が広まっておらず、インターネットなどでは有象無象の情報が溢れています。ワインの情報発信者である皆さんには、ぜひ正しくご理解頂き、正しい情報を広めて頂きたいと思います。そこで今回から2回に渡って、実際に輸送を担当している私からワイン輸送の“ホント”をお話したいと思います。

ワイナリーから日本への輸送の流れ

今回はフランスからの船便を例に、ワインがどのように運ばれてくるかをご説明していきます。まずは輸送の流れについて簡単にご説明しましょう。

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ワインの出荷予定が決まると、私たちはフォワーダーと呼ばれる国際輸送業者に輸送手配を依頼します。

実際に船を運航しているのは、商船三井や日本郵船、Hapag Lloydなどの船会社ですが、船の予約はこのフォワーダーを通して行ないます。ワイナリーからの集荷~日本の港に到着するまで全て手配してくれますので、信頼できるフォワーダーと仕事をすることが大変重要です。

フォワーダーの手配でワイナリーからワインが集荷されます。フィラディスでは集荷の時点から定温輸送にこだわり、15℃に設定されたリーファー(定温)トラックを使っています。イタリアやスペインでは、リーファートラックの調達が非常に困難ですので、それがきちんとできるフォワーダーを選ぶというのも大切なポイントになります。なお国ごとにフォワーダーにも得手不得手
があるので、フィラディスでは国ごとに使うフォワーダーを選んでいます。

信頼して任せられるフォワーダーにお願いしないと、せっかくリーファートラックで集荷を依頼しても、フランスやイタリアなどのお国柄、常温のトラックで行ってしまうことなど日常茶飯事。そのため長い輸送の中でも、私が最大限に気を遣うのがこの集荷の部分です。フォワーダーと密に連絡を取り、確認をしながら手配を進めていきます。

コンテナについて

集荷されたワインはフォワーダーの定温倉庫に集められ、そこでコンテナと呼ばれる大きな箱のようなものに詰められます。コンテナとはどんなものかご存知ですか?その前に皆さん、ワインの輸送にはどのような船が使われているかご存知でしょうか?「冷凍(冷蔵)船」という船ごと冷蔵庫になっている船が使われていると考えている方もいらっしゃるようですが、違いますよ!

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ワインはコンテナ船と呼ばれる上の写真のような船で運ばれてきます。ちょっと見えにくいですが、船に載っている長方形の箱一つ一つがコンテナです。コンテナ船では日常雑貨品や、缶詰、野菜、肉、冷凍食品などいろいろなものがそれぞれコンテナに積み込まれ、コンテナ船に載せられて運ばれています。

仕様によってさまざまですが、ヨーロッパ発の主なコンテナ船の全長は約300m、幅は約40m、コンテナは高さと幅が約2.5m、長さが40フィート(約12m)のものと20フィート(約6m)のものがあります。40フィートコンテナですとワインを大体1,150ケース(13,800本)ほど詰めることができます。

コンテナにはいくつか種類があるのですが、ワインの輸送に使用されるコンテナには主に「ドライコンテナ」と「リーファーコンテナ」があります。ドライコンテナは鉄板1枚の、言ってしまえばただの箱で、リーファーコンテナとは壁面に断熱材を使い、コンテナ内部に冷却装置(冷凍機)を備えたコンテナのことです。

下の写真は40フィートのリーファーコンテナです。外側に見えているのが冷却装置で、内側の赤い丸の部分から冷気が出ています。+25℃から-25℃までの間で温度調整が可能です。外気温が設定温度より低い場合には自動的にヒーターが作動します。

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リーファー輸送とは?

ところで、最近ではバックラベルにリーファー(定温)輸送と記載されているワインも多く見かけるようになりましたね。ちなみにフィラディスのワインは最も安い価格のクオリティーワインも含め、全てリーファー輸送ということは皆さんもちろんご存知でいらっしゃいますよね?では「リーファー輸送」って何のことだかおわかりになりますでしょうか?

バックラベルによく記載されている「リーファー(定温)輸送」というのはこのリーファーコンテナを使用して輸送したという意味です。リーファーコンテナの海上運賃はなんとドライコンテナの約3倍!!冷却装置用に電気代が掛かりますし、コンテナ自体ももちろん高額。さらにリーファーコンテナは需要に対して不足気味ということもあって、どうしても高くなってしまいます。これだけの料金差があるために「リーファー輸送」と謳いながらも、実はドライコンテナで輸送しているインポーターも存在するという噂もあるみたいですね…。

ここがポイント!

輸送の流れに戻りましょう。ワインをコンテナに詰める作業が終わると、コンテナは港の埠頭にあるコンテナヤードへ移されます。そこで税関へ輸出申告をし、船積みを待ちます。フィラディスではこの移動の時もリーファーコンテナの電源をONにして定温輸送しています。リーファーコンテナだから当たり前と思われるかもしれませんが、実はこれはオプションのサービス(もちろん別料金…)!通常はリーファーコンテナを使っても冷却装置の電源を入れるのは船積みされてからなのです。

しかし、コンテナヤードまでの移動や、船積みを待つ間の温度管理も重要です。コンテナヤードには屋根がありません。だだっ広い屋外の駐車場のようなところと言ったらイメージして頂けるでしょうか。そんなところで船積みを待つのですから、いくら断熱材が使われていると言っても、冷却装置の電源を入れなかったら…!?ワインにとってはとても危険な状況なのはお分かり頂けますよね。

海上をリーファー輸送で運んでくるのは最低限のことで、実はそれだけでは全く十分とは言えず、むしろそれ以外の部分までどれだけ気を遣えるか、本当はそれがワイン輸送の鍵なのです。

次回は、【ワインの輸送の“ホント”を教えます!②海上輸送~国内倉庫編】をお届けします。

<鈴木幸恵プロフィール>
大学卒業後、日本通運に入社。航空貨物事業部に配属、主に国際航空貨物の輸出入業務に従事。その間、ワイン好きが高じてワインエキスパートを取得。その後渡仏。ワイナリー訪問に明け暮れる日々を過ごす。ワインを知れば知るほど、海外からの輸送時のコンディションがいかに重要であるかを痛感。これまでの国際輸送業務の経験を活かして、大好きなワインの仕事をしたい!と2007年フィラディス入社。現在はフィラディスの輸入貨物の全てを一手に担うワイン輸送のスペシャリスト。 酔うと声が大きくなる。

※写真提供 (株)商船三井

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熟成ワインの魅力(後編)

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前編では、ワインの熟成が単なる時間の経過ではなく、構造的・化学的な変容プロセスであることを解説しました。そこには、果実味やタンニン、酸などの要素が複雑に絡み合い、時間とともに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 もに香りや味わいの深みが増していく神秘がありました。 後編では、まずはワインの色調変化から解説し、長期熟成に適した品種や産地の特性を整理します。あわせて、品質を左右する熟成環境──保管方法や温度・湿度管理の要点についても、具体的に見ていきます。 4. 色の変化:時が刻むワインの色調の移ろい ワインの外観、特にその色調は、熟成度合いや健康状態を判断するための重要な視覚的手がかりとなります。熟成のプロセスは、ワインに含まれる色素成分(赤ワインではアントシアニン、白ワインではフラボノイドなど)が、酸化、重合、分解といった化学変化を経ることで、色調に顕著な変化を引き起こします。 赤ワインの色の変化: ・若年期(Young): 若い赤ワインは、紫や濃いルビーの色調を呈することが多く、鮮やかで密度の高い印象を与えます。特に若いカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーな

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熟成ワインの魅力(前編)

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「熟成」。ワインの世界において、この言葉は単なる時間経過以上の、複雑で深遠な意味合いを持ちます。若々しいワインが瓶の中で静かに変容を遂げ、新たな香りと味わいを獲得していくプロセスは、多くのワイン愛好家を魅了し、探求心を刺激してやみません。しかし、熟成の本質とは何か?どのような要素がワインに長期の熟成能力を与え、その過程でどのような変化が生じるのか?そして、そのポテンシャルを最大限に引き出すための理想的な環境とは? 今号と次号のコラムでは、ワインの熟成という多岐にわたるテーマを、6つの主要な側面から深く掘り下げていきます。熟成の基本的なメカニズムから、熟成ポテンシャルを持つワインの特徴、香りや色調の変化、品種やテロワールの影響、そして熟成環境を左右する保管方法まで、ワインが時を経て見せる神秘的な変容の核心に迫りながら、熟成の奥深い世界を探求していきましょう。 1. 熟成とは何か?:ワインが遂げる変容のプロセス ワインにおける「熟成」は、単なる「古くなること」とは一線を画します。それは、瓶という閉鎖された環境の中で、ワインに含まれる無数の化合物が、酸素との微細な相互作用や、互いの

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太陽光の重要性を探るー“あるかないか”ではなく“どう与えるか” (ソムリエ 織田 楽さん寄稿)

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「ワインは太陽の光に満ちた水である。―― Le vin est de l’eau emplie de soleil.」 これは、ワイン造りにおける太陽光の重要性を表したフランスのことわざです。 太陽の光がなければブドウ樹は成長せず、果実も実らず、そして熟すこともありません。光は光合成の必須要素であり、ポリフェノールの蓄積を促し、香り成分の形成にも深く関わっています。さらに、太陽がしっかりと降り注ぐ環境では湿度が低く保たれるため、カビによる病害の発生が抑えられ、健全な果実の収穫にもつながります。 しかし、太陽光の恩恵がブドウの品質にとって“絶対条件”だった時代と比べ、現代の多くの産地では状況が変化しています。今では、過剰な日射はむしろ品質を損ねる要因となり、世界各地で見られる「日焼け果」や「萎れ果」はその象徴的な例です。 本稿では、11月に筆者が訪れたチリのワイン産地でのインタビューを交えながら、太陽光がもはや単なる“恵み”ではなく、ブドウの品質を左右する「最適化すべき必須条件」となっている理由を探っていきます。 葉への作用―光合成 光・二酸化炭素・水を必要とする光合成におい

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