ワイン輸送の“ホント”を教えます!②海上輸送から入庫まで(輸入担当 鈴木幸恵)

ワイン輸送の“ホント”を教えます!②海上輸送から入庫まで(輸入担当 鈴木幸恵)
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前回はフランスからの船便を例に、ワイナリーでの集荷~船積みするところまでをお話ししました。 第1弾はコチラ   今回は第2弾として海上輸送~フィラディスの倉庫へ入庫するまでをお話ししていきたいと思います。


海上輸送について

さて、フランスを出発したワイン、日本までどのくらいで着くと思いますか?

飛行機だとたったの十数時間ですが、船便だとなんと約5週間。長い船旅です。ちなみに3年ほど前まではフランス北西部のル・アーヴル港から東京港まで4週間で来ていたのですが、原油の高騰、環境への配慮(CO2削減)を理由に各船会社とも船の速度を落として運行するようになり、以前より航海日数が伸びてしまいました。

ワインはコンテナに詰められて輸送されることは前回お話ししました。コンテナの種類についても詳しくお話ししましたね。ワインの輸送には主にドライコンテナとリーファー(定温)コンテナがある、ということでした。

近年ではワインの輸送にはリーファーコンテナを使用することが浸透してきました。しかし、まだまだ低価格帯のワインにはドライコンテナを使用しているところもあるようです。インターネットなどでも、ドライコンテナでも大丈夫と言われていたりします。

本当にドライコンテナでも大丈夫なのでしょうか?

フランスから日本への海上輸送は下の図のようなルートを通ります。(フランス北西部ル・アーヴル: Le Havre港発の場合)アフリカの喜望峰を通って赤道を2回超えると思われている方もいらっしゃるようですが、スエズ運河を通り赤道は超えません。

といっても赤道に近いところを1週間ほどかけて通ってきますのでドライコンテナでは外気温や直射日光の影響をそのまま受けてしまい、コンテナ内部の温度もかなり高くなってしまいます。直射日光があたる最上段では50~60℃にも達するそうです。当然ワインには大きなダメージを与えてしまいます。

ちょっとマニアック(!?)ですが、ドライコンテナでもアンダーデッキに積めば大丈夫!という説もあります。アンダーデッキとは船の甲板下の船倉内のことです。確かに甲板の上よりも温度の変化は少ないと言われます。

しかし、アンダーデッキをリクエストしたとしても、船会社から必ずそこに積むという確約はもらえないのです。コンテナ船は各コンテナを積む港、降ろす港、重量のバランスなどを考えて、燃料効率と積み降ろし作業の効率が最も良くなる場所にコンテナを積載するので、リクエスト通りに積んでもらえないことの方が多いのです。

またドライコンテナでは経由地での積み替え時にもリスクがあります。

南仏、イタリア、スペインからはシンガポールや香港などを経由するルートしかありません。シンガポールや夏場の香港など気温の高いところでの積み替えは危険ですが、この時もリーファーコンテナは船から降ろしてすぐに冷却装置の電源を入れた状態で積み替えを待ちます。ドライコンテナはそのまま屋根のないコンテナヤードで待機することになります。

このようなリスクを避けるため、フィラディスではリーファーコンテナを100%使用しています。大切なワインを守るため、当然のことと考えています。

なお、フィラディスではヨーロッパの気温が最も高い6月下旬~8月中旬には集荷をしません。船便では集荷から入庫まで徹底した温度管理をしていますが、それでも全てをコントロールしやすい日本と違ってヨーロッパでは何が起こるかわかりません。そのためこの時期はワインの輸送には適さないと考えています。

入庫の流れ

5週間の船旅を経て、いよいよワインが日本へ到着します。ワイナリーを出るところからしっかりと温度管理されて運ばれてきたワイン。日本到着後も通関用の定温倉庫へ搬入するまで気が抜けません。

リーファーコンテナで運ばれてきたワインは、コンテナのまま港近くの埠頭内にある定温倉庫へ搬入されます。倉庫への輸送の間もコンテナの冷却装置の電源をONにして温度管理をしています。倉庫に到着してコンテナからワインを出すときも、直射日光や外気温の影響を受けないように配慮しています。

前回、船に積み込むまでの温度管理が大切とお話ししましたが、同様に船から降ろした後もどのように温度管理をしているかが大切です。せっかくリーファーコンテナを使っても、日本に着いてからは常温での輸送、常温倉庫での保管では意味がありません。

倉庫への搬入が済むと、厚生労働省への食品申請、税関への輸入申告、倉庫会社による検品、輸入者ラベル貼りを行ない、日本到着から約1週間後、ようやくフィラディスの専用倉庫へ入庫となります!フランスのワイナリーを出てからはなんとここまで約8週間。ようやく皆様の元へお届けすることができます。

なおファインワインに関しては、出荷できるのはさらに少し先になります。なぜなら入庫してからフィラディスの社員による検品があるからです。この検品では1本1本の状態を熟練したスタッフがチェックしています。お待ち頂いているお客様へ少しでも早く商品をお届けしたいのですが、この作業はどうしても欠かせません。

では、実際にフィラディスで手配している輸送中の温度、公開します!

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これは10月14日にフィラディスの倉庫へ入庫した貨物の、輸送中のコンテナ内の温度をグラフにしたものです。フィラディスでは船積み前に貨物の一部に温度記録計をつけて、輸送中の温度を確認しています。

8月30日にコンテナにワインを詰めてから10月14日に入庫するまでの温度は15℃前後に保たれているのがお分かり頂けますね。ちなみに9月22日にシンガポールに寄港していますが、そのあたりでもしっかり15℃前後を保っています!また船が日本に到着した10月5日からワインが入庫した10月14日までもしっかりと15℃前後をキープしております。
(※10月7日に19℃まで上がっていますが、写真撮影用に私が温度記録計に触った為です。)

航空便の場合

最後にもう一つの輸送手段、航空便についても触れておきましょう。船便より航空便の方がワインを輸送するのによいと聞いたことはありませんか?

航空便の場合、ワイナリーから集荷して現地の空港内の倉庫で税関申告、その後航空機に搭載されます。成田空港に到着後、空港内の倉庫で税関申告を行ない、その後横浜にあるフィラディスの専用倉庫へ搬入されます。

航空便のメリットは何と言っても輸送期間が短期間であることです。集荷からフィラディスの倉庫へ入庫するまではたったの5日間、そのうち航空輸送されている時間はたったの十数時間です。ワインへの振動の影響も少なくて済みます。

デメリットとしては、船便のリーファーコンテナのように正確な温度設定ができないことです。もちろん航空機の貨物室内に空調はありますが、15℃といったような指定はできません。

また空港には15℃の定温倉庫がないことが多く、税関申告や航空機への搭載を待つ間は一時的ではありますが常温での保管になってしまいます。

成田空港では4月~10月は15℃設定の保管場所を設置してくれるので、その時期はそれを利用しています。その為フィラディスではフライトに間に合うギリギリのタイミングで集荷し、空港内で長い時間保管されないようにしています。また航空運賃は高くなりますが、直行便しか利用していません。経由地での外気温によるダメージや別の航空機への積み替えによるダメージを防ぐためです。時期によっては念のため航空機の出発時間や到着時間が早朝や夜間のフライトをリクエストすることもあります。

気圧の変化も航空便のもう一つのデメリットです。航空輸送中の貨物室の気圧は0.8気圧と低いため、ボトルの中の空気が膨張して液漏れを起こすことがあります。また地上に降りた後は逆にボトル内の空気が収縮するためコルクが中へ引っ張られ、沈んでしまうこともあります。

さらに航空便の輸送費は船便より大幅に高く、このコスト高も大きなデメリットになります。

ここがポイント!フィラディスのワインの輸送

前回から2回に渡ってワイン輸送のお話をさせて頂きました。最後にもう一度、フィラディスがこだわっているワインの輸送時に重要なポイントをおさらいしましょう。

◆現地での集荷時からしっかりと温度管理をする。リーファートラックを使って集荷を行い、定温倉庫で保管。

◆海上輸送にはリーファーコンテナを使用する。船積み前にワインをコンテナに詰めるところから冷却装置の電源を入れて温度管理をすることで、船積み時の外気温、直射日光によるダメージを防ぐ。

◆日本到着後もコンテナで温度管理したまま、国内の定温倉庫へ搬入する。コンテナからワインを降ろす際にも外気温や直射日光の影響を受けないようにする。

◆リーファートラックやリーファーコンテナの調達がきちんとでき、信頼できるフォワーダー(国際輸送業者)を選ぶ。

◆航空便では空港の倉庫に長時間保管させない。日本まで直行便を利用する。

◆船便でも航空便でもヨーロッパが最も暑い6月下旬~8月中旬には集荷を行なわない。

このようにワインの輸送はリーファーコンテナを使えばよいとか、航空便を使えばよいといった単純なことではなく、どの輸送方法でも輸送中一貫してワインへのダメージを防ぐための細かな配慮が大切なのです。

皆さんの知識の復習&リフレッシュにお役に立てましたでしょうか?ワイン輸送についてまだまだ間違った情報も氾濫しています。ぜひ正しい情報を広めていって下さいね。

※写真提供 (株)商船三井

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